▼書評 『美味しい進化-食べ物と人類はどう進化してきたか』

美味しい進化美味しい進化-食べ物と人類はどう進化してきたか

著者 ジョナサン・シルバータウン
訳者 熊井 ひろ美
出版社 インターシフト
発行 2019 11/20





《ある食べ物は、ボク達自身の進化とボク達が食べる生物種の進化の相互依存を示すか完璧な実例だ?!しかも最も人工的な食物?その食物とは??》
昨年は、CRISPR-cas9が話題となりました。令和2年はさらに注目を集めそうです。ミニトマトを3個食べれば高血圧下降作用、毒素になる芽が出ない「じゃが芋」などなど、ゲノム編集を利用した食材がメディアを通じて、とりわけ注目されるようになりましたね。

本書は上述した、クリスパーキャス9やボク達の未来の食卓を考える上で、重要な側面を提供してくれます。それが、帯タイトルにも記されている「進化美食学」です。ボク達は、たとえ食べられそうにない有毒な植物でも美味しい食べ物に変える独創的な加工方法を見出し、その結果として4000種以上の植物を食べることができているそうです。ゴリラやチンパンジーのような大容量の消化管はないが、2つのテクノロジーのおかげで驚くほど多種多様な植物などを食べることができています。そのテクノロジーが、

①料理と、②植物の栽培化

です。逆に言えば、毎日の食事の中で、少しずつでも多品種を味わわないと本当にもったいにと本書から窺い知りえます。そして、ボク達はより速く走るエンジンを得なければなりません。ボク達の代謝率はチンパンジーの代謝率よりも27%も高いことがわかっているそうです。

さて、本書では第2章でヒト族はいつ料理を始めたのか、3章は「貝」4章「パン」5章「スープ」6章「魚」7章「肉」8章「野菜」9章「ハーブとスパイス」10章「デザート」11章「チーズ」12章「ワインとビール」などと小職はさまざまな食に関する進化の書籍を読み漁ってきましたが、どの章も新たな知見に富んでいて令和2年の新春に相応しく文字通りお・い・し・くいただきました。(読了しました)

たとえば、どんな知見が含まれているのか、5章「スープ」から覗いてみましょう!塩味、甘味、酸味、苦味、そして「うま味」。このうま味を発見したのが、当時東京帝国大学の教授、池田菊苗が1909年に論説を発表し科学者たちを驚かせました。そのうま味のもとが「グルタミン酸ナトリウム」です。池田の指摘によると食塩の味は濃度が400分の一以下になると感知できなくなり、グルタミン酸ナトリウムは3000分の一まで薄めても味わうことが可能だといいます。実はうま味受容体の2個のタンパク質はT1R1、T1R3という名の遺伝子によって作られています。ネコなどの一部の肉食獣では砂糖を味わう能力が余分になり、砂糖は好みではない。ジャイアントパンダはタケしか食べないので、砂糖はわかるが「うま味」はわかりません。アシカは餌を噛まずに丸のみするので、T1Rファミリーは3つすべてが偽遺伝子(亡霊)になっています。上述の点から、進化とは

バックギアのない車のような一方向のプロセスとして考えがちだが、それは全然違い、無作為に混ざり合った役に立ち形質と役に立たない形質の中から自然選択が選び出した形質は、やがて有利でなくなった場合には取り消せる

のです。感覚器官の話はまだまだ続き、ヒトが甘味を感じる分子はわずか数十個、うま味は感じる分子はほんの一握り、苦味を感じる分子は何千もあるそうです。だからこそ(その理由)、大部分の植物はなんらかの毒物を使って自分の身を守っているからで、そういうわけで植物を食べる動物はそれを感知する手段を進化によって身に着けているのです。しかもマウスなどの哺乳類も苦味に対する遺伝子を持っていて、ボク達祖先と別れたのは9300万年前なので味覚遺伝子は進化の歴史に深く根差していることになります。

そして、9章「ハーブとスパイス」を覗いてみましょう。ミントの香りを変えるたった一つの遺伝子に注目です、それが「モノテルペン」です。これは植物の化学的多様性の戦略なのですが、スペアミントとペパーミントの遺伝子の違いに現れます。アメリカの科学者が発見したのだが、病気に対する耐性が高いことがわかったのは、ペパーミントに似たにおいのする品種はスペアミントの商業生産に影響を及ぼしたそうです。このように、モノテルペンという遺伝子の違い、化学的防御の多様性は、相手が進化しする天敵1匹でも大勢の敵の一群でも有利なのです。

さらに面白いのが、化学的防御が多様なのは、環境が違うと局所適応が必要になるということです。南フランスのモンペリエの近くの村では、タイムのにおいがしない、それどころか標高250メートルみ未満の場所では生えているタイムのケモタイプは、すべて非フェノール系、ところが標高250メートルの等高線よりも上に生えているタイムのケモタイプはすべてフェノール系で、タイムのにおいがしたそうです。そこで、小職は、書籍『植物はなぜ薬を作るのか』を思い出したのです。それが、栽培環境の変化のほうが遺伝子組換えによる成分変化よりもはるかに大きい というものです。

そして、最後は冒頭の答えになります。

ボク達哺乳類にとって最も自然な食物が乳だとしたら、対照的にチーズはおそらく、
最も人工的な食物だろう!

皆さんご存知ですか、地球全体では、全人口のおよそ3分の一が乳糖に耐性を持っています。(ラクターゼ活性持続症)。逆に言えば、3分の2が乳糖不耐症ということになります。面白いことに、このラクターゼ活性持続症は、酪農発祥の南西アジアでは進化することがなかったそうです。理由(わけ)は、カッテージチーズとヨーグルトの製造技術が考案されて乳糖が取り除かれただからだそうです。チーズはマイクロバイオーム、何十種類もの細菌や真菌で作られた微小生態系です。この細菌は海洋環境から乳製品へ移ってきたものもあれば、レンサ球菌や肺炎を引き起こストレプト・コックス属の厄介な菌と共通の祖先から進化したものもあり、モッツァレラチーズやヨーグルトをボク達が食べても安心なのは、乳の中に棲むための適応プロセスで、菌を有害にする遺伝子が変異によって無力化されているからだそうです。

チーズのマイクロバイオームを調査している科学者は、次々と新たな発見をしています。たとえば、アイルランドのチーズの小規模な調査一度だけでも、以前には見られなかった5つの属の細菌が見つかっています。マイクロバイオームの世界もまだまだ奥が深いのです。

人生100年時代と叫ばれる昨今、食べることは生きることです。冒頭のクリスパーキャス9を筆頭に令和の時代ボク達の食卓は、どのように様変わりするのでしょうか。
まずは、本書でお確かめ下さいませ。

【関連書籍】
貝と文明 (螺旋の科学、新薬開発から足糸で織った絹の話まで)

著者 ヘレン スケールズ
訳者 林 由美子
出版社 築地書館
発行 2016-11-30



貝と文明-螺旋の科学、新薬開発から足糸で織った絹の話まで レビューは⇒⇒⇒こちら


人類はなぜ肉食をやめられないのか: 250万年の愛と妄想のはてに

著者 マルタ・ザラスカ
訳者 小野木 明恵
出版社 インターシフト
発行 2017-06-16

レビューは、⇒⇒⇒こちら


Since  1973  ASAMANA

なお、「長芋」などのお問い合せは、下記までお願い致します。

お問い合わせ先 ASAMANA・小林農園浅間サンライン直売店
TEL  0267-24-1483
WWW: http://asamana-farm.com/