▼書評 『パスタぎらい』

パスタ嫌いパスタぎらい

著者 ヤマザキマリ
出版社 新潮社
発行 2019 04/20







はじめに・・唐突ですが皆さんは、「脂肪味(しぼうみ)」ってご存知でしょうか?!甘味、酸味、塩味、苦味、うま味、そしてそれに続く″第六の味覚″、それが「脂肪味」です。九州大学の研究グループが発表したもので、これが鈍くなると、肥満傾向になるそうです。先日、NHKのクローズアップ現代にて放映されました。気になった方は番組HPをチェックして下さいませ。

さて、本書に移ります。著者にとって、いや日本人にとって癒し番長食って??まさに、ザキマリ節炸裂!!っといった様相です。はじめにお断りしておきますが、著者は決してイタリアの「パスタ」が不味いと断言しているわけではありません。著者は17歳で伊・フィレンツェに留学し、美食の王国・イタリアに暮らし始めて35年目にもなるそうです。1997年にマンガ家としてもデビューを果たしたそうです。偽りのなく飾らない「食文化」エッセイは、読了後は何か爽快感があります。

本書では、イタリアだけではなく、ポルトガル、シリア、シカゴなど胃袋で世界とつながった経験を美味しく、さらには楽しく綴られております。

トマトに果物の酸味のあるもの、コーヒーが飲めないという著者ですが、一体どんなエピソードが。たとえば、「パン」。日本の「パン」は頗(すこぶ)る美味しいとしながら、イタリアでは、パスタでも肉料理でも″主役″を平らげてしまった後、それでも物足りなさを感じる人はパンを千切って皿にこびり付いたソースや肉汁を拭い取って食べるって。フランスに2度ほど旅行をしたことのある小職にっては実に以外でした。

さらには、日本人はワインに注がれた高級そうなグラスの脚をすっと伸ばした人差し指と中指の間に挟み込み、グルグル回しながら嗜むが、イタリアでは、その辺で買って来た一本数百円のワインをコップに注ぎガブガブ飲むとのこと。

そして、イタリア人は大の甘党だとか。「ジェラート」=「アイスクリーム」を頬張りながら外を歩くビジネスマンもよく見かけるそうです。なぜなら、イタリア人にとって朝食というのは、エネルギーを供給するというよりは、血糖値を上げて目を覚ます、という意味合いのもののようだと述べられております。

そもそも、著者は札幌のローカルテレビにおいて、「食レポ」の経験もあるそうです。上述したよう大ネタ、小ネタが肩ひじ張らずに読み進められます。

では、なぜ本書のようなタイトルになったのか?次の文言に垣間見えます。イタリアでもピッツァを頼む時は、必ず真ん中に半熟の卵を乗せてもらう。しかし、残念ながらイタリアは卵料理のバリエーションがそれほど多くなく、それがこの国に長年暮らしていても、イタリア料理というものを心底から好きになれない理由かもしれないといいます。

大の卵好き、さらにはポテトチップスも好むという。小職は他国でポテトチップスを食べたことがないが、このジャンクフードに分類されるポテトチップスの種類と味付けといい、日本のスナック菓子の懐の深さを感じさせるといいます。高級な寿司と堪能しながら、こうしたジャンクフードも楽しめる日本人の味覚の節操のなさ、いや寛容性は全く世界最強でもあるとのこと。

著者自身、決して「美食家」ではありませんと事あるごとに前置きしながら、語りつくしてますが、世界各国の食を通じて

異国では、食の感性を分かち合えるかどうかは、言語が通じ合うかどうかくらい大事なこと

だといいます。しかしながら、たやすいことでもないのも事実です。
最後に冒頭の日本人の癒し番長食とは?それは「おにぎり」です。

おにぎりはその形状から、お米を握った人の温もりを想像させてくれるのも私にとって大きかった。おにぎりを好物として放浪の画家山下清は、お腹を満たす事もさることながら、おにぎりを通じて出会う人々の温もりを摂取していたのだろう

と。画一化された現代の「食」生活ですが、お母さんの握った「おにぎり」の温かさが本書では随所に伝わってきます。イタリア発、日本人による食文化エッセイを是非、皆さんも手に取って下さいませ。

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著者 岩村 暢子
出版社 中央公論新社
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