▼書評 『気候変動クライシス』
気候変動クライシス
著者 ゲルノット・ワグナー/マーティン・ワイツマン
訳者 山形 浩生
出版社 東洋経済新報新社
発行 2016 09/08
《地球号の行く末は???》
昨年は、統計開始以来初となる東北の太平洋側からの台風の上陸がありました。さらには、北海道に一年に少なくとも3度台風上陸と。近年では、気象に関するニュースは、〝50年に一度〝、〝観測史上初〝となる、なんてかなりの頻度で耳にするようになりました。このような気候の出来事は、本書の第一章に見事にまとめられてあるとおり、他国でもこの10年~30年単位でみれば、非常に顕著です。
さて、著者のひとりワイツマンは、MITの経済学者であり、環境分野では最もノーベル賞に近い候補だということです。その著者らが本書の冒頭で2つの質問を投げかけます。
①:気候変動は急を要する問題ですか?
②:世界が化石燃料依存から抜け出すのは難しいと思いますか?
本書での答えは、どちらも Yes である。
気候変動の問題を難しくしている4つの問題があります。
①:究極のフリーライダー問題(気候変動は世界的だということ)
②:長期性 (北極海の氷は過去たった30年で、すべての面積の半分を失ったが)
③:不可逆性 (気候変動は逆転不能という点)たとえば、過剰な二酸化炭素の3分の2は、100年後も、まだ大気中にある)
④:不確実性 (わかっていないことがわかっていること、わかっていないことがわかっていないこと)
上述のビック4問題を経済の専門家らしく、リスク管理手法を用いて解説されております。3.11東日本大震災後に、我が国には47年都道府県よりも原発の数が多かったと初めて知ったわけですが、人類は、ただただこのエネルギー問題を傍観していなかったのも事実です。例えば、全世界の太陽光発電は、2010年に比べ140倍も増えております。また、最新の研究報告ではSCIENTIFIC AMERICAN が10大イノベーションに大気から二酸化炭素を吸い出して発電する燃料電池が選ばれました。(化石燃料を多少でも減らす)それでも、本書によれば1.5~4.5℃は世界の平均気温は今後上昇するとの結論です。さらに、6℃の上昇の確率は、10にひとつ すなわち、10%です。
ここで、非常に初歩的な経済学です。マイホームをお持ちであれば、きっと火災保険にご加入されているでしょう万一に備えて。そう、万が一なのです。今後、世界の平均気温6℃上昇の確率は、??%となるわけです。人類はこれまでに大気中に約9400億トンもの二酸化炭素を排出してきました。今なお、増加中です。その結果、旱魃、砂漠化、巨大ハリケーン、海洋の酸性化etc.。枚挙にいとまがありません。
では、人類はどうすれば良いのか??真っ先に「炭素税」の導入です。スウェーデンでは1991年に開始されております。また、キャップアンドトレードも欧州の一部でもはじまっております。さらには、これ以上のカタストロフ(大災厄)を減らすために、ジオエンジニアリングの考えもあります。
ジオエンジニアリングという考えは、フィリピンのピナツボ火山が1991年に噴火した際、約2年ほど世界の平均気温は、0.5℃ほど一時的であるが下がりました。よって、小さな人工粒子を地球の成層圏に注入し、一種の日よけにしようと「ジオエンジニアリング」という処方についも議論されておりますが、著者たちは、極めて批判的です。その理由(わけ)の一つが、前述の噴火で一時的に気温は下がりましたが、結局炭素汚染の直接的な影響を減らすには一切貢献しなかったことです。
すぐにでも、炭素税を導入し、ジオエンジニアリングの暴走を食い止めようというのが本書の趣旨ですが、気候変動は人類70億人に責任があり、敵はわれわれであり、われわれ全員にあることは事実です。
第7章には、「あなたにできること」として炭素税の他に具体的な記述もありますが..
気候変動のリスクに関心があるすべての人におススメの書籍です。