■書評 ハトはなぜ首を振って歩くのか

26719530_1ハトはなぜ首を振って歩くのか

著者 藤田 祐樹
出版社 岩波科学ライブラリー
発行 2015 04/17



そそられるタイトル本である。鳥といえば「飛ぶ」。その能力があることを大前提に考えがちである。しかし、著者はまさに科学者魂。多くの人が知りたいことを調べる。それも科学の一つの役割だ。前述したように、多くの鳥たちにとって空を飛んでいる時間は必ずしも多くないのだ。従って、ハトやスズメはどちらかといえば地上を歩いている姿のほうが目につく。地上を『歩く』ことも、彼らにとって重要なことである。

著者は、鳥の『歩行』の研究をしている第一人者といってもいいだろう。そう、飛行ではなく歩行である。その前にまずは、「動く」ことが最重要である。それは、生きなければならない。「栄養摂取」である。そして、捕食者から逃げることも重要なファクターだ。食べられないことも動物界では生死をかけて行われる。例えば、蝶のひらひらとした不規則な飛び方は、鳥の動きを予測して難しくしているといわれている。さらには、子孫を残すためにも。

さて、本題に移ろう。今から約半世紀も前のこと。ハトがピョコピョコと首振りを起こす条件を考えた実験が行われていた。その結果は、脚を動かすと首まで動いてしまうわけでもなく、体の移動を感じるから首を動かすでもなく、景色が動くから、ハトは首を振るのである。空間的には、ハトは前進で、内耳の三半規管は加速度を感じてもハトは首を振らないのだ。

では、何故?首を振るとピョコピョコと首振りをするのであろうか?ハトが歩いていると頭の位置がぶれる。でも、頭ごと目のブレを止めてしまえば、景色が後ろに流れないから、じっと眺めていられる。まず、ハトは首を突き出し、脚をけって体が前に動くのに合わせて、さらに首を縮めていきます。これ以上は縮められないという限界が来たら、また前に動かす。これを繰り返します。

上述したように、ハトは景色が動くから「首を振る」。では、ボク達人間は、物や景色に目を向けると、目のレンズを透過した光が眼球の内側にある網膜に像を結び、網膜を構成する視細胞を刺激します。この刺激は、電気的な信号となって視神経を通じて脳に伝えられ、脳で何らかの情報処理が行われ、ボク達は、物や景色を認識しています。唐突ですが、ハトの目の位置を皆さんご想像下さいませ。横向きか斜めに向いています。ボク達人間は前方を向き目をキョロキョロさせればいい。ハトは、片側の視野は169度だそうだ。これはヒトと大差ないが、全体として視野は広くて316度もある。その代わりハトは、左右の視野の重なる部分は、僅か22度しかない。

このように視野の重なる部分が僅か22度の影響でハトは、進化の過程において、他の島を含め首の骨の数が約12~13個で、ハクチョウに限って言えば23個もある。ボク達哺乳類は、因みにあの「キリン」の長ーい首を含め7個と決まっているそうだ。よって首振りを考えるうえで重要なのは、鳥が空を飛ぶ動物であり、長くてよく動く首と、頭のサイズに不釣り合いな大きさであまり動かない眼球を、セットでもっていることである。
端的に言えば、飛行する動物である鳥は、大きくあまり動かない眼球ではなく、もともと柔軟な首を動かす方法を選択したのだ。しかも体の回転運動を打ち消すタイミングで、しゅっとした首を前に出す。でもまだ、謎があるという。

さらには、鳥に限らず、動物の体には驚くほど関節があり、それを動かすたくさんの筋肉を必要とします。例えばハトの場合には、脛椎の数は13個、それを動かす筋肉はおよそ200個にのぼるという。これでは、いくらすばらしい情報処理能力を持っていても、とても計算しきれない。よってハトは、1歩につき一回首を振るのである。

また、本書では、「鳥類ハト化計画」と題して、餌の密度を一定にし、すべての鳥にハト化計画などの実験も記述されています。
本書をご一読いただき、動物園に行けば、きっと真っ先に『ハト』の動きを眺めたくなるのではないでしょうか!