▼書評 『鉱物の人類史』

鉱物の人類史鉱物の人類史

著者 サリーム・H・アリ
訳者 村尾 智
出版社 青土社
発行 2018 03/10






《全米で最大の汚染源はどこの州??》
唐突ですが、皆さんは「鉱業」と聞いて何を思い浮かべますか??ボクはぼんやりとでした。人類史本がとりわけ好きなので、今回は本書をセレクト。小気味よいタッチで金(きん)、ダイヤモンド、石油、ウランetc..と網羅していきます。歴史、科学、化学、開発経済、産業生態学という聞きなれない分野、さらには「幸福論」まで。読者を惹きつけてやまない内容なのです。ただ、非常に残念なのが、使用されているデータが若干古い感があります。

鉱業のあるところ必ず環境への負荷がある。社会は鉱山から得られる利益の代償として、可能な範囲でリスクと向き合わなければなりません

物が溢れかえっていても、それでも人類は「欲望」が絶えません。。本書によればアメリカ人の5%が買い物中毒で、0.7%が薬物中毒だそうだ。果たして人類は「合理的で愚か者」なのでしょうか??資源の枯渇については、驚くべきことに著者は楽観的です。そんな著者はデラウェア大学の環境学教授で、訳者の村尾氏によれば2011年世界経済フォーラムの若きグルーバルリーダーにも選出された人材です。

石油工業の基礎的研究が人工心臓の弁に使うプラスチックを生み出し、携帯電話に欠かせないキャパシターにはニオブが使われています。タイトルからすると地味なイメージの「鉱物」は非常にボク達の現代生活に入り込んでいるのが窺い知れるのです。ボクたちの生活というのは社会心理学者いわく、

生活の質を高めるとエントロピーが増大し、そのエネルギーで消費は成り立っている

と。たとえば、日本人のエピソードも。真珠養殖を可能にした2人。御木本幸吉と農務省技官だった西川藤吉が大規模養殖の先駆け。ミキモト発宝飾業界の変化=すなわち、消費者は人工的に手を加わったものでも楽しむようになってとのこと。また、今後天然の色つきダイヤモンドは1万個に1個しかみつからないため、マケーティング次第では需要大だそうだ。

小職が初めて知ったのが、インドのスーラトという街だ。この場所は南アフリカやシベリアからはるばる宝飾用ダイヤモンドが運ばれてきます。その割合は世界の85%だという。価格計算では60%に相当するそうだ。実はここの商人たちは宝石の色合いを良くする加熱処理の技術を持っているという。著者は、投資は地元の技術と市場をつなぐ部門でなされるべきと力説しております。そういえば、我が国も「鉄は国家なり」といわれた時代がありましたね。そう鉄でした。技術の進歩で金(きん)の生産量も増加してきました。金(きん)の鉱石の品位は0.0003%、銅0.91%、鉛は2.5%、アルミは19%、上述の鉄は40%です。

ダイヤモンドや金(きん)の話となれば、開発途上国がはずせませんよね。その代表する課題が「資源の呪い」です。たとえばボツワナはダイヤモンドが利潤を生んだため、アフリカ最貧国から最富裕国へ、さらには女性の識字率も90%を超える地域もあるといいます。他方、資源産業が「汚職」と深い関係のあることは歴史的に見て間違いないわけで、とりわけ特定の部門=石油・鉱物が紛争の原因となるといいます。国民総生産と一次輸出産品額の比を存在する資源量の指標と考えGDPの割合で35%あたりで、内戦リスクが最高になるという結果を導いたそうです。アフリカなどの内戦は、反乱軍へ資金が流入するからではなく、統治能力の低さでもなく、

資源の賦存量である

と著者は結論づけております。

そこで、本書の第3部(最終部)では、環境及び持続可能な社会への道しるべの提案となります。著者による見解の前にノルウェーのエクソンで社長を務めたオイステン・デール言葉を紹介させて下さい。

市場に真実を語らせない社会主義は崩壊した。
しかし市場に生態系を語らせない資本主義も崩壊するだろう
と。実は産業エコロジーを世界で初めて実践したのが、1971年日本の当時の通産省だそうだ。生態系への影響を制御し、生態系の均衡を保つメカニズムの構築し主眼を置く。それから3.11東日本大震災の際は、資源に対する意識に国民の芽生えたわけであるが、「節電」最近はあまり聞かなくなりました。そして、全米では32の州に557650箇所の休廃止鉱山があり、500億トンのズリが無処理で放置されています。ところ変わって中国では貴州、山西、河南、そして四川省を中心に600年間、水銀を放置した結果、この周辺では土壌中の水銀量が政府の定める許容量の16~232倍にもなっている地域もあるそうだ。

人間を自然から遠ざけてきた産業活動(本書では鉱業)が、どうやって、自然の生態系と結びつくのだろうか??

好むと好まざるとにかかわらず、産業活動は自然に影響を与え、また、その逆もある

生産と消費に忙しすぎる人類にとって産業と自然界の相互作用を制御する事はもはや困難。快適な生活を知ってしまったボク達は、今さら、昔の生活に戻る事はできない。

なので、自然科学は産業システムを取り込まざるを得ない。

と。さまざま産業で「リサイクル」の活動は取り組まれているのは周知の事実ですよね。しかし、アメリカでは1950年代から、金属のリサイクルが伸びており、中には新品の量と拮抗している金属もありますが、新品の消費量は抑制されておらず、むしろ伸びているのが現状です。ただ、ライドシェア(相乗り)を一台導入するごとに新車購入32台分に相当するという米・ジャーナリストもおります。たゆまぬイノベーションが重要です。

とにかく、話題が豊富な本書。また、ネット販売において買い物カゴに入れれば、次の日には手元に届き、物が溢れかえる時代でもあります。どう消費と環境をどのように折り合いをつけるのか。この問題を提起した本書はおススメです。

《A:冒頭の答えはアラスカ州です。世界最大の亜鉛鉱山=レッドドッグ》
この鉱山は、毎年5億ポンドもの廃石や尾鉱を積み上げているとのこと。

皆さんも是非手にとって下さいませ。