■書評 『日本海』-その深層で起こっていること

27665729_1日本海-その深層で起こっていること

著者 蒲生 俊敬
出版社 講談社ブルーバックス
発行 2016 02/20




《世界の海のミニチュア版・日本海》
『海は広いな♪大きいな♪』という歌詞がありますが、本書のタイトルでもある「日本海」は全海洋面積0.3%、体積おいては全海洋面積の0.13%だそうです。話は多少逸脱致しますが、「親しき中にも礼儀あり」に「日本海」を喩えることができるかも知れません。例えば、太陽と地球の距離、夫婦間、友人関係、日本海は、ある意味“奇跡の海“だったのです。それをコンパクトにさらには平易にまとめ上げたのが、信州・上田出身で、これまでの乗船回数1740日に及び、現在は東京大学の化学海洋学を専門とする著者の蒲生氏です。

前述したように、全海洋の僅か0.3%。日本列島の人口比率で言えば、表の太平洋、裏の日本海そんなイメージが強いと思います。学校の授業で教わった太平洋ベルトは、良い一例です。北陸新幹線開通に伴い、日本海も俄然注目を浴びているのは周知の事実です。しかし、海の幸といえば、富山の昆布、兵庫の松葉カニ、下関のフグ、秋田県の県魚・ハタハタ、さらには日本が誇る、お米「コシヒカリ」は福井県で開発されました。これら、全て「日本海」が関連しております。

「プレートテクトニクス」により世界の大陸は数億年ごとに超大陸にまとまったり、はなれたりと「バンゲア」を繰り返しています。書籍「ダイヤモンドは超音速で地底を移動する」によれば、今から約2億年後にすべての大陸がくっつくとされています。さて、「日本海」の誕生は、約2000~1400年前にその形成が終了したことが「残留磁気」によって明らかにされています。何故この時期に?パッと頭に浮かんだ方も多いと思いますが、ちょうど、インド亜大陸がユーラシア大陸に衝突しヒマラヤ山脈ができた時期と合致致しますね。

現在のロシアから逆輸入で命名された「日本海」はこうしてできたのです。そのユーラシア大陸との距離が冒頭で述べたように絶妙な距離感なのです。最大水深は、富士山とほぼ同様で、①:太平洋とは異なり、外部の海とつながる海峡が極めて狭く、地形的閉鎖性が強い、②:対馬暖流がつねに流れ込み、③:冬季に北西季節風が吹き抜けています。②+③により日本海の海水は上下にかき混ぜられ、密度の高い表面海水が沈み込み、これを「熱(温度)と塩(塩分)がコントロールする循環」という意味で「熱塩循環」といいます。①は、大量の海流を蒸発させて淡水をつくる貴重な「増水装置」の効果があります。

また「日本海」固有の現象があります。一般に海水の温度はどこでも深くなるにしたがって低下しますが、日本海では、その勾配が急で表面が16℃の水面時、水深200~300メートルでは1℃になり、深度1000メートルでは0℃、それより深部はほとんど変化しないそうです。よって文字通り、学術の世界でも「日本海固有海水」といい、世界の海洋学者からも注目を集めています。そして、日本海低層水(2000メートル以下)は幅がありますが、約100~200年の年齢で、日本海の中央部には「大和堆」が存在し「大和堆」を中心にウラジオストクから日本海盆、大和海盆、対馬海盆を反時計回りに100~200年程度で一巡しているそうです。

しかし、「ミニ海洋」と称される日本海においても異変が起こっています。それが地球温暖化です。冬季のウラジオストクでは、この100年で平均気温が3~4℃上昇し、この現象は「金沢」についても同様です。1960年からのデータですがこれにより、年間積雪量は減少しましたが、年間降雨量は変化しておりません。ここが重要なのです。雨は直ぐに蒸発してしまいますが、雪は岩などに流れ込み、雪解けの天然水やお米の味にも影響を及ぼします。詳細については、本書に譲ります。

産業革命を経て近代へ。さらには、グローバルの時代へと。大都市圏の水と食料を支えてきた日本海側の雪を前提とした水資源。海洋の生態系への影響も当然危惧されます。僅か8000年前までは「黒海」同様に“死の海″だった日本海。かつては、日本海へ1万3357本も海洋調査のために、放流を行った学者もいました。先人たちの努力の礎のもと、日本海の現状を把握できるボク達日本人。

いまでは、世界の海の縮図かもしれません。是非、地球温暖化の問題も含め「母なる海」、「ミニ海洋」の異名を持つ本書を手にしてみて下さいませ。

また、太平洋側は、「黒潮」でおなじみですが、書籍:「チェンジング・ブルー」を併読していただければ、より一層日本を取り巻く海にかんして詳細を知ることができると思います。