▼書評 『セレンゲティ・ルール-生命はいかに調節されるか』
セレゲティ・ルール-生命はいかに調節されるか
著者 ショーン・B.キャロル
訳者 高橋 洋
出版社 紀伊國屋書店
発行 2017 06/30
《かくして、ボク達は奇跡の時代を生きている》
ウィスコンシン大学の教授の著者は、進化発生生物学の第一人者ともいわれております。また、訳者の高橋氏も『脳はいかに治癒をもたらすのか』、『暴力の解剖学』など超一級のサイエンス本を翻訳され、本書はボクにとって2017年上半期BEST3にランクインする好書です。
本書のタイトル「セレゲティ・ルール」とは何でしょうか??さまざまな種類の分子や細胞の数を調節する分子レベルのルールも存在するように、一定の区域生息可能な動植物の種類や個体数を調整するルールが存在し、生態系レベルでのルールを著者は「セレンゲティ・ルール」と著者は呼んでおります。そのために、本書はセレゲティ国立公園からはじまり、セレゲティ国立公園から南方1600キロメートルに位置するゴンゴローザ国立公園でストーリーは締めくくられます。何故このような構成になったのかは、ストーリーテラーに長けた著者の力量によるものでしょう。圧巻です。是非本書でご確認下さいませ。
ところが、本書を読み進めると次のような文面が!!
と。本書の図2に詳細が記載されておりますが、ボクにとっては衝撃的な図でした。その上で、本書では著者による提言がなされております。
さて、本書の第一章ではホメオタシスの概念を提起した生理学者ウォルター・キャノン、第二章では食物連鎖の概念を提起した生態学者チャールズ・エルトンの輝かしい業績を紹介し、「調節」の概念が包括的に説明されております。本書での醍醐味は第6章のセレゲティ国立公園の生態系で味わえますが、そのルールの力は、
一般には、補食可能な獲物の数が捕食者の数を調節しているのであって、その逆ではないと考えます。しかし、「蹴っ飛ばして観察する」を実行したロバート・ペインの事例がわかりやすいでしょう。彼は、マカー湾に出かけ、ヒトデ投げを繰り返し、ある岩の区画では、すべてのヒトデを除去し、さらには、その隣の区画では手を付けないでおいたそうです。そして、15種の生物を追跡。ヒトデは、フジツボ、ヒラサガイ、カサガイ、イガイを見つけては食べる補食者と発見したのです。実験開始から一年、ヒトデを除去した区画は、フジツボはイガイから締め出され、さらには4種の藻類のほとんどが姿を消し、カサガイとヒラサガイがそれぞれ2区画から去ったそうです。捕食者のヒトデの除去は、潮間帯生物コミュニティの多様性を、15種から8種へ急激に低下させたのでした。
では、18~19世紀にかけて毛皮を求める人々によって執拗に狩られ、20世紀初頭にはもとの15-20万頭⇒2000頭まで激減した「ラッコ」はどうでしょう。ラッコ⇒ウニ⇒ケルプという図式が成り立ちます。すなわち、ラッコはウニの個体を抑制することでケルプの成長を「誘因」していることになるのです。この図式はA⇒B⇒C AはBを抑制し、BはCを抑制する。Aは二重否定を通じてCの増加を促す。これが二重否定論理です。この発見により日本の北部からアリューシャン列島で絶滅しかけたあと、特定に地域ではラッコはもとの個体数を回復しているそうです。また、生態学の用語を借りると、捕食者のラッコは複数の下位の栄養カスケード効果を及ぼし、キーストーン種に該当します。
上述のロバート・ペインのヒトデの蹴っ飛ばしやラッコは、生物種の再導入を意味し、その結果生じる強力なトップダウン効果=「栄養カスケード」と呼びます。
本書では伝説的な聖域(サンクチュアリ)すなわち、セレゲティ国立公園での生態系も描写されております。牛疫や森林火災は動植物にどのような影響を与えるのか??三重否定論理も記述されております。また、上述したようにボク達(成人)の身体を構成する37兆個の細胞には、200を超える細胞型があるといわれております。無数の「調節」が行われているのです。ヒトゲノムの解読の進展は今後も続き、その革新がいかに達成されたのか(本書第3~5章)をご一読いただければ、どこへ向かうのかを見極める礎にもなるはずです。さらには、第10章には善意活動家のグレッグ・カー氏の行動には、頭が下がりました。セレンゲティ・ルール①~⑥は本書でご確認を。
さて、文中の「一個半分の地球が必要である」ですが、ボク達人類を「調節」できる生物種は、今や人類においておりません。その人類がルールを理解せず、世界中の生態系を破壊し続ければ、このキーストーン種=人類はやがて自滅するであろうと。よって、著者は
ローマ教皇の環境問題に対する回勅も記述されておりますが、さらに手厳しいものです。そして、本書では歴史に名を刻むあまたの有識者が登場しますが、そこから学ぶ点は「画期的な発見は一般に、先入観からの解放」だといいます。
超ド級の面白さ。ポピュラー・サイエンスノンフィクションを是非手に取って下さいませ。
【関連書籍】
レビューは、こちら
セレゲティ・ルール-生命はいかに調節されるか著者 ショーン・B.キャロル
訳者 高橋 洋
出版社 紀伊國屋書店
発行 2017 06/30
《かくして、ボク達は奇跡の時代を生きている》
ウィスコンシン大学の教授の著者は、進化発生生物学の第一人者ともいわれております。また、訳者の高橋氏も『脳はいかに治癒をもたらすのか』、『暴力の解剖学』など超一級のサイエンス本を翻訳され、本書はボクにとって2017年上半期BEST3にランクインする好書です。
本書のタイトル「セレゲティ・ルール」とは何でしょうか??さまざまな種類の分子や細胞の数を調節する分子レベルのルールも存在するように、一定の区域生息可能な動植物の種類や個体数を調整するルールが存在し、生態系レベルでのルールを著者は「セレンゲティ・ルール」と著者は呼んでおります。そのために、本書はセレゲティ国立公園からはじまり、セレゲティ国立公園から南方1600キロメートルに位置するゴンゴローザ国立公園でストーリーは締めくくられます。何故このような構成になったのかは、ストーリーテラーに長けた著者の力量によるものでしょう。圧巻です。是非本書でご確認下さいませ。
ところが、本書を読み進めると次のような文面が!!
世界の人口がおよそ30億人だった50年前、人類は毎年、地球の年間生産能力のおよそ、70%を消費し、1980年に100%を突破し、現在ボク達が毎年使っている資源を再生するには、一個半の地球が必要である
と。本書の図2に詳細が記載されておりますが、ボクにとっては衝撃的な図でした。その上で、本書では著者による提言がなされております。
さて、本書の第一章ではホメオタシスの概念を提起した生理学者ウォルター・キャノン、第二章では食物連鎖の概念を提起した生態学者チャールズ・エルトンの輝かしい業績を紹介し、「調節」の概念が包括的に説明されております。本書での醍醐味は第6章のセレゲティ国立公園の生態系で味わえますが、そのルールの力は、
複雑な生命現象を単純なロジック(論理)に還元することである。
一般には、補食可能な獲物の数が捕食者の数を調節しているのであって、その逆ではないと考えます。しかし、「蹴っ飛ばして観察する」を実行したロバート・ペインの事例がわかりやすいでしょう。彼は、マカー湾に出かけ、ヒトデ投げを繰り返し、ある岩の区画では、すべてのヒトデを除去し、さらには、その隣の区画では手を付けないでおいたそうです。そして、15種の生物を追跡。ヒトデは、フジツボ、ヒラサガイ、カサガイ、イガイを見つけては食べる補食者と発見したのです。実験開始から一年、ヒトデを除去した区画は、フジツボはイガイから締め出され、さらには4種の藻類のほとんどが姿を消し、カサガイとヒラサガイがそれぞれ2区画から去ったそうです。捕食者のヒトデの除去は、潮間帯生物コミュニティの多様性を、15種から8種へ急激に低下させたのでした。
では、18~19世紀にかけて毛皮を求める人々によって執拗に狩られ、20世紀初頭にはもとの15-20万頭⇒2000頭まで激減した「ラッコ」はどうでしょう。ラッコ⇒ウニ⇒ケルプという図式が成り立ちます。すなわち、ラッコはウニの個体を抑制することでケルプの成長を「誘因」していることになるのです。この図式はA⇒B⇒C AはBを抑制し、BはCを抑制する。Aは二重否定を通じてCの増加を促す。これが二重否定論理です。この発見により日本の北部からアリューシャン列島で絶滅しかけたあと、特定に地域ではラッコはもとの個体数を回復しているそうです。また、生態学の用語を借りると、捕食者のラッコは複数の下位の栄養カスケード効果を及ぼし、キーストーン種に該当します。
上述のロバート・ペインのヒトデの蹴っ飛ばしやラッコは、生物種の再導入を意味し、その結果生じる強力なトップダウン効果=「栄養カスケード」と呼びます。
本書では伝説的な聖域(サンクチュアリ)すなわち、セレゲティ国立公園での生態系も描写されております。牛疫や森林火災は動植物にどのような影響を与えるのか??三重否定論理も記述されております。また、上述したようにボク達(成人)の身体を構成する37兆個の細胞には、200を超える細胞型があるといわれております。無数の「調節」が行われているのです。ヒトゲノムの解読の進展は今後も続き、その革新がいかに達成されたのか(本書第3~5章)をご一読いただければ、どこへ向かうのかを見極める礎にもなるはずです。さらには、第10章には善意活動家のグレッグ・カー氏の行動には、頭が下がりました。セレンゲティ・ルール①~⑥は本書でご確認を。
さて、文中の「一個半分の地球が必要である」ですが、ボク達人類を「調節」できる生物種は、今や人類においておりません。その人類がルールを理解せず、世界中の生態系を破壊し続ければ、このキーストーン種=人類はやがて自滅するであろうと。よって、著者は
21世紀の標語は「エコロジー(環境保全)による生活向上」だと。
ローマ教皇の環境問題に対する回勅も記述されておりますが、さらに手厳しいものです。そして、本書では歴史に名を刻むあまたの有識者が登場しますが、そこから学ぶ点は「画期的な発見は一般に、先入観からの解放」だといいます。
超ド級の面白さ。ポピュラー・サイエンスノンフィクションを是非手に取って下さいませ。
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