▼書評 『遊びが学びに欠かせないわけ-自立した学び手を育てる』

遊びが学びに遊びが学びに欠かせないわけ-自立した学び手を育てる

著者 ピーター・グレイ
訳者 吉田 新一郎
出版社 築地書館
発行 2018 04/18






《何が普通で、何は普通でないかという考えの転換》
《著者がいう、天才とは??》
はじめに・・今年読了した書籍で『食と健康の一億年史』があります。健康のために一日2時間座業を中断し歩くことを推奨しております。キーワードは「狩猟採集民」。実はこの書籍の内容も同様だったのです。本書のタイトルが「教育」ではなく「学び」になっているのも頷けます。著者はボストン・カレッジの心理学の研究教授です。ハーバード大学心理学教授のスティーブン・ピンカー氏いわく、著者は「子どもの遊びの進化学」に関する世界的な権威の一人だといいます。

著者のやさしいタッチと丁寧な文面が印象に残る書籍です。まず、信頼にあふれた親が20世紀前半に増え始めたにもかかわらず、後半に入る減り始めたそうです。その理由(わけ)は、①近所の弱体化と、子どもたちの近所での遊び友だちの喪失、②子育てについての常識の低下の世界的な不安の上昇、③未来の雇用の不確実性の増大、④学校の力と、学校が押し付ける抑圧的な諸条件に従わせる必要性の高まり というのが著者による見解です。

ボクも子ども頃を回想しながら読み進めましたが、確かに中学生時代の部活動の拘束時間が長かった記憶があります。スポーツ庁の有識者会議でも見直すの骨子がまとめられております。さらには、体罰、いじめ、自殺とネットから配信されるニュースでよく取りざたされております。

そこで、著者はダーウィン的な見方で子どもの成長を研究し、子どもが自分の生まれた文化の中で生き延び、そして成功するためにしなければならないことを、自発的に学んでしまう、生まれつき持っている特質を明らかにしております。現在の教育界で重要なことは、測れて、比較できる学力です。生徒間、学校間、地域間で、さらには国の間でも、誰がよくて、誰が悪いのかを比較しています。

本当の学びと深い知識とは、子どもが考えや情報を取り込んで、持続的に理解し、自分の周りの世界に反応していくこと

だというのです。たとえば、上述した「自殺」にフォーカスしてみましょう。1950年以来、米国における15歳未満の子どもの自殺率は、4倍に増えました。15~24歳も2倍に、逆に40歳以上では低下しているそうです。子どもたちは、我が国を含め明らかに「大きなストレスの中で勉強」しております。現代の病気についても言えますが、もし、人類の歴史を100万年とした場合、その99%は狩猟採集民として過ごしてきたのです。その狩猟採集民よる子育てと教育観というのが、①子どもの生まれもった才能を信じる、②自分の意思に従って行動できるようにすれば、子どもは学ぶべきことを学ぶ、③子どもがスキルを身につけ、十分に成熟した段階で、子どもは自然にバンド(共通の目的をもって行動する小集団)の経済的活動に貢献し始めるというものです。

「遊び」において子どもたちの感情は2つの凝縮されるのです。それは「興味関心」と「喜び」です。

その最適なモデルケースとして、本当に民主的な学校のサドベリー・バレー・スクールが紹介されています。設立者でありスタッフのダニエル・グリーンバーグは次のように述べております。

知識はその正しさや間違いによって評価されるのではなく、有用性で評価されるべき
いいアイディア(概念)とは、人にその人の周りの社会的・物質的な世界について理解を助け、それによってその人が世界の中でしっかりと歩むことができる

ものなのですと。ボクはサドベリー・バレー・スクールの存在を恥ずかしながら本書で初めて知った次第です。このスクールでは「洗脳」ではなく、学校とは「探求」と「発見」の場でなかければならないとまざまざと詳述されています。ボクは是非現地に足を運んでみたいと思いました。

たとえば、生徒たちは一日中自由、逆にいえば「一人ひとりの生徒は自分の教育に責任」があります。詳細については、本書をご一読下さい。このスクールと何が「狩猟採集社会」に似ているのでしょうか??①遊びと探求するための時間と空間、②生徒たちは年齢に関係なく自由に交流できる、③知識があって、思いやりのある大人たちへの接触、④考えを自由に交換できることetc.. 

実は、「遊び」の重要性については1世紀以上前に哲学者で博物学者のカール・グロースが述べていました。

動物は小さくて飛び回っているわけではありません。遊ぶために青年期があり、遊ぶことによって、その後も生きて生存していくのに必要なスキルなどを身に着つけるために、遺伝的には不十分にしか受け継がなかった能力を自らの体験を通して補うことができる

と。では、ここで皆さんに3段論法の質問です。アリストテレスによって最初に提示された古典的な論理的な問題です。

すべての猫は吠えます。(大前提)。マフィンは猫です(小前提)。マフィンは吠えますか??

この3段論法は有名なスイスの発達心理学者によって研究されております。実際4歳の小さい子どもでさえ、頻繁に問題を解けます。「はい、マフィンは吠えます」と。前述は質問者が「遊びの口調」で提示したケース、しかし「真剣な口調」で言った場合は、たとえば次のように答える方もいるのでは「いいえ、猫は鳴きます。吠えません」なんて。遊びのパワーというのは、学び、創造性、そして問題解決とその遊びの心理状態によって促進されうるものなのです。小職はサドベリー・バレー・スクールの年齢の垣根のない(異年齢混合)の「学び」の場が非常に重要と思いました。その最も有益な点が年少者が年長者を「観察」することです。研究事例多数でしかも本書は平易に述べらております。

そして、近年その使用率が下がらない遊びの形態のひとつが、ビデオゲームですね。オランダで行われた大規模調査では、自分の部屋のコンピュータかテレビのある子どもは、両方とも自分の部屋にもっていない子どもに比べて、少ない時間ではなく、より多くの時間を外で遊んでいるという結果がでたそうです。

子どもたちの外での遊びの減少は、親の不安や社会的な変化がありますが、束縛からの解放も大きな要因のようです。

最後に著者による天才とは??

天才は大人になっても小さい子どもが持っている想像力ををどういうわけか維持している

人だ。アインシュタインの相対性理論の理解は、自分が光を追いかけ、追いつく結果を想像したことによる産物でしたから・・

真の「学び」についてご興味のある方は是非、本書を手に取って下さいませ。