■書評 新・ローマ帝国衰亡史
新・ローマ帝国衰亡史
著者 南川 高志
出版社 岩波新書
発行 2013 05/21
《ローマ帝国を知るうえでの新入門書》
世界史を語るうえで欠かせない国といえば、その代表はやはり「ローマ」であろう。世界各地に数多くの大国が興り繁栄し、やがて衰退し消滅していった。世界の歴史に稀に見る巨大なローマ帝国の衰亡史を知るうえで非常に
本書は読みやすかった。
本書によれば、ローマ帝国衰亡の原因については、一説には210種類以上に及ぶ学説が及んでいるという。それだけ、未知の世界もまだあり奥が深いということであろう。時にはギボンの「衰亡史」に照らし合わせながら、ローマ帝国の繁栄そして、衰退と見事に描かれている。
ローマ帝国の最盛期は、担い手も領域も曖昧な存在だったにもかかわらず、ひとつの国家として統合され、維持されてきた。著者の見解ではそれは、「ローマ人」であるという故地に由来するアイデンティティの下で他者を排除するような偏狭な性格の国家にならなかったのは、それが持つ歴史とその記憶だ。例えば「ゲルマン人」と呼ばれる集団は、固定的で完成された集団とは考えていないと著者は断言する。何故なら、非常に流動性が高くその時々の政治的な利害によって離合集散を繰り返してきたからである。
また、本書のもう一つの特徴は、敢えて帝国の辺境の属州の考察を行ったことであろう。よって当初は霞が関の背広姿の官僚のようにローマ帝国もコンスタンティウス一世時代は、元老院議員そして、騎士身分、さらには農民と身分がはっきり区分されていた。その後は、「第三のローマ人」=帝国部外族出身者が、能力を発揮し皇帝に重宝されるようになる。そうローマ人は、ヨーロッパ内陸部を支配下に入れるにあたり、そこに住む人々を「民族」によって差別することは決してなかったのだ。
コンスタンティヌスが、晩年長男のクリスプ、次いで妻ファスタの暗殺の事実などには、いろいろな憶測が飛び交う。その後コンスタンティヌス大帝の死後、三子に分割されたローマ帝国はさらに、血腥くなる。三制帝誕生時代に至る時期に4人もの親族が血に染まった。史家アンミアヌスetc..は犯人はコンスタンタンティヌス二世と明記したが、著者はそれは違うという。おそらくコンスタンティヌス二世の周辺の人物と考えるのが妥当だという。上述したように充分な経緯や背景を説明することが難しい事件が非常に多い。
また、その点が史実を楽しみであり、自ら時代背景を鑑みどのように推測するかが楽しみでもある書籍なのだ。
いずれにせよ、著者の見解はローマ帝国衰亡は外的な要因ではなく、内的な要因であるという。
四世紀終わり頃から怒涛のごとき、政治的・軍事的な動きの中で、西方におけるローマ帝国崩壊の歴史叙述は、本当の歴史の面白さが読み手のボクには伝わってきた。

著者 南川 高志
出版社 岩波新書
発行 2013 05/21
《ローマ帝国を知るうえでの新入門書》
世界史を語るうえで欠かせない国といえば、その代表はやはり「ローマ」であろう。世界各地に数多くの大国が興り繁栄し、やがて衰退し消滅していった。世界の歴史に稀に見る巨大なローマ帝国の衰亡史を知るうえで非常に
本書は読みやすかった。
本書によれば、ローマ帝国衰亡の原因については、一説には210種類以上に及ぶ学説が及んでいるという。それだけ、未知の世界もまだあり奥が深いということであろう。時にはギボンの「衰亡史」に照らし合わせながら、ローマ帝国の繁栄そして、衰退と見事に描かれている。
ローマ帝国の最盛期は、担い手も領域も曖昧な存在だったにもかかわらず、ひとつの国家として統合され、維持されてきた。著者の見解ではそれは、「ローマ人」であるという故地に由来するアイデンティティの下で他者を排除するような偏狭な性格の国家にならなかったのは、それが持つ歴史とその記憶だ。例えば「ゲルマン人」と呼ばれる集団は、固定的で完成された集団とは考えていないと著者は断言する。何故なら、非常に流動性が高くその時々の政治的な利害によって離合集散を繰り返してきたからである。
また、本書のもう一つの特徴は、敢えて帝国の辺境の属州の考察を行ったことであろう。よって当初は霞が関の背広姿の官僚のようにローマ帝国もコンスタンティウス一世時代は、元老院議員そして、騎士身分、さらには農民と身分がはっきり区分されていた。その後は、「第三のローマ人」=帝国部外族出身者が、能力を発揮し皇帝に重宝されるようになる。そうローマ人は、ヨーロッパ内陸部を支配下に入れるにあたり、そこに住む人々を「民族」によって差別することは決してなかったのだ。
コンスタンティヌスが、晩年長男のクリスプ、次いで妻ファスタの暗殺の事実などには、いろいろな憶測が飛び交う。その後コンスタンティヌス大帝の死後、三子に分割されたローマ帝国はさらに、血腥くなる。三制帝誕生時代に至る時期に4人もの親族が血に染まった。史家アンミアヌスetc..は犯人はコンスタンタンティヌス二世と明記したが、著者はそれは違うという。おそらくコンスタンティヌス二世の周辺の人物と考えるのが妥当だという。上述したように充分な経緯や背景を説明することが難しい事件が非常に多い。
また、その点が史実を楽しみであり、自ら時代背景を鑑みどのように推測するかが楽しみでもある書籍なのだ。
いずれにせよ、著者の見解はローマ帝国衰亡は外的な要因ではなく、内的な要因であるという。
四世紀終わり頃から怒涛のごとき、政治的・軍事的な動きの中で、西方におけるローマ帝国崩壊の歴史叙述は、本当の歴史の面白さが読み手のボクには伝わってきた。