▼書評 『外来種は本当に悪者か?』-新しい野生 THE NEW WILD

27921115_1外来種は本当に悪者か? 新しい野生 THE NEW WILD

著者 フレッド・ピアス
訳者 藤井 留美
出版社 草思社
発行 2016 07/20


皆さまもご存じのようにイギリスのEUの離脱がビックニュースとなりました。そのひとつの焦点となったのが「移民」に対する考え方でした。さて、本書は人間以外の動植物の外来種の徹底した取材と昨今、叫ばれている「生物多様性」を含め環境保護に対する正しい考え方が見解されています。生物多様性と聞いて、ボクが真っ先に思い浮かぶ場所が2カ所あります。①:南北朝鮮の軍事境界線は、「世界自然遺産」に登録できるほど自然が溢れており、②:チェルノブイリの避難区域では今では、野生動物の天国と化しています。本書では、②が記述されています。

外来種のボクのイメージは文字どおり「よそ者」扱いしていたのが、正直なところです。著者のように何も研究していないのにイメージ先行だった点は否めません。在来種=善、外来種=悪を決めつけていたのですね。近年の気候問題も「昔はこんな陽気ではなかったとか・・」そう知らず知らずのうちに、何やら変化=悪のような感情になっていました。すべてがすべてではないですが、本書をご一読していただければ、過去の自然を取り戻すこと自体、自然に対する冒瀆でもあることがお分かりいただけると思います。

最新の研究報告では、アメリカの生態系には約5000種の外来種がいて、全体の3分の1を占めています。フロリダ州にはそのうち約900種、カリフォルニア州には実に3000種が生息しているそうです。他方、絶滅した種はごくわずかで、生物多様性は間違いなく高められていると言えそうです。この問題に挑んだ著者は、この20年で取材した国はフットワークも軽やかに80カ国にのぼり環境問題・開発をテーマに研究を重ねてきました。そして、行き着いたのが「エコロジカルフィッテング」というとらえ方です。これは、外来種も新しい生態系にぴたりフィットし、未知の環境に入り、栄養を確保するという手段を見つけて、新しい自然の中で関係を築いていく。偶然の積み重ねで、複雑な生物相が形成され、発達していくことを意味します。

ボクが、この書籍で新たな知見を得たのは「バラスト水」です。グローバル時代を言われ久しいですが、世界を貨物船やタンカーが行き交います。空荷の際に重しとして積むのが、「バラスト水」です。その水は行き先の港で排出されます。その水には、植物の種、プランクトン、バクテリアと7000種以上もの生き物が海を旅しているそうです。そのバラスト水が一番排出されているのがサンフランシスコ湾ですので、外来種も行かっているわけです。海だけではなく、風も同様です。アフリカからカリブ海に飛んでくる砂塵には、130種の病原体が混じっている報告もあります。

また、変に環境保護に偏った見解をされる方は、本書で確認しますと一歩二歩と踏み込んだ研究がなされていないというのがボクの感想です。例えば、世界最大の熱帯雨林のひとつ、アマゾンさえ、つい500年前までは都市とその郊外でした。そう一度は伐採されていて、「原生林」ではなかったのです。

さらには、アイスランドの南方30キロメートルほどの場所に突如、1963年に島が出現しました。その島は、〈ツルチェイ島〉です。まずは、可憐なシーロケット(オニハマダイコン)花を咲かせ、大西洋をはさんで、ヨーロッパ大陸とアメリカ大陸においての鳥の絶好の中継地となりました。今では、植物と地衣がそれぞれ60種、昆虫300種、確認されています。ツルチェイ島の面積の約60%を占める生物は、ハマハコベの多年草である。

つまるところ、環境破壊はボク達人類の責任であり、また「適者生存」というより「自分は自分 人は人」というこの偶然の産物で伸び伸び生きているのが大自然であろう。それを後押しするのが、ボク達人間であって決してハワイの北のプラスチックスープの海にしてはならいないということだ。

本書の解説は、書籍『「奇跡の自然」の守り方』の著者・岸 由二氏である。大自然にテーマにした本書は、今年の夏イチ(夏の一冊)におススメです。