▼書評 『脳科学者の母が、認知症になる-記憶を失うとその人は〝その人〝でなくなるのか?』
脳科学者の母が認知症になる-記憶を失うとその人は〝その人〝でなくなるのか?
著者 恩蔵 絢子
出版社 河出書房新社
発行 2018 10/30
《生物は感情的な生き物なのだ》
はじめに・・認知症は2050年には世界で患者数が1億5000万人を超す予測があるそうです。ただ、我が国のエーザイ社がアルツハイマー型認知症の新薬候補試験(治験)を終了すると、つい発表されたばかりであるから、この病気に対する難しさを窺える。また、ボク自身の身内のことで恐縮であるが、ボクの祖母は昨年、享年96で亡くなりました。驚いたことに、亡くなる直前までひこ孫6人の名前をしっかり言えたから、その時ボクは「奇跡だ」とさえ思ったほどです。
さて、本書です。著者は〈自意識〉と〈感情〉を専門とする脳科学者ですが、その母と子(著者)の体験記です。「闘病体験記」というより、ボク自身なにか「清々しさ」を感じた読後感いう印象です。2017年のTED会議でリサ・ジェノバ氏が言ったことによると、もしボク達が85歳まで生き延びたとしたら、同い年の2人に一人はアルツハイマー病で、もう一人はアルツハイマー病の介護者と述べております。よって極々身近な病と言えるでしょう。認知症の母とその子(著者)の関係を脳科学者の立場と娘の立場から今できること/できないこと、してあげらること/あげられないこと etc..非常に女性らしい優しい筆致で描かれておりますので、皆様にもおススメの書籍です。
まず、母がアルツハイマー型認知症と診断されて、著者は次のように思ったそうです。「治るわけではないが、神経細胞の伝達を良くし、保護して進行を遅らせるには効果があるかもしれない薬がある」、「体自体によいことや、人生を楽しいと思えることを増やすしかない」という潔い病気であり、また科学者の立場として「確率ゼロは、『絶対に起こらない』を意味しない』。そして人間の体もまた、自然だと。さらには、強烈なメッセージが、
本書から、そもそもなぜ「認知症」を患うのであろう??一番のリスクファクターは「年齢」です。年齢が上がると、異常なタンパク質の蓄積が増え、発症しやすくなる病気です。そのため、細胞死が起こる領域の拡大に伴い、記憶力、言語力、問題解決能力など日常生活を送るのに必要な認知・運動能力が衰えていきます。対処療法としては「運動療法」です。たとえば、週3回ほど運動をしている人たちは、それ未満の人たちよりも、アルツハイマー病になる確率が低いことが明らかにされているそうです。
脳の海馬の萎縮からもたらさる「認知症」。そこで著者は「治す」ではなく、「できることは何か」を考えたのです。その一つが上述したような「運動療法」。毎日2時間の散歩であるといういいます。なぜ良いのか!!五感、目や耳や鼻、皮膚、そして足や手の筋肉からいろいろな情報が飛び込んでくるため、デフォルト・モード・ネットワークが活性化され、やる気が出るといいます。65歳でこの病気を発症した著者の母はそれまで、コーラス好き、料理好き、非常に社交的な女性でした。
そして、もう一つ脳科学的にはっきりしたことは、「宣言的記憶」という記憶。たとえば、「味噌汁と作ろうと思った」ことを忘れたしたり、適切な単語がうまく思い出せなかったり、する記憶はダメージを。他方、大脳基底核や小脳を主に司る、くり返し「体」を使ってやっている「非宣言的記憶」は問題がないことが多いいいます。さらには、著者は日々認知症の母と接することにより、
と言っています。また、認知症患者ばかりだけではなく、どの人に言えることですが、「今これをやっているのは私だ」「これは私がやったのだ」という感覚=これを「主体性の感覚」と専門用語でいいますが、これは
なのだ。とも述べております。上述のように、ここまででも参考にしていただける事、理解は多分にあると思われます。実は、認知症の人には、「理性は失われても感情は残っている」とよく言われます。これは、生物学的視点から脳の中で呼吸機能など生命に維持に欠かせない部位、体に近い部位、すなわち生物として原始的な部位になるほど、萎縮に対して強く、最後まで残りやすかったのです。
それが、「感情」です。感情は理性だけではとても対応できないような、不確実な状況で、なんとか人間を動かしてくれるシステムであり、意思決定をさせてくれるシステムなのです。よってそれは
と記述されています。つまり、感情も刺激も「運動療法」と同様に大事なことであり、結局、感情のシステムと、大脳皮質の両方を発達させてくれるのです。つまるところ、感情は生まれつきの個性であり、また、認知機能と同じように、その人の人生経験によって発達してきた能力であり、いまだに発達しつづける能力だったのです。
認知症患者に限らず、人生とは??よく問われますが、本書はアルツハイマー型認知症を通して、その人らしさ、人生とは を改めて考えさせられる良書だと思います。母は母、子は子なのです。いつまでたっても。。
また、本書は専門用語も平易にたとえ話なども盛り込まれておりますので、読み進めやすいです。是非皆さんも本書を手に取って下さいませ。

著者 恩蔵 絢子
出版社 河出書房新社
発行 2018 10/30
《生物は感情的な生き物なのだ》
はじめに・・認知症は2050年には世界で患者数が1億5000万人を超す予測があるそうです。ただ、我が国のエーザイ社がアルツハイマー型認知症の新薬候補試験(治験)を終了すると、つい発表されたばかりであるから、この病気に対する難しさを窺える。また、ボク自身の身内のことで恐縮であるが、ボクの祖母は昨年、享年96で亡くなりました。驚いたことに、亡くなる直前までひこ孫6人の名前をしっかり言えたから、その時ボクは「奇跡だ」とさえ思ったほどです。
さて、本書です。著者は〈自意識〉と〈感情〉を専門とする脳科学者ですが、その母と子(著者)の体験記です。「闘病体験記」というより、ボク自身なにか「清々しさ」を感じた読後感いう印象です。2017年のTED会議でリサ・ジェノバ氏が言ったことによると、もしボク達が85歳まで生き延びたとしたら、同い年の2人に一人はアルツハイマー病で、もう一人はアルツハイマー病の介護者と述べております。よって極々身近な病と言えるでしょう。認知症の母とその子(著者)の関係を脳科学者の立場と娘の立場から今できること/できないこと、してあげらること/あげられないこと etc..非常に女性らしい優しい筆致で描かれておりますので、皆様にもおススメの書籍です。
まず、母がアルツハイマー型認知症と診断されて、著者は次のように思ったそうです。「治るわけではないが、神経細胞の伝達を良くし、保護して進行を遅らせるには効果があるかもしれない薬がある」、「体自体によいことや、人生を楽しいと思えることを増やすしかない」という潔い病気であり、また科学者の立場として「確率ゼロは、『絶対に起こらない』を意味しない』。そして人間の体もまた、自然だと。さらには、強烈なメッセージが、
いろいろな原因が考えられるからこそ、早期に受診することが必要なのであると。
本書から、そもそもなぜ「認知症」を患うのであろう??一番のリスクファクターは「年齢」です。年齢が上がると、異常なタンパク質の蓄積が増え、発症しやすくなる病気です。そのため、細胞死が起こる領域の拡大に伴い、記憶力、言語力、問題解決能力など日常生活を送るのに必要な認知・運動能力が衰えていきます。対処療法としては「運動療法」です。たとえば、週3回ほど運動をしている人たちは、それ未満の人たちよりも、アルツハイマー病になる確率が低いことが明らかにされているそうです。
脳の海馬の萎縮からもたらさる「認知症」。そこで著者は「治す」ではなく、「できることは何か」を考えたのです。その一つが上述したような「運動療法」。毎日2時間の散歩であるといういいます。なぜ良いのか!!五感、目や耳や鼻、皮膚、そして足や手の筋肉からいろいろな情報が飛び込んでくるため、デフォルト・モード・ネットワークが活性化され、やる気が出るといいます。65歳でこの病気を発症した著者の母はそれまで、コーラス好き、料理好き、非常に社交的な女性でした。
そして、もう一つ脳科学的にはっきりしたことは、「宣言的記憶」という記憶。たとえば、「味噌汁と作ろうと思った」ことを忘れたしたり、適切な単語がうまく思い出せなかったり、する記憶はダメージを。他方、大脳基底核や小脳を主に司る、くり返し「体」を使ってやっている「非宣言的記憶」は問題がないことが多いいいます。さらには、著者は日々認知症の母と接することにより、
少なくとも初期のアルツハイマーで起こっている「思い出せない」という現象は、記憶が消えてしまったからではなく、そもそもうまく情報を記憶として定着させることができないことと、昔の記憶は残っているのにうまく取り出せなくなっていることから起きている。記憶自体は消えていない。
と言っています。また、認知症患者ばかりだけではなく、どの人に言えることですが、「今これをやっているのは私だ」「これは私がやったのだ」という感覚=これを「主体性の感覚」と専門用語でいいますが、これは
人間の幸福に重大な影響をもたらすことが知られている。「自分に選択の余地があって責任を持って生活できること」が幸せを感じ、活動的になる秘訣
なのだ。とも述べております。上述のように、ここまででも参考にしていただける事、理解は多分にあると思われます。実は、認知症の人には、「理性は失われても感情は残っている」とよく言われます。これは、生物学的視点から脳の中で呼吸機能など生命に維持に欠かせない部位、体に近い部位、すなわち生物として原始的な部位になるほど、萎縮に対して強く、最後まで残りやすかったのです。
それが、「感情」です。感情は理性だけではとても対応できないような、不確実な状況で、なんとか人間を動かしてくれるシステムであり、意思決定をさせてくれるシステムなのです。よってそれは
アルツハイマー病であっても、感情的反応は健康な人と同じであり、それは、やはり生物として進化してくる膨大な時間をかけて獲得してきたものだから、生存に役に立つ「正しい」判断なのであり、なかなか失われない
と記述されています。つまり、感情も刺激も「運動療法」と同様に大事なことであり、結局、感情のシステムと、大脳皮質の両方を発達させてくれるのです。つまるところ、感情は生まれつきの個性であり、また、認知機能と同じように、その人の人生経験によって発達してきた能力であり、いまだに発達しつづける能力だったのです。
人生最後まで「初めてのこと」は続くのです。
認知症患者に限らず、人生とは??よく問われますが、本書はアルツハイマー型認知症を通して、その人らしさ、人生とは を改めて考えさせられる良書だと思います。母は母、子は子なのです。いつまでたっても。。
また、本書は専門用語も平易にたとえ話なども盛り込まれておりますので、読み進めやすいです。是非皆さんも本書を手に取って下さいませ。