▼書評 『植物はなぜ薬を作るのか』

28253980_1植物はなぜ薬を作るのか

著者 斉藤 和季
出版社 文藝春秋
発行 2017 02/20


本書は、植物が化学防衛のために作っている毒性成分にかんする書籍です。

野菜をつくって生業にしているため、必然的に動植物本が多くなり、行き着く先は『6度目の大量絶滅』です。何か特効薬がないかボクは頭が痛いです。さて、植物のもつ成分を薬として人類が利用してきたのは周知の事実です。著者は千葉大学大学院の薬学研究院長に籍を置き、薬に携わりこの道40年のスペシャリストです。「ITの次は、バイオビジネス」と叫ばれたのをボクは思い出しましたが、著者のもとへは、次のような質問が産業界・官界、行政関係より多いといいます。

「国民の健康長寿への関心が高まっていますので、副作用のない生薬や植物成分の研究開発支援など関心があります」etc..ほんの一例である。

しかし、本書をご一読していただければお分かりになるように、植物は進化の過程で地球をよごさない緑の精密化学工場を発達させてきました。人類はその仕組みを解明して人工的に生産し、有用な物質をボクらのために使っているのです。植物が人類に対してではなく、人類は植物を利用させていただいて、薬ばかりでなく、香料、色素、化学品原料、繊維、工業原料etc..生活を広く支えているのです。著者いわく、本書は

もの言わぬ植物からの伝言メッセージ であると。

ところで、この地球上には何種の植物数が存在するのでしょうか??種子植物あるいは顕花植物という花が咲いて種子をつける植物について考えた場合、22万~26万種と考えられています。その内、化学成分の生物活性が一部でも調べられているのは植物種全体の10%にすぎません。ただ、一種の植物種だけに含まれる、種特異的な化学成分は、平均して4.7個あると推定されるといいますから、普段お薬を常飲している方には、より身近に感じられるのではないでしょうか?それでも、新薬を開発するには、地道な並々らなぬ努力が必要です。残り90%が調べられておりませんので、まだまだ開発の余地ありです。

進化のなかで、緑の精密化学工場を発達させてきた植物ですが、それは植物が持つ防御物質と薬が持つべき性質とが共通しているに他なりません。次に述べる2つです。①「生物活性」と②「豊富な化学的多様性」です。例えば、①「生物活性」では、ワサビや西洋ワサビは「イソチオシアネート」という非常に辛い成分を生成しますが、昆虫に接触された時にだけ、この特異的な成分を発生させます。その忌避作用によって植物は身を守っています。人は、この「イソチオシアネート」の一種にブロッコリーに含まれるスルフォラファンがあり、この成分を利用することにより発がん性作用を抑制したり胃がんの原因となるピロリ菌を抑える作用に役立てております。

そこで、昆虫にとって毒の成分が植物はなぜ、自らの毒に耐えられるのでしょうか??本書で是非ご確認下さい。

ボクが非常に興味を持った点は、近年叫ばれて久しい遺伝子組換え植物です。例えば、トマトは生育時の天候(環境変化=千葉で採れたトマトと寒冷地の長野で採れたトマトでは違いがあります)によって色や味、香りなどが変わりますが、栽培環境の変化のほうが遺伝子組換えによる成分変化よりもはるかに大きいそうです。

「適地適作」に敵うものなしを如実に物語っております。今欧米で、がん予防になるといわれる野菜を利用しジュースでの商品化が進められていることや、現在臨床の現場で使われている抗がん剤のうち4つは植物に由来しているといいます。

植物は、太古の昔から現代に至るまで、地球を汚さず有用な化学物質を作り出し、最も高度に設計され物質生産機能と浄化機能を兼ね備えたまさに理想的な精密化学工場です。その働きは、この地球の持続可能性を支えております。植物をもう少し、あたたかな目で見つめ直す。

著者は、その点を本書で問いかけたとボクは思います。草花が芽吹く季節、本書をぜひ手に取ってみて下さい。

【関連書籍】
たたかう植物: 仁義なき生存戦略 (ちくま新書)
著者 稲垣 栄洋
出版社 筑摩書房
発行 2015 08/10
 



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