▼書評 『すべての医療は「不確実」である』
すべての医療は「不確実」である
著者 康永 秀生
出版社 NHK出版
発行 2018 11/10
《医師が提案する治療法について疑問を感じたら「それは診療ガイドラインに載っていますか?」と尋ねてみること》
もっともな本書のタイトルであります。著者は臨床医を経て、研究医の道へ現在は東京大学大学院医学系研究科の教授で、専門は臨床疫学です。その「臨床疫学」とは、医療の不確実性に挑む科学であります。基礎実験データではなく、多くの患者たちの臨床データを集め、応用統計学を駆使して、より確実な医療とは何かを探索し続ける学問です。従いまして、本書において因果関係は非常に重要です。たとえば「AならばB」。Aが喫煙で、Bが肺がんというように、またAが薬剤でBが病気の治癒というように。この分析こそが、「臨床疫学」の真骨頂でもあるからです。
そのためには、「ランダム化比較試験」を行う必要があるわけです。たとえば、薬の真の効果を判定するために、対象者を治療群と対象群に振り分け、治療群には本物の薬(実薬)を、対象群には実薬と同じ色・形のプラシーボ(偽薬)を投与し、両群間で効果を比較します。このような「ランダム化比較試験」は、
というのが、本書の結論です。たとえば、近年では、フード・ファディズム(特定の食べ物にのめり込む一過性の流行)にこんなものがありましたね。京大がトマトに含まれる物質が脂肪肝や高脂血症を改善することを、マウスを用いた動物実験で明らかにしました。著者いわく、マウスの餌にトマトに含有されている物質を混ぜて飼育し4週間、その結果血中の中性脂肪濃度が約3割減りましたが、事実はそれ以上でもそれ以下でもないと断言しております。このような動物実験・細胞実験により誇張報道が繰り返され、かえって人々が不確かな情報に接する機会が増え、むしろ人々の医療に対するリテラシーを下げてしまうと危惧しております。よって
といいます。代替医療もしかりなのです。「代替医療」と呼び方自体が不適当だと著者は述べ、ヨーロッパでは「補完医療」と呼ばれております。気功、ヨガ、ホメオパシー、アロマテラピーなどの様々な民間療法のことです。ここでも研究成果を!!乳がん、前立腺がん、肺がん、結腸がんと診断され、一方が「代替医療」を一種類以上、他方が「通常医療」を受けた患者の治療後の健康状態を比較したところ、診断後5年以内の死亡率は、「代替医療」を選択した患者のたちの方が、通常医療を選択した患者の2.5倍以上だったそうです。
今この瞬間も真摯な医療従事者や研究者の方々は、「この苦痛少しでも和らげたい」などと日々研究に励んでいるわけですが、科学的根拠の基づいた、病気の治療法だけではなく、病気にならないための予防法については、「コクラン・ライブラリ」がとりわけおススメだといいます。世界の130カ国を超える3万以上の医学、医療の専門家の手によって信頼性の高い医療情報を提供している国際組織です。1992年に設立され、製薬会社や医療機器メーカーなど、営利組織からの資金提供は受けておりません。上述したような「〇〇療法が××に効く」などの健康食品の類は、しょせん食品であって、医薬品ではないことにご注意を。
全く著者のこの意見に小職は同意します。近年、とりわけFM・AMラジオやBSテレビのⅭMでの健康食品のⅭMが多すぎ、何やら胡散臭さを感じています。ゆえに、著者は
であるとも。では、どうすれば病気に罹患するリスクを減らせるのであろう?!①「バランスの良い食事」、②「腹八分目」、③「よく噛んで食べる」の3つが「健康によい食事法である」と。意外性がないとお感じかも知れないが、繰り返し述べますが、「〇〇だけ食べて健康に」「△△というスーパーフード」といったお手軽情報は、ほぼ無意味です。単一の食品による健康改善は期待できないということ です。
本書をご一読いただければ、医療は進歩してたといえ、「不確実」であり「リスク」の問題と如実に言い表せます。たとえば、「がん」ボク達日本人の男性の62%、女性の47%が、生涯に一度はがんにかかるというのです。2018年に京都大学の本庶佑氏がノーベル医学生理学賞を受賞し話題となりました。「チェックポイント阻害薬」は、がん細胞がT細胞免疫を抑制するのを阻害し、人体にもともとある免疫細胞の活性化を持続させることによってがん細胞を間接的に叩く薬です。ある程度の効果を上げているそうです。一方で、免疫チェックポイント阻害薬以外の免疫療法(免疫細胞療法やワクチンなど)にはこれまで科学的根拠なしということです。
また、誰しも気になる「認知症」については、「サプリメント」に予防効果があるものは存在するか問えば、答えは「ノー」のようです。さらには、「脳トレ」もノーです。しかも世界的に見れば、認知症が増加している地域は日本を含む東アジアなどに限られ、一方欧米では認知症リスクが過去25年間で減少しています。この原因ははっきりわかっておりません。
ただし、福岡県の久山町のコホート研究では、高血圧のある人々は正常血圧の人々と比べて、脳血管性認知症のリスクが3~5.5倍高くなることが明らかにされております。
日本政府は2017年9月に「人生百年時代構想会議」を設置しましたが、「人生百年」は90年後の話で、その予測すら正しいのかわからないとしております。著者の生業とする「科学的根拠」を得るには、実は膨大な資金を必要とするのです。そうであるならば、認知症を筆頭に〝今〝力を注ぐべきなのは介護の仕組みづくりが課題だとしています。
iPS再生治療にクリスパーキャス9などにより、医療はより進歩することでしょう。もちろん目が離せないわけですが、医師が患者に対して実践している本質は、ヒポクラテスの時代からあまり変わっていないといいます。人工知能には仕事をサポートしてもらい、最終的な診断とその責任は医師が負う。これが医師の本懐でもあると。
本書からは、最新の医療のさまが窺い知りえます。何か「医療について」疑問に思っていることがあれば、是非本書を手に取って下さいませ。
【関連書籍】

著者 康永 秀生
出版社 NHK出版
発行 2018 11/10
《医師が提案する治療法について疑問を感じたら「それは診療ガイドラインに載っていますか?」と尋ねてみること》
もっともな本書のタイトルであります。著者は臨床医を経て、研究医の道へ現在は東京大学大学院医学系研究科の教授で、専門は臨床疫学です。その「臨床疫学」とは、医療の不確実性に挑む科学であります。基礎実験データではなく、多くの患者たちの臨床データを集め、応用統計学を駆使して、より確実な医療とは何かを探索し続ける学問です。従いまして、本書において因果関係は非常に重要です。たとえば「AならばB」。Aが喫煙で、Bが肺がんというように、またAが薬剤でBが病気の治癒というように。この分析こそが、「臨床疫学」の真骨頂でもあるからです。
そのためには、「ランダム化比較試験」を行う必要があるわけです。たとえば、薬の真の効果を判定するために、対象者を治療群と対象群に振り分け、治療群には本物の薬(実薬)を、対象群には実薬と同じ色・形のプラシーボ(偽薬)を投与し、両群間で効果を比較します。このような「ランダム化比較試験」は、
最も厳密なデザインに基づく効果比較研究であり、科学的根拠(エビデンス)のレベルが最も高い
というのが、本書の結論です。たとえば、近年では、フード・ファディズム(特定の食べ物にのめり込む一過性の流行)にこんなものがありましたね。京大がトマトに含まれる物質が脂肪肝や高脂血症を改善することを、マウスを用いた動物実験で明らかにしました。著者いわく、マウスの餌にトマトに含有されている物質を混ぜて飼育し4週間、その結果血中の中性脂肪濃度が約3割減りましたが、事実はそれ以上でもそれ以下でもないと断言しております。このような動物実験・細胞実験により誇張報道が繰り返され、かえって人々が不確かな情報に接する機会が増え、むしろ人々の医療に対するリテラシーを下げてしまうと危惧しております。よって
「〇〇療法でがんが消えた」などの体験談にすぎないものが科学的に根拠にを得ることは、これからもないだろう」
といいます。代替医療もしかりなのです。「代替医療」と呼び方自体が不適当だと著者は述べ、ヨーロッパでは「補完医療」と呼ばれております。気功、ヨガ、ホメオパシー、アロマテラピーなどの様々な民間療法のことです。ここでも研究成果を!!乳がん、前立腺がん、肺がん、結腸がんと診断され、一方が「代替医療」を一種類以上、他方が「通常医療」を受けた患者の治療後の健康状態を比較したところ、診断後5年以内の死亡率は、「代替医療」を選択した患者のたちの方が、通常医療を選択した患者の2.5倍以上だったそうです。
今この瞬間も真摯な医療従事者や研究者の方々は、「この苦痛少しでも和らげたい」などと日々研究に励んでいるわけですが、科学的根拠の基づいた、病気の治療法だけではなく、病気にならないための予防法については、「コクラン・ライブラリ」がとりわけおススメだといいます。世界の130カ国を超える3万以上の医学、医療の専門家の手によって信頼性の高い医療情報を提供している国際組織です。1992年に設立され、製薬会社や医療機器メーカーなど、営利組織からの資金提供は受けておりません。上述したような「〇〇療法が××に効く」などの健康食品の類は、しょせん食品であって、医薬品ではないことにご注意を。
病気を治す効果があると言いたいならば、「科学的根拠の基づく医療」と同じ土俵に載せて、その効果を科学的に証明し、学会で発表し、医学論文として出版した後に、健康食品として承認申請を行うべきである。
全く著者のこの意見に小職は同意します。近年、とりわけFM・AMラジオやBSテレビのⅭMでの健康食品のⅭMが多すぎ、何やら胡散臭さを感じています。ゆえに、著者は
健康食品に走って、病気を治すために医療を受ける機会を逃すことが、取り返しのつかない損害を生み出しかねないことに、誰しも留意すべき
であるとも。では、どうすれば病気に罹患するリスクを減らせるのであろう?!①「バランスの良い食事」、②「腹八分目」、③「よく噛んで食べる」の3つが「健康によい食事法である」と。意外性がないとお感じかも知れないが、繰り返し述べますが、「〇〇だけ食べて健康に」「△△というスーパーフード」といったお手軽情報は、ほぼ無意味です。単一の食品による健康改善は期待できないということ です。
本書をご一読いただければ、医療は進歩してたといえ、「不確実」であり「リスク」の問題と如実に言い表せます。たとえば、「がん」ボク達日本人の男性の62%、女性の47%が、生涯に一度はがんにかかるというのです。2018年に京都大学の本庶佑氏がノーベル医学生理学賞を受賞し話題となりました。「チェックポイント阻害薬」は、がん細胞がT細胞免疫を抑制するのを阻害し、人体にもともとある免疫細胞の活性化を持続させることによってがん細胞を間接的に叩く薬です。ある程度の効果を上げているそうです。一方で、免疫チェックポイント阻害薬以外の免疫療法(免疫細胞療法やワクチンなど)にはこれまで科学的根拠なしということです。
また、誰しも気になる「認知症」については、「サプリメント」に予防効果があるものは存在するか問えば、答えは「ノー」のようです。さらには、「脳トレ」もノーです。しかも世界的に見れば、認知症が増加している地域は日本を含む東アジアなどに限られ、一方欧米では認知症リスクが過去25年間で減少しています。この原因ははっきりわかっておりません。
ただし、福岡県の久山町のコホート研究では、高血圧のある人々は正常血圧の人々と比べて、脳血管性認知症のリスクが3~5.5倍高くなることが明らかにされております。
日本政府は2017年9月に「人生百年時代構想会議」を設置しましたが、「人生百年」は90年後の話で、その予測すら正しいのかわからないとしております。著者の生業とする「科学的根拠」を得るには、実は膨大な資金を必要とするのです。そうであるならば、認知症を筆頭に〝今〝力を注ぐべきなのは介護の仕組みづくりが課題だとしています。
iPS再生治療にクリスパーキャス9などにより、医療はより進歩することでしょう。もちろん目が離せないわけですが、医師が患者に対して実践している本質は、ヒポクラテスの時代からあまり変わっていないといいます。人工知能には仕事をサポートしてもらい、最終的な診断とその責任は医師が負う。これが医師の本懐でもあると。
本書からは、最新の医療のさまが窺い知りえます。何か「医療について」疑問に思っていることがあれば、是非本書を手に取って下さいませ。
【関連書籍】