▼書評『人はなぜ太りやすいのか-肥満の進化生物学』Ⅱ
人はなぜ太りやすいのか-肥満の進化生物学
著者 マイケル・L・パワー/ジェイ・シュルキン
訳者 山本 太郎
出版社 みすず書房
発行 2017 07/18
二回にわけて、この書籍のBLOGを構成してあります。あらかじめご了承下さいませ。
前章では、「脳」のために脂肪蓄積を進化の過程で行ってきたと結論づけました。ヒトの赤子の脳のエネルギーコストは、チンパンジーの赤子と比較して3倍か、それに以上に上るといいます。
さて、かつて人類は狩猟採集民でした。しかるに、脂肪の蓄積により消失に対して抵抗的でもあったことをうかがわせます。これは、すなわちエネルギー消費を削減し、カロリー摂取を増加させる仕組みを欠いていたということになります。
また、動物は生存(遺伝を次世代に伝える)能力を高めるために自らの生理を変えます。顕著な例では、男女比です。男性は内臓脂肪の割合が高いだけでなく、内臓脂肪回転率も高いそうです。男性は女性にくらべて、内臓脂肪における脂肪酸の生成と分解の割合が高い。アドレナリンは男性では内臓脂肪の放出を増大させるが、女性ではそうした働きがありません。ゆえに、内臓脂肪量は中年白人男性における脂肪リスクの指標になっているといいます。
さらには脳の役割を考慮すれば、子宮内プログラムを見逃すわけにはいきません。大きな新生児も小さな新生児同様、肥満になりやすいそうです。事実、在胎年齢を比較して大きな、あるいは小さな児はともに、出生時の脂肪割合が高く、糖尿病の母親から生まれた子どもにも当てはまるそうです。まさに児からすれば、「親選べず」なわけですが、その母親・女性は一般的に授乳期間中に、3~10%のカルシウムを骨から失います。興味深いことに、食事中のカルシウムはほとんどこうしたカルシウム代謝に影響を与えません。高カルシウム食は、妊娠期間中に骨カルシウム量を増加させますが、授乳期間中のカルシウム補助食品は、同期間中の骨からのカルシウム喪失に影響を与えることはないそうです。え、授乳期間中にカルシウムを失う!!
逆に、カルシウム摂取量の増加は血中カルシトリオールを低下させ、脂肪形成を抑制し、よって脂肪の蓄積は減少するというのです。
小職が調べたところ、この時期の野菜でカルシウムを多く含むのは、「枝豆」と「オクラ」です。冬は「小松菜」ですね。
それでは、遺伝と肥満の関係は??著者らの見解では60%が遺伝が関与するものの、現代の肥満の相当部分は遺伝的に相続されるものではないということです。代謝の柔軟性はヒトの多様性をうみ、肥満関連遺伝子としては、多くの遺伝子の存在が予想され、他方、痩身にははるかに少ない遺伝子しか存在しないとの見解がなされています。
そして、ボクは大が付くほどの甘党ですが、皆さんはどうでしょうか??それも進化の過程でまだらに存在しています。人類の食物摂取のある時代「塊茎」と「ハチミツ」がセーフティーネットのときがありました。そう「ハチミツ」です。よってヒトは甘いものが好き、部分的に遺伝する。ヒトは高脂肪の食物が好き、これも個人差がある。
ジャンクフードが蔓延する食の経済下、腸科学者のご指摘通り、ボク達はボクらの100兆個の腸内細菌叢と対話して、摂食を心がけることを良しとするわけです。
さて、昨日のBLOGの冒頭の質問:Qですが、「脂肪はみなそれぞれ」りんご型肥満と洋ナシ型肥満のリスクはどちらが高い??腹部に過剰な脂肪組織が蓄積されるりんご型肥満は、男女ともに糖尿病や高血圧、異脂質症、心循環器疾患の高いリスク要因とし、洋ナシ型肥満は疫病に対する防御的効果を発揮するというデータもあるそうです。いずれにせよ、肥満の男女20%は、肥満にもかかわらず健康であるといいますから、程度の問題でもあります。
では、どうすれば??肥満が気になる方はボクは、「テロメア」を意識することだと思います。とりわけ運動を含めて。著者の進化生物学は、ヒトの全体としての生理機能を理解しようとする試み、というのも、ヒトの生理機能がなぜ機能するのかだけではなく、なぜそのようになったのかを理解するためにと、本書には綴られております。「肥満」をテーマにした進化生物学。さまざまな角度からフォーカスされ読み応えがあります。
おわりに・・肥満に関連した他の栄養学的関心事として、葉酸欠乏があります。肥満した女性は一般的に正常体重の女性と比較して血中葉酸濃度が低いそうです。この事実は、肥満した女性の子どもに神経管の欠損が多く見られことに部分的に説明できます。たとえばカナダでは、葉酸強化小麦粉が市場に出た後でさえ、母親の肥満は依然として神経管欠損リスクであり続け、リスクはむしろ葉酸強化小麦粉導入前よりも悪化しているといいます。
その葉酸を補う旬のフルーツといえば、すもも(プラム)です。
この夏の一冊(ナ・ツ・イ・チ)におススメの書籍です。是非手に取って下さいませ。
【関連書籍】
人はなぜ太りやすいのか-肥満の進化生物学
著者 マイケル・L・パワー/ジェイ・シュルキン
訳者 山本 太郎
出版社 みすず書房
発行 2017 07/18
二回にわけて、この書籍のBLOGを構成してあります。あらかじめご了承下さいませ。
前章では、「脳」のために脂肪蓄積を進化の過程で行ってきたと結論づけました。ヒトの赤子の脳のエネルギーコストは、チンパンジーの赤子と比較して3倍か、それに以上に上るといいます。
さて、かつて人類は狩猟採集民でした。しかるに、脂肪の蓄積により消失に対して抵抗的でもあったことをうかがわせます。これは、すなわちエネルギー消費を削減し、カロリー摂取を増加させる仕組みを欠いていたということになります。
また、動物は生存(遺伝を次世代に伝える)能力を高めるために自らの生理を変えます。顕著な例では、男女比です。男性は内臓脂肪の割合が高いだけでなく、内臓脂肪回転率も高いそうです。男性は女性にくらべて、内臓脂肪における脂肪酸の生成と分解の割合が高い。アドレナリンは男性では内臓脂肪の放出を増大させるが、女性ではそうした働きがありません。ゆえに、内臓脂肪量は中年白人男性における脂肪リスクの指標になっているといいます。
さらには脳の役割を考慮すれば、子宮内プログラムを見逃すわけにはいきません。大きな新生児も小さな新生児同様、肥満になりやすいそうです。事実、在胎年齢を比較して大きな、あるいは小さな児はともに、出生時の脂肪割合が高く、糖尿病の母親から生まれた子どもにも当てはまるそうです。まさに児からすれば、「親選べず」なわけですが、その母親・女性は一般的に授乳期間中に、3~10%のカルシウムを骨から失います。興味深いことに、食事中のカルシウムはほとんどこうしたカルシウム代謝に影響を与えません。高カルシウム食は、妊娠期間中に骨カルシウム量を増加させますが、授乳期間中のカルシウム補助食品は、同期間中の骨からのカルシウム喪失に影響を与えることはないそうです。え、授乳期間中にカルシウムを失う!!
結論:② カルシウム カルシウム不足はヒトでも動物でも体重増加や脂肪蓄積と関係しています。ビタミンDの代謝は部分的に摂取量によって調節されています。たとえば、カルシウム不足によるカルシトリオールの増加は、脂肪組織における脂肪蓄積を増加させているように見えるそうです。
逆に、カルシウム摂取量の増加は血中カルシトリオールを低下させ、脂肪形成を抑制し、よって脂肪の蓄積は減少するというのです。
小職が調べたところ、この時期の野菜でカルシウムを多く含むのは、「枝豆」と「オクラ」です。冬は「小松菜」ですね。
それでは、遺伝と肥満の関係は??著者らの見解では60%が遺伝が関与するものの、現代の肥満の相当部分は遺伝的に相続されるものではないということです。代謝の柔軟性はヒトの多様性をうみ、肥満関連遺伝子としては、多くの遺伝子の存在が予想され、他方、痩身にははるかに少ない遺伝子しか存在しないとの見解がなされています。
そして、ボクは大が付くほどの甘党ですが、皆さんはどうでしょうか??それも進化の過程でまだらに存在しています。人類の食物摂取のある時代「塊茎」と「ハチミツ」がセーフティーネットのときがありました。そう「ハチミツ」です。よってヒトは甘いものが好き、部分的に遺伝する。ヒトは高脂肪の食物が好き、これも個人差がある。
結論:③ 一般的にヒトは、高カロリー密度の食物を好む特徴があり、一方でヒトの消化管は依然、低カロリー密度食物、少なくとも中程度の繊維質の多い食物を消化することに適した構造をしている。
ジャンクフードが蔓延する食の経済下、腸科学者のご指摘通り、ボク達はボクらの100兆個の腸内細菌叢と対話して、摂食を心がけることを良しとするわけです。
さて、昨日のBLOGの冒頭の質問:Qですが、「脂肪はみなそれぞれ」りんご型肥満と洋ナシ型肥満のリスクはどちらが高い??腹部に過剰な脂肪組織が蓄積されるりんご型肥満は、男女ともに糖尿病や高血圧、異脂質症、心循環器疾患の高いリスク要因とし、洋ナシ型肥満は疫病に対する防御的効果を発揮するというデータもあるそうです。いずれにせよ、肥満の男女20%は、肥満にもかかわらず健康であるといいますから、程度の問題でもあります。
では、どうすれば??肥満が気になる方はボクは、「テロメア」を意識することだと思います。とりわけ運動を含めて。著者の進化生物学は、ヒトの全体としての生理機能を理解しようとする試み、というのも、ヒトの生理機能がなぜ機能するのかだけではなく、なぜそのようになったのかを理解するためにと、本書には綴られております。「肥満」をテーマにした進化生物学。さまざまな角度からフォーカスされ読み応えがあります。
おわりに・・肥満に関連した他の栄養学的関心事として、葉酸欠乏があります。肥満した女性は一般的に正常体重の女性と比較して血中葉酸濃度が低いそうです。この事実は、肥満した女性の子どもに神経管の欠損が多く見られことに部分的に説明できます。たとえばカナダでは、葉酸強化小麦粉が市場に出た後でさえ、母親の肥満は依然として神経管欠損リスクであり続け、リスクはむしろ葉酸強化小麦粉導入前よりも悪化しているといいます。
その葉酸を補う旬のフルーツといえば、すもも(プラム)です。
この夏の一冊(ナ・ツ・イ・チ)におススメの書籍です。是非手に取って下さいませ。
【関連書籍】