猿神のロスト・シティ-地上最後の秘境に眠る謎の文明を探せ
著者 ダグラス・プレストン
訳者 鍛原 多惠子
出版社 NHK出版
発行 2017 04/25
《ノンストップ・アドベンチャーノンフィクション!!》
昨年、ボクはアマゾンの奥地に潜入したNHKの取材班の番組を観ました。ヤラセがないのでこの種の番組は大好きなのですが。さて、今回の冒険のその一帯は人跡未踏のまま。場所は中米ホンジュラスに500年前から伝わる「猿神王国」です。熱帯雨林の奥地に謎の古代都市群が存在していたという。NASAの最新テクノロジーを駆使した空中からの探索と、命の賭した密林の探検です。
ジャングルの驚異と迫りくるもう一つの事とは??
ロマンに満ちた荒唐無稽の物語が、失われた王国の伝説に力を与えてきたといいます。「白い都市」あるいは「猿神王国」の伝説はホンジュラス国民の心の根を張り、幼子でも知っています。1960年、ホンジュラス政府は約5180平方キロメートルにおよぶモスキティアの未開の地を区画し、考古学保護区と定めました。さらには、ユネスコがこの場所の雨林一帯を、1982年に世界遺産登録しました。
この地について知る人も、情報を載せたガイドブックも、地図も、ライダー画像以外何もなく、失われた都市で何が待ち受けているのか知る術がなったのですが、今回の探検で効力を発揮したのが、ライダーでした。そのライダーは、遺跡の部屋、墓、彫刻などの内部を詳細に三次元地図を作製したりします。それは、放射性考古学における炭素年代測定以来の最大に進展といえるものでした。
この冒険に挑んだには、コロラド州立大学のクリストファー・フィシャー教授、ロサンジェルスの映画プロデューサーのエルキンス、ナショナルジオグラフィックの記者として参加した著者などです。その他にも、元SASメンバー、写真家、撮影監督etc..その面々が、当初ライダー地図を作製し、それはコパンというホンジュラスの西部にあるマヤ文明に中心部に匹敵する古代都市に乗り込んだのでした。果たして??
後続として乗り込んだ、ハーヴァード大学の著名な民族学者にしてアマゾン保全チームの代表は「ここは中米でもいちばん原始的なままに近い雨林であることは間違いない。この場所はいくら強調しても足りないほどだ。私はアメリカの熱帯雨林を30年にわたって調べてきたが、今回のような遺物を発見したのは初めてだ。これからも見ることはないであろう」と述べています。その遺物を発見するまでには迫りくる大自然の驚異が臨場感たっぷり。例えば、ファルドランスという毒蛇は、体長が約2メートルあり、毒牙が2.5センチ、毒を180センチメートルも飛ばすという。何しろ300メートル進むのに一時間半以上かかるも場所もあったといいます。また、クモザルが繁殖しているのは、森の健全の証拠であり、人がかなりの期間に足を踏み入れていない確かなしるしともいいます。
フィッシャー教授は、神殿を発見し、さらには三角形の頭を持つ人間の彫像も見つけ教授はこれを「宇宙人の子ども」と呼びました。そして、本書のタイトルにある「猿神」とは??古代のホンジュラスの土器では、サルが典型的に描かれ、獣人の姿をして、目と口が丸く、生殖器が勃起している。ホンジュラスの一部の先住民の神話では、サルは人間がやって来たときに最初に森に逃げた人間だとされるからだったといいます。
また、発見された埋納物は自然に壊れたとは考えにくく、古代の人々が儀礼として破壊していたというのが本書の結論ですが、それは何故??本書でご確認下さいませ。
人跡未踏の地への探検ストーリーが完結すれば・・・と思ったのですが、この探検後のストーリーも本書の読みどころでもあります。調査隊の半数の4人がリーシュマニア症に罹る。「生物はウイルスが進化させた」といわれますが、リーシュマニア原虫は進化の上で大きな利点を手にしていたのです。この原虫は何億年にもわたって生き延び拡散し、恐竜から人にいたるまで病気を感染させ、世界でもっとも繁栄した病原体の一つになったのです。ホンジュラス地方ではスペイン人に植民地化される前、つまり征服期は人口60万人、だが1550年に残っていた先住民は、わずか3万2千人。これは95%の人口減少です。紛れもなく感染症が原因です。著者もリーシュマニア症に罹患したわけですが、この病気が第一世界の人々を襲う第三世界の疾患であり、現在、世界は新世界と旧世界ではなく、第一世界と第三世界に分断されている。
だが、かつて第三世界に閉じこまれていた病原体が、いまや第一世界へ死の行進をしようとしているのだ。
これが地球上における病原体の未来図だと。本書ではホンジュラスは、非常に興味深くあり、その国民は旧世界と新世界のどちらにもつながった歴史を有することを教え、尚且つ病気に罹患したことで、自分を知るとともに、帰属意識や誇り、継続性、共同体、未来への希望をもつために、人は歴史を必要とすることを思い知らされるのでした。500年前、探検隊が訪れた谷で大惨事に見舞われて都市を去った人々は、ただ消滅したわけではありません。多くは生き延び、彼らの子は現在ホンジュラスの活気あるメスティーナ文化の担い手になっているのです。レーザーで何億回も照射し、古代文明を解こうという試みもさるこながら、ウイルスから端を発し、考古学的遺跡の年代を分子時計で決める試みはまだ端緒についたばかりなのです。
おわりに・・文中のもう一つの迫りくることとは、ウシの放牧のための森林破壊です。それにより、1990~2010年の間にホンジュラスの熱帯雨林約37%は空き地に変わったそうです。今回調査した谷までに8年以内に到達していた見込みというのが、ホンジュラス政府関係者の見解です。
地上最後の秘境ノンフィクションは冒険ドラマだけではありません。地球人の未来図も描かれております。是非皆さんも手して下さいませ。
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