▼書評 『孤独の科学-人はなぜ寂しくなるのか』

孤独の科学孤独の科学-人はなぜ寂しくなるのか

著者 ジョン・T・カシオポ/ウィリアム・パトリック
訳者 柴田 裕之
出版社 河出書房新社
発行 2018 02/20






《人と人を結ぶ交感の糸》
《心は何においても、体に関するものでなくてはならなかった。 神経学者アントニオ・ダマシオ》
小職のトイレタリーライブラリーには、現在数冊ありますが『認知症-専門医が教える最新事情』という書籍を読み進めています。前述の書籍にも記述されておりましたが、「人とのつながり」が認知症の予防になるとか、また、書籍『「病は気から」を科学する』には、コスタリカ南西に位置する二コラ島の住民は、毎週お子様と会うことで寿命が延び我が国より2~3年も寿命が長いなどの内容を思い出しました。

そして、本年年初の英国のニュースですね。「孤独担当相」設立のニュースは、yahooにて本当に話題になりました。そこで、本書です。正式には「孤独」ではなく、「孤独感=主観的な経験」にフォーカスした科学ノンフィクションであり、孤独の背景、現状、分析、科学的説明、対処法etc..や訳者の柴田氏の力量により非常に読みやすく、尚且つ明解に記述されておりますので、小職にとってはすごく好書でした。

たとえば、言語道断のルーマニアの例です。共産主義の独裁者二コラエ・チャウシェスクは、国内のすべての村々を破壊し、伝統的なソヴィエト様式の計画。その際、何千もの赤ん坊が情動面で強制収容所に相当する児童養護施設に引き取られました。子どもたちは、抱きしめられることも、笑いも、微笑みもなかった。この養護施設が解放されると、3歳児でさえ、泣きも話もしないことが判明。その後も持続的な人との絆さえ結べず、だったそうである。

「孤独感」と言っても、一人でいる時にだけ経験するものではありません。大勢のいる会場においても、この経験は生まれます。進化の観点からボク達の祖先は狩猟採取民でした。その過程で自分の遺伝子を次代に受け継がらせるにあたって、「場の空気」を読むのに疎いほうが、猛獣に引き裂かれたりするよりもありふれた脅威となったのです。そのため、「空気を読む」、すなわち他者の思考や感情を読み取る必要性があったため、社会的認知ばかりか社会的情動をも含む、ますます洗練された感覚運動アプローチが優位に立ちました。他者の精神状態を認識する能力=「心の理論」が人類に最も近い親戚のチンパンジーやその近縁種のボノボにすでに見られる特性を合わせたり、増強したりしている人類たらしめているものなのです。たとえば、当初の人間の社会つながりの最大の利点が大量のたんぱく質の獲得、すなわちライオンでさえ抜群のチームワークを活用すれば仕留められると言われれば納得することでしょう!!因みにですがいやはや、現在当園では〝野菜の苗木〝を好評販売中であるが、トマトの根には四種類のバクテリアがついていて、連携して窒素を固定し、成長ホルモンを促し、競争相手を撃退します。

しかし、著者らは最初期の狩猟採集民の環境から考えると現代のように長い間、悶々と思い悩んだり、ジレンマに陥ったり、内省を重ねたりする余裕はなかっただろうと推測しております。結果、現代は「心理的葛藤、孤立、分析による麻痺状態」という悪循環に発展していったというのです。これが、孤独感と抑鬱感のフィードバックループにはまり込む構図です。現にオハイオ州立大学の調査では、社会的に満足している成人が報告した慢性的なストレス要因と孤独な成人とでは、孤独な成人のほうが25%高くさらには、この差は生涯を通じて開いていくといいます。

さらには、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)の研究結果から、通常、幸せな人の顔を見ると脳の報酬領域が活性化するが、孤独感はこの反応を鈍らせることがわかったそうだ。脳の機能という点からも本書では明確な指摘が、神経解剖学的説明から、脳の力は生命にとりわけ深くかかわるもののうち2つのかなりの割合で使われているのがわかります。その2つとは??

①:情動の認識
②:自分以外の人間

です。たとえば、ボク達は、悲しげなピエロの写真と陰鬱な森の写真を見比べたときに、ピエロの写真のほうが脳の中の多様な領域で、より多くの活動を引き起こしていたのです。思考方法も変わってきますね。孤独感が深い人ほど、失敗は自分のせいに、成功は状況のおかげにしがちであります。他方、孤独でない一般人は、失敗は運の悪かったせいで、成功はたとえ幸運のおかげにすぎなかったとしても自分自身の手柄にするのが標準的だといいます。

さて、次章では、この「孤独感」にはどのような弊害があるのか見てみましょう。