▼書評 『美しき免疫の力-人体の動的ネットワークを解き明かす』

免疫美しき免疫の力-人体の動的ネットワークを解き明かす

著者 ダニエル・M・デイヴィス
訳者 久保 尚子
出版社 NHK出版
発行 2018 10/25





《ひとつづつ、ひとつづつ ――― 書くことで人は癒される。科学にも通用する》
誰が言ったか忘れてしまったが、これからの科学の2大難問は「宇宙」そして「脳」だと。+「免疫」もボクは加えたいと思います。「免疫」誰しも聞いたことのあるこの用語。実は免疫システムは、腸内に生息する友好的な細菌には手を出さず、病気の原因となる危険な細菌にだけ反応する。人体の一部ではない「異物」だからといって、必ずしも免疫反応を引き起こすわけではない。この重大な事実はごく最近1989年に判明したといいます。長い免疫学の中で、1989年までに解明された免疫については、せいぜい5%ほどしか研究していたにすぎなったと著者は力説しています。

本書ではその大半を科学者たちの果敢な挑戦、さらには人体に対する科学的理解を丁寧に真摯に綴ってあります。ボクの最近のホットな読書カテゴリーは、「医学・心理学」ですが(とは言ってもすぐに忘れてしまいますが)本書は非常に免疫学に対しての意欲作です。よって科学的理解の様を迷路を行ったり来たり、3歩進んで2歩下がるという単純なものではなく、まさに免疫学の「発展」と「復古」を読了致しました。そして、本書の著者はマンチェスター大学免疫学教授で、超解像顕微鏡を用いて免疫細胞生物学の研究に努めているそうです。

では、なぜ行ったり来たりの迷路を進むようになるのか

ヒトゲノムを構成する2万3000個の遺伝子のうち、約1%の遺伝子は人それぞれ異なる。髪、肌、外見、だが最も多様性に富んでいるのが

外見に関わる遺伝子ではなく、免疫システムに関わる遺伝子

だと。さらには、免疫システムは自己と非自己を識別し、病原体を検出し、危険に応答する。そのすべて同時に、かつ乱雑に行っています。つまり、

免疫システムはいくつもの機構の寄せ集めであり、一つの原理で完全に要約できるものではない

「免疫」、「ウイルスと細菌」をシャットアウトでOK??そう単純な話ではありません。ウイルスに感染したヒト細胞から一個からは、新たに1000個、最初は3個だったとしても、数日後ウイルス粒子の数は3億ほどに増えるそうです。この特徴をいかして解明された薬が「ペニシリン」になります。
また、たとえば、インターフェロンのような可溶性タンパク質分子は100種類を超え、情報を伝達するために細胞から分泌され、別の細胞によってキャッチ。この「サイトカイン」の種類によっては、免疫システムの入れるものもあれば、、切るものも存在します。その結果インフルエンザウイルスを構成する10個の遺伝子のうち一個、つまり全遺伝子の10%がインターフェロン対策に特化していると判明しています。しかし、ガンはもともとボク達の体の一部だった細胞が踏み外したもので、体にとって全くの異物ではないため、インターフェロンでいくら免疫を強化しても、できることは限られる。。

とはいえ、インターフェロン以降に発見された、他のサイトカイン=「インターロイキン(IL)」は現在ILー37まで確認され、それぞれいくつもの特殊作用を持ちます。そして、これが「ガン」へのサイトカイン療法へと繋がっています。

では、「抗体」についてはどうか。平均的な人物の免疫システムには、約1000億個のB細胞が存在します。ボク達には各自約1000億通りの異なる形状をした抗体を産生する能力を備わっています。そうやって事実上すべての「体にとっての異質なもの」に対して抗体を産生している。免疫防御の根幹はこれまでに遭遇したことのない病原体を対処できるか、これまでには存在すらしていなかった病原体にさえ対処できるかどうか なのです。

上述のような、研究を次々が連なってきます。その背景には研究者の並々ならぬ努力、中には、ノーベル賞の受賞報告とタッチの差で亡くなったカナダの免疫学者ラルフ・スタインマン、そのスタインマンの研究室で実験を行っていたのが、稲葉カヨ(現・京都大学副学長)と最終章では本庶祐氏と日本人も多数免疫の分野でご活躍されたか窺い知れます。

また、著者は免疫(その他を含む)の研究に次のように述べています。

絶対的に信頼のおける決定的な研究など存在しないが、研究結果を信頼するには、その実験の特殊事情が、結果に影響した可能性を排除するために、他の科学者による再試験を繰り返し、結果を再現してみることが重要

だと。

免疫は、行き過ぎると「自己免疫疾患」も引き起こします。関節リウマチ、糖尿病、多発性硬化症など、50を超えるさまざまな種類が存在します。有病率5%そのうち3/2が女性だといいます。関節リウマチの医薬品などについては、本書でご確認下さいませ。

さて、本書から得られる ボクたちが〝今〝すぐにできる事はなんであろう??
それは、「腸内細菌叢(腸内フローラ)」を整えることであろう。なぜなら、腸内細菌が可溶性の食物繊維を分解したときに生成される分子の多くは、制御性T細胞の産生を促すからです。

他にも免疫細胞の老化と免疫システムの老化などは、非常に興味深い知見が記述されています。本書の最終章は、スステージⅣのメラノーマ(黒色種)の皮膚がんを患った22歳の女性が2年半でガン が発見されなくなったといいます。

現在、免疫学の現場では「プレシジョン(精確さ」が治療法で非常に有効であると見られます。つまり治療法を行う際にその治療法で効果の出やすい患者のみを精確に選択することと、そしてガンを標的にする免疫細胞セットのみを強化することに注力されています。

B細胞、T細胞、キラーT細胞、樹状細胞、好中球、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)、制御性T細胞、来る日も来る日も絶え間なく活躍してくれています。そのためにも、せめて腸内環境だけでも整えておきたいものです。

おわりに・・著者の言葉が非常に印象的です。。

科学に求めてはならないものもある。人体に何かの完璧さを期待し、それを理想として追い求めるような姿勢は、科学のあり方としてふさわしくない

と。免疫学の最新知見の意欲作の本書。皆さんも是非手に取って下さいませ。