▼書評 『女たちの王国-結婚のない母系社会」中国秘境のモソ人と暮らす』

女たちの王国女たちの王国-「結婚のない母系社会」中国秘境のモソ人と暮らす

著者 曹惠虹
訳者 秋山 勝
出版社 草思社
発行 2017 12/22






《女児の誕生こそ慶事、しかし》
読書の醍醐味のひとつはさまざまな国を書籍で旅することであると思う。「結婚がない、母系社会、中国秘境」とまさにタイトル買いした書籍です。秘境の国の書籍を読んで自己満足??と問われれば、日本もかなり関係していたのです。それが、「薬」と「食」。

本書の舞台はヒマラヤの東端、中国雲南省と四川省の境にある美しい「ルグ湖」のほとりに「モソ人」と呼ばれる純粋な「母系社会」を守り続けている土地です。訳者の秋山氏によれば現在人口は4万人ほどであるから小職の暮らすスケッチの街・小諸市と同規模ということです。なんと、著者は家まで建築しもう何年も住み着いてしまったのです。その著者はアメリカ、ロンドン等でキャリアを重ねシンガポールの法律事務所の共同経営者(パートナー)の一人となった元企業弁護士です。男性原理がはびこる社会に疑問を持ち、リタイアした著者が中国を旅をすることからストーリーは展開します。

例えば、中国の一般ではこんな光景が見られるというのです。著者の友人で潮州語を話す方のご家庭の光景は、家父長の権威があり夕食が並べられたとき、テーブルに向かっていたのが男性で、時間をかけて夕食を楽しんでから男性が立つと、残りものを食べるために女性が席につく。その証左が中国の出生比率です。女児の出生100に対して男児は120に近い数字です。モソの社会ではこんな公平に欠いた扱いは決して受け入れられるものではないのです。

そして、考古学者が示すように、女神崇拝の例でたくさん見つけてきました。エジプトの女神エシス、南インドのパールヴァティー、ロシアの地母神ペレギーニ..etcモソ人では祖母に威厳があり、その娘、孫娘と代々直系の女性が「家長」になる完全なる「家母長制社会」です。

では、男性は??と当然なるわけですが、その象徴が「走婚」です。モソの女性にとって男性は精子提供者となる可能性を秘めている者であると同時に、日々の苦役から逃れる脱線なのです。この男性を「アシア」というそうです。「走婚」とは終生に及ぶ一夫一婦とは無縁であり、愛情生活の実態に言及したものです。男は歩いて恋人の家を訪ねて夜をともに過ごすと、翌朝自分の母方の家へと帰っていくのです。つまり、夫も妻も存在しないのです。この世界では男性はアピール活動に必死と窺うことができるでしょう。さらには現在の中国とは真逆です。

そして、著者はモソの女性の生き方について、共通する一本の糸の側面が垣間見えたと言います。

モソの人の母親にとって娘の賢さが一番大切な資質であるのは、時いたれば小さな娘が母親の家を仕切る手綱を引き継いでいくからです

上述の著者の友人のような家父長の権威や長子相続の理念もありません。女性3人の子がいればいちばん仕事ができ頭がいい、末っ子でも後継者選びを重んじます。平等主義にもまさる祖母の存在なのです。

また、モソの社会の問題提起は4つあります。
①:世界中が家父長制度という大海があって、女性中心の社会が存在する点
②:自信に溢れた個人としての最大の可能性が発揮できるまで、女性を育て、能力を伸ばしていける環境を築き上げることができる。
③:社会の第二階級にいる女性を最重要地点まで引き上げる。
④:私(著者)と同じように独身であることの喜びと名誉を知ることができる。

と。中国の家父長制や弁護士時代のやるせない感情にもボクはみえました。モソの社会では母系に関する親族の用語が68語に対して、女性が産む子どもに遺伝子を提供するアシアに関連する親族の用語はわずか5語にすぎず、13対1で母系が圧倒的だそうです。

しかし、モソの社会でもグローバル化の波が怒涛の如く押し寄せているのです。2012年にはこの王国に150万人の観光客が訪れ、翌年にはルグ湖飛行場も開港しています。中国の最先端の社会、文化が浸透するモソの社会。今では8割の若者が、憧れの大都市に向かって土地をあとにしているのです。

モソ男性は農場の軽作業あるいは採集や狩猟など携わってきましたが、現金経済で新たな仕事が収入の違いをもたらし生産性に勝る家族のメンバーは、稼ぎが劣るほかの家族との等分をひどく嫌うようになったのです。スマホ、観光の一環の賃貸収入等この波は止めることなどできないでしょう。モソの人々が収穫した「松茸(ソーン・ローン)」は日本の築地市場に翌日届くように輸出されています。

対して、我が国の現状を考えるきっかけにもなります。少子・超高齢化社会です。AIが解決策にとおっしゃる方もおりますが、生身の人間の意味でどうなのでしょうか??

二千年の前からの母系社会に伝統文化のその先、そしてモソの社会に残る家族の絆、恋愛、労働分担、相続、死生観etc..さらには元弁護士の力量を発揮する著者と、本書をご一読いただいた個々人がさまざまな感情を持ち得る書籍だと思います。

皆様も是非手に取って下さいませ。

:冒頭の薬とは薬草です。製薬産業の薬草の3分の一の供給を中国・雲南省に頼っている現状です。