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今回は芸術に関する書籍を読みました。

▼書評 『ルビンのツボ-芸術する心と体』

ルビンの壺ルビンのツボ-芸術する体と心

著者 齋藤 亜矢
出版社 岩波書店
発行 2019 06/21






《毎日、毎日プチ感動を味わう!!》
《こころを深く成長させるためには、芸術の科学を学びなさい。科学の芸術を学びなさい。感覚を磨いて、物の見方を身につけなさい。どんな物にも必ずつながりがあるはずです。万能の天才 レオナルド・ダ・ヴィンチの言葉》

著者は理学、医学、芸術学、教育学とさまざまな分野に身を置いてきました。京大理学部を卒業し、現在は京都造形芸術大学文明哲学准教授を務め、過去には公益財団法人の「日本モンキーセンター」のロゴも手掛けられたそうです。

唐突ですが、小職は実に図工や絵画が大の苦手です。それを見事に払拭してくれる記述もありボクはホっとしてます。ところで、本書のタイトル「ルビンのツボ」って??ルビンの壺とは、デンマークの心理学者、エドガー・ルビンが考案した多義図形です。本書の表紙⇖⇖⇖をご覧いただければ白い部分が壺、カラーの部分を図と見れば顔に見えますね。これを専門用語で図地反転図形というそうです。

このように壺に限らず、どんな物にもさまざまな側面があって、同じものを見ても、視点によって、人によって見え方が違う。物事、案外一つの見え方にとらわれると、ほかの見え方があることに気づきにくいですよね。そんな凝り固まった人間の物の見方をぐるっと反転させると「アート」の壺も隠されていたりします。なんだか著者らしいセンスのタイトル本です。尚且つ非常に女性らしい筆致ですので、ほのぼのと読み進められます。

物事を反転させてみる!!たとえば、サイエンスとアート。サイエンスで物事を捉えるとデータは平均化され、一回きりの出来事は「外れ値」として扱われる。しかし、アートでは、偶然性が大事にされ、平均値よりも「外れ値」にこそ光があてられるようなる。そもそも「アート」は「わたし」が無ければはじまりません。これ、多様性、個性学、ダイバーシティにもあてはまる重要なことだと思います。

かつて、日本の高度成長期は「大量生産・大量消費」が良しとされてきました。我が国が低成長期に入りそれに伴うかたちでSNSが勃興しました。つまり、誰もが写真家に、カメラマンに、モデルに、音楽家にもなれ、個人個人がその思いを瞬時に発信できる時代へと突入しました。

そう言った意味では、「芸術」、「アート」の感覚を養うことは非常に重要ではないでしょうか。
本書の視点の素晴らしいと思った点が、次のような記述です。
たとえば、木洩れ日のなかに「プチ感動!」を見つける場合。光がどのように干渉してパターンをつくるか考えのは物理学、木洩れ日の下でどんな実生(芽生え)が育つのか考えるのは植物学。その木洩れ日を心地よく感じるのがなぜかと考えるのが認知科学で、ほかの言語に「木洩れ日」という言葉があるのかという視点なら言語学や比較文化学ということになります。

普段ボク達の日々の生活の中で、そこまで深く考えることはないかもしれません。(少なくともボクはなかったです)しかし、著者のように「芸術」的な視点で物を見つめるとまた違った「プチ感動!」を味わえます。
そのためには、

「感性は、言葉や観念ではなく、からだを通した体験からしか生まれない」

前述は、本書P14 画家の横尾忠則さんの言葉です。さらに、画家のパウル・クレーも同様のことを述べています。

つまり、なにより自然から学び、作品に反映させる経験を積むこと。自然をとことん観察することで、その「世界観」を身につけることができる。抽象的な表現も自在にできるようにもなると。それは、自然をよく見ずに頭で考えた図式的な表現よりも、ずっと新しい、本物の創造的な表現になりうる

と著者は述べています。そのためには、やはり「遊びが学びにかかせないわけ-自立した学びてを育てる」にも繋がると思います。芸術的視点を養う点は、「名画読解 観察力を磨く」にも描写されておりますが、本書のほうが現実生活尚且つ、著者の私生活も垣間見えるので親近感もあります。

そんな著者が力説している点が、一つは見立てです。たとえば、日本の47都道府県の地図。ボク達は地図を何かに「見立て」たりします。その地図が誰かの横顔に似ていたりとか。だからこそ、マティスは「見ること自体がすでに創造的な作業であり、努力が必要なものだ」と。

もう一つが、「視点の倍率」なのです。とりわけ経験則に基づき年を重ねた方はとりわけ、視点の倍率の切り替えは、かなり意識的に行う必要があるとのこと。

ときには木を見たり、森を見たり、自在に視点を変えられる目をもっていたい。同時に複数の視点を持つことはできないから、見えない視点を補う想像力も必要だ。そして、アートこそ、柔軟な目を養う一番の方法かもしれない

と。ボクたちは、一旦「なにか」としてまとまりで認知すると、細かい部分を見落としがちになります。逆に細かい部分にとらわれていると、全体が見えなくなることって結構ありますよね。

さらに、著者
アートとは石ころを拾うようなことではないか。それまでもっていた概念をこわして、価値のないものに価値を与えることではないか。その石ころに、いかに「手」を加えるか、いかにたくさんの「手」を加えるか。アートの語源は、ギリシャ語の「テクネ」。すなわち「テクニック」の語源にも繋がるのです。

本書の表紙の「ルビンの壺」繰り返しになりますが、「壺」と「顔」。そもそもボク達生まれが違えば、育ちも違います。絵画鑑賞と同様に、世の中多様な価値観に溢れています。ボクはSNSの一つの弊害が、画像でわかったつもりに陥ってしまう点かな とも思っています。

現在、新型コロナウイルスで巣籠りぎみの方も多いはず。健康であれば、たまには外に出て自然を眺めて下さいませ。
本書P39-40 詩人の谷川俊太郎さんの言葉を引用します。創造が生み出される過程では何がおこるのか??

「それはね、何にもない、からっぽのとこらからぼっと出る。お風呂のなかでおならをするみたいに。自分が無になっているとき、座禅をしているみたいにね。そんなときにぽっと出てくる」

と。小職も毎日にように星を眺めながら、散歩の時間を設けております。しかしながら、「ユリイカ!」これ、非常に難しいです。これ、考えて、考えて、考えてほっとしたときに「発見」というものが見出される気がします。元気であれば外に出て、自然と触れ合おう!!

本書を手にとっていただければ、きっと何気ない日常も「プチ感動!」に包まれているはずだと、新発見ができるはずです。本書は、巣籠りのお子様たちではなく、そのお父さん、お母さんに手に取っていただきたい書籍です。
結局、「我感ずる、故に我あり」なのですね。

【関連書籍】
観察力を磨く 名画読解

著者 エイミー・E・ハーマン
訳者 岡本 由香子
出版社 早川書房
発行 2016-10-06

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