▼書評 『人類の進化が病を生んだ』
人類の進化が病を生んだ
著者 ジェレミー・テイラー
訳者 小谷野 昭子
出版社 河出書房新社
発行 2018 01/30
久しぶりに難解な書籍を手にしました。癌を患うのは何で??寿命が延びたからでしょう!!そう言われればそれまでなのですが、本書は「進化医学」というアプローチから新たな治療法にも目を向けております。本書を通して「ウイルスがヒトの進化をさせた」とも捉えられると思っております。本書の残念なところは、では具体的に一般読者は何をしたら??または何をしなければ??という記述があまりに少なったのが残念です。それが本書の趣旨ではないのでしょう。それでも有意義な時間となりました。そして著者はBBCのシニア・プロデューサーetc..で科学番組を手掛けられてきたそうですが、昨年膵臓がんのためお亡くなりになられてそうです。
では、本書の趣旨は
というものです。「進化医学」の4人のパイオニア、ランドルフ・M・ネシー、スティーブン・スターンズ、ディダハリー・ゴヴィンダラジュ、ピーターエリクソンらは、進化医学について次のように説きました。
①:進化は健康ではなく生殖の成功を最大化するように働く。従って生き物は「引き換えの代償と制約をたくさん抱えた妥協の産物の集合体」=拮抗的多面発現=「若いときあなたを生かすものは、歳をとってからあなたを殺す原因になる」
②:生物学的進化は文化の変化と比べて圧倒的に遅い。そのため、環境の変化に身体が追い付かないというミスマッチが病気を引き起こす。
③:ヒトの病気の大半は遺伝子のバリアント(DNAのスペクトル違い)の多くはそれ単独ではなく他の遺伝子や環境の相互作用して病気を引き起こす。つまり、病気も体調不良も人生においては不可避な現実の一部であるというものです。
本書では第一章「自己免疫疾患とアレルギー」、第二章「不妊症」、第三章「腰痛」、第四章「眼の病気」、第五章「癌」、第六章「心臓病」、第七章「アルツハイマー病」の構成です。
たとえば、とりわけ先進国の「腰痛」は深刻である。米国の勤労者を悩ます病の第2位である。因みに一位は「風邪」です。米国だけでも毎年2000万人が腰痛のために病院を訪れております。本書ではそもそも二足歩行はいつから、何のために??という切り口からスタートします。アウストラロピテクス属の一部が少なくとも3500万前にすでに洗練された二足歩行をしていたことを明らかにし、それも直立歩行は森の中で獲得したというものです。
チンパンジーにとって、四足であろうと二足であろうと移動のコストに関して現代人はチンパンジーの75%にすんでいます。さらには、ヒトの脊柱は非常にうまくできていて、とりわけ筋骨格は、課される負担を対処するために時間をかけて機能的に型式変更されています。筋肉、骨、軟組織は恒常的に負荷を受けて強くなります。これが、重いものを持ち上げることを仕事にしている人たちにも必ずしも腰痛が発生しない理由の一つです。
歳をとると背が低くなるのは、そもそも直立不動するように設計されているわではなく、その姿勢は椎間板の後部と神経弓に負担が集中します。椎間板の変性にともなって椎間板どうしの距離が縮まり、椎間関節にさらに圧力がかかることによります。では、メリットは何??世界的なテニスプレーヤー、マリー選手や錦織圭選手のようにテニスラケットを操る選手はボク達より35%も多く骨がある一方、仮に6カ月寝たきりになれば骨の15%も失ってしまうそうです。
では代償は何でしょうか??その一つが骨粗鬆症です。見事なヒトのS字カーブですが曲がりやすく柔軟だということは、薄く細長く、スカスカを意味し優れた衝撃吸収材になる海綿骨のこの性質が骨粗鬆症のリスクを高めます。さらには脊柱側弯症は、ヒトが二足歩行を完成させた直後から脊柱を苦しめてきたそうです。
そもそもヒトはなぜ二足歩行に拘ったのか?もう一つの視点が「筋繊維」です。捕食者と被食者の関係から持久戦でボク達の祖先は獲得の大型哺乳類を消耗させ追い詰めました。ヒトの脚筋はタイプ1(弛緩酸化型)とタイプ2b(急速糖分分解型)とタイプ2a(急速酸化型)の比率が見事50%の構成比です。ガゼルを追いかけるチーターは、タイプ2の圧倒的に多く、42.195㎏の長丁場は困難です。
腰痛のリスクを回避は、本書においてハーヴァード大の進化生物学教授のE・リーバーマンが提示しています。アスリートランナーの30~70%が毎年、反復ストレス損傷を起こしていることに気が付き、固い厚底、裏足サポート、回内運動etc..の動きを抑制する特性を備えた靴は、本来なら受けるべきストレスに筋肉や骨が適応するのを妨げている恐れがあるといいます。超加工食品ばかり食べていると咀嚼力とあごの筋肉が弱くなるのと同じ原理だ。扁平足も同様だと。
また、第4章の「眼の病気」の記述には日本の理化学研究所発、眼の研究が広まっております。前後しますが、第二章の「不妊症」の項では「母と子」の「親子の対立」理論も非常に読み応えもありましたし、第五章の「癌」ではど肝を抜かれました。
「進化医学」というアプローチは医者の診断などに必ず役立つと小職は信じております。また、本書を通してこの類の書籍を読むには「進化」と「医学」の両面に力不足だったと痛感させられました。それでも、本書にしかない知見があり満足しております。
「進化医学」にご興味のある方は是非手に取って下さいませ。
人類の進化が病を生んだ
著者 ジェレミー・テイラー
訳者 小谷野 昭子
出版社 河出書房新社
発行 2018 01/30
久しぶりに難解な書籍を手にしました。癌を患うのは何で??寿命が延びたからでしょう!!そう言われればそれまでなのですが、本書は「進化医学」というアプローチから新たな治療法にも目を向けております。本書を通して「ウイルスがヒトの進化をさせた」とも捉えられると思っております。本書の残念なところは、では具体的に一般読者は何をしたら??または何をしなければ??という記述があまりに少なったのが残念です。それが本書の趣旨ではないのでしょう。それでも有意義な時間となりました。そして著者はBBCのシニア・プロデューサーetc..で科学番組を手掛けられてきたそうですが、昨年膵臓がんのためお亡くなりになられてそうです。
では、本書の趣旨は
いくつかの病態について進化的背景を探り、そもそもなぜそんな病気があるのか、進化こそが人体の構造と機能の駆動力になっているという新たな景色をお見せしたい
というものです。「進化医学」の4人のパイオニア、ランドルフ・M・ネシー、スティーブン・スターンズ、ディダハリー・ゴヴィンダラジュ、ピーターエリクソンらは、進化医学について次のように説きました。
①:進化は健康ではなく生殖の成功を最大化するように働く。従って生き物は「引き換えの代償と制約をたくさん抱えた妥協の産物の集合体」=拮抗的多面発現=「若いときあなたを生かすものは、歳をとってからあなたを殺す原因になる」
②:生物学的進化は文化の変化と比べて圧倒的に遅い。そのため、環境の変化に身体が追い付かないというミスマッチが病気を引き起こす。
③:ヒトの病気の大半は遺伝子のバリアント(DNAのスペクトル違い)の多くはそれ単独ではなく他の遺伝子や環境の相互作用して病気を引き起こす。つまり、病気も体調不良も人生においては不可避な現実の一部であるというものです。
本書では第一章「自己免疫疾患とアレルギー」、第二章「不妊症」、第三章「腰痛」、第四章「眼の病気」、第五章「癌」、第六章「心臓病」、第七章「アルツハイマー病」の構成です。
たとえば、とりわけ先進国の「腰痛」は深刻である。米国の勤労者を悩ます病の第2位である。因みに一位は「風邪」です。米国だけでも毎年2000万人が腰痛のために病院を訪れております。本書ではそもそも二足歩行はいつから、何のために??という切り口からスタートします。アウストラロピテクス属の一部が少なくとも3500万前にすでに洗練された二足歩行をしていたことを明らかにし、それも直立歩行は森の中で獲得したというものです。
チンパンジーにとって、四足であろうと二足であろうと移動のコストに関して現代人はチンパンジーの75%にすんでいます。さらには、ヒトの脊柱は非常にうまくできていて、とりわけ筋骨格は、課される負担を対処するために時間をかけて機能的に型式変更されています。筋肉、骨、軟組織は恒常的に負荷を受けて強くなります。これが、重いものを持ち上げることを仕事にしている人たちにも必ずしも腰痛が発生しない理由の一つです。
歳をとると背が低くなるのは、そもそも直立不動するように設計されているわではなく、その姿勢は椎間板の後部と神経弓に負担が集中します。椎間板の変性にともなって椎間板どうしの距離が縮まり、椎間関節にさらに圧力がかかることによります。では、メリットは何??世界的なテニスプレーヤー、マリー選手や錦織圭選手のようにテニスラケットを操る選手はボク達より35%も多く骨がある一方、仮に6カ月寝たきりになれば骨の15%も失ってしまうそうです。
では代償は何でしょうか??その一つが骨粗鬆症です。見事なヒトのS字カーブですが曲がりやすく柔軟だということは、薄く細長く、スカスカを意味し優れた衝撃吸収材になる海綿骨のこの性質が骨粗鬆症のリスクを高めます。さらには脊柱側弯症は、ヒトが二足歩行を完成させた直後から脊柱を苦しめてきたそうです。
そもそもヒトはなぜ二足歩行に拘ったのか?もう一つの視点が「筋繊維」です。捕食者と被食者の関係から持久戦でボク達の祖先は獲得の大型哺乳類を消耗させ追い詰めました。ヒトの脚筋はタイプ1(弛緩酸化型)とタイプ2b(急速糖分分解型)とタイプ2a(急速酸化型)の比率が見事50%の構成比です。ガゼルを追いかけるチーターは、タイプ2の圧倒的に多く、42.195㎏の長丁場は困難です。
腰痛のリスクを回避は、本書においてハーヴァード大の進化生物学教授のE・リーバーマンが提示しています。アスリートランナーの30~70%が毎年、反復ストレス損傷を起こしていることに気が付き、固い厚底、裏足サポート、回内運動etc..の動きを抑制する特性を備えた靴は、本来なら受けるべきストレスに筋肉や骨が適応するのを妨げている恐れがあるといいます。超加工食品ばかり食べていると咀嚼力とあごの筋肉が弱くなるのと同じ原理だ。扁平足も同様だと。
また、第4章の「眼の病気」の記述には日本の理化学研究所発、眼の研究が広まっております。前後しますが、第二章の「不妊症」の項では「母と子」の「親子の対立」理論も非常に読み応えもありましたし、第五章の「癌」ではど肝を抜かれました。
「進化医学」というアプローチは医者の診断などに必ず役立つと小職は信じております。また、本書を通してこの類の書籍を読むには「進化」と「医学」の両面に力不足だったと痛感させられました。それでも、本書にしかない知見があり満足しております。
「進化医学」にご興味のある方は是非手に取って下さいませ。
このブログにコメントするにはログインが必要です。
さんログアウト
この記事には許可ユーザしかコメントができません。