▼書評 『人体の冒険者たち-解剖図に描ききれないからだの話』

人体人体の冒険者たち-解剖図に描ききれないからだの話

著者 ギャビィン・フランシス
訳者 鎌田 彷月
出版社 みすず書房
発行 2018 07/17






《ありそうでなかった読む人体解剖図》
はじめに・・書籍『すべての医療は「不確実」である』が2019.01.03現在アマゾンで購入できない。紀伊国屋書店Webも同様である。この書籍をまだ読了していないが、大自然でさえ、まだまだわからない事だらけ、ましてや人体、医療も不確実があたり前と思ってしまう。

何が言いたいのかというと、脊椎動物のいちばん古い祖先の卵子は、進化して海水を浴びて育つようになり、さらに子宮が発達して羊水に満たされるようになって、ボク達哺乳類は体内に海を持つようになったのだから。自然も不確実だから、ヒトも医療もと。

さて、長い前置きはさておき本題に移ろう!!一見すると解剖図だからグロテスク?!いやはや著者の腕にかかれば、とても詩的!!詩的!!活字好きの方には堪らない書籍だと思います。
脳、目、顔、内耳、肺、心臓、乳房、肩、手首・手、腎臓、肝臓、生殖器や子宮、腰や足まで全18篇で構成され、読む人体図をときに詩的に、また医学的に描かれておりさらには、著者の博物学知識量にもただただ頭が下がるばかりです。

そんな著者は、スコットランドのエディンバラの総合診療医で、医師の傍ら7大陸を踏破し本書でも南極・ハリー基地での軍医経験などとしての体験なども織り交ぜながら見事な筆致で読者を惹きつけていきます。7大陸を踏破、人体を知り尽くした著者からして、つまるところ医療とは

劇的に命を救うことではなく、粛然と整然と死を遅らせようとすることです。

と。ところで、本書の詩的たらしめているのが、「目」の篇です。この篇では古代ギリシャ人、詩人で哲学者のエンペドクレス、プラトン、アリストテレス、ロジャー・ベイコン、ケプラー、ニュートン、アインシュタインと錚々たる顔ぶれの光に対しての見解を述べたと思ったら、「あなたが本書を日なたで読んでいるとすると、網膜に入ってくる陽射しの光子量は、ちょうど8.5分前に、太陽核の核融合で生まれている・・・2.5分前には金星を追い越している」ゆえに、ボク達は口のなかのものを味わい、手の届くものに触れ、半径数百メートル内のものに嗅ぎつけ、半径数百マイル内のものを聞きつける、しかし、太陽と星とコミュニケーションをとるのは、視覚だけだと。

そして、医学部時代の指導官に著者は 眼科医の道 を勧められたといいます。なぜなら最高の化学療法と放射線治療を尽くしても、生存率が50%に満たない、さらには訴えられることもある。眼科がどれほどいいか「患者さんに視力っていう贈りものをあげられるんだ!!」しかしながら、眼科医は、外科医の中でいちばん器用でなければならない―――手が震えるようでは、水晶体を扱うのに必要な細かな作業がうまくいかない。幅が数ミリしかない極小メスで、角膜の端に刺入創をつくるのだから。逆に専門外科医で敷居が低いといわれているのが、乳腺専門医だそうだ。詳細については本書をご一読下さいませ。

そして、ある白内障の手術を受けた患者が、その術後『あらゆるものの新しさ、何もかもが表面を光を洗われたかのような、世界の「生まれたて」の質感だった』と述べたそうだ。

他の篇でも、「顔」の篇ではベル麻痺を紹介、「内耳」の篇では吐き気。実は、からだが感じるつらさのなかでも、吐き気ほど耐え難いものはないが、吐き気ほど薬で抑えにくいものはないと著者は述べています。

上述には、医療とは?著者の見解を述べましたが、では医師とは、

看護師と医師はエリートで、無神経にどんどん仕事を進められる程度にうぬぼれている

今業界内では、臨床用語から感情が失くなっている。これは〝短縮〝されてきた証左であり、患者の痛みや苦しみから距離を置くためである。

感情移入や同情と、ある程度の超絶した態度やプロ意識とのバランスをとるには、経験と相手の気持ちを理解する力が必要で、毎回うまくできるものなどいない。
と。さらに著者は、

医学的に言うのなら。身体が醜いことはまずありえず、その図像には芸術に繋がる審美性があるといえる

―――たとえ、その図像が・・・直腸のものであれ。

解剖学という分野は、閉ざされた専門家だけが知る特別な分野の印象がありますが、逆に著者のいう、大事すぎて、驚きに溢れすぎて、隠したり専門家だけに委ねたりしておけない学問だというのも頷けます。

本書は特別な風景を提供してくれます。是非皆様も手に取ってみて下さい。
小職は改めて、進化生物学・進化医学の大切さを本書から学びました。さらには、名著「イリアス トロイアで戦った英雄たちの物語」を再度読みたくなりました。

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訳者 古屋美登里・小田嶋由美子
出版社 みすず書房
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