▼書評 『未来の呪縛-日本は人口減から脱出できるか』

未来の呪縛未来の呪縛-日本は人口減から脱出できるか

著者 河合 雅司
出版社 中央公論新社
発行 2018 04/10







本書はベストセラー『未来の年表』の著者による最新刊です。著者は作家・ジャーナリストで産経新聞社論説委員でもあり、さらには内閣府「少子化克服戦略会議」の有識者委員でもあります。

さて、今年の年初に英国において、「孤独担当大臣」の新設がが話題となりましたね。また、かつてバイクで世界一周、特注のベンツで世界一周を体験のしたことのある冒険投資家のジム・ロジャーズ氏はこれからの日本の未来について①子どもを増やすか、②移民を受け入れるか、③生活の質を落とすか ①~③の点を考慮しなければならないと言っていたのを思い出しました。少子化の影響は企業にも。人手不足の問題であり、中小企業においては後継者不足で「大廃業時代」の到来!!とも叫ばれております。

さて、本書です。著者は仕事の傍ら次の質問が大学生から投げかけられると言います。少子化について

「大人たちは、なぜここまで状況が悪化する前に手を打たなかったのですか」

と。上述した英国の「孤独担当相」より深刻なのが我が国ではなかろうか。2010年を100とした場合、50年後の2060年には、先進国の総人口がどうなっているか?韓国が89.9、ドイツが79.1、日本はなんと67.7である。先進国は、少子化傾向だと誰もが信じていたかも知れませんが、日本は断トツ!!です。よって本書の第一部では「少子化の呪縛」、第二部では「少子化からの脱却」と述べられております。さて、皆さんであれば、上述の大学生からの質問になんて回答されるでしょうか??我が国においては、特殊な過去がありました。

それが、人口戦です。1945から50年の間に6回もの人口調査・国勢調査を実施させていたGHQ。アメリカは日本が日中戦争と大東亜戦争に踏み切った原因は「人口増加」にあったと分析していたというものです。日本の人口減が国の勢いを衰えさせる。GHQの狙いはこの点にあったと。たとえば、GHQの顧問トムソンが来日した際に、東京新聞は次の記事を掲載しました。1949年4月20日のことである。

「このまま、日本の人口が増え続けて行けば後になって敗戦と占領さえ幸福だと思われるような悲惨な状況に陥ることは免れないことを知る時期に来ている。日本としては人口調節をやらなければならないことを日本人に告げなければならない」と。日本人口一億、世界一の増加率、人口洪水対策産児制限他の新聞の見出しも同様だったといいます。GHQがもう一つ、戦後の日本に対して恐れていたことは「共産国家」でした。1948年の南北朝鮮の分断、49年には中華人民共和国が誕生し、50年には朝鮮戦争が勃発した背景があったからです。つまり、GHQの当初の占領目標は、日本の非軍事化であり、民主化、平和国家に生まれ変わらせる、冷戦時代が進む中で、

日本の人口抑制の最大の目的が「共産国化させないこと」となり、それことが米国にとって最優先すべき「国益」になったのである

と。さらに、著者は本書で結論づけております。

婚姻と家族という、日本人の価値観自体を変えていく取り組みこそが、GHQの仕掛けた戦闘なき戦争の本質である

というものです。本書では著者らしい視座で吉田茂内閣の閣議決定の内容、日本の産児制限の考え方を普及させた女性マーガレット・サンガ―の国会招致、その後の政府による第五次吉田内閣の閣僚からの重要な発言etc..とGHQがひた隠してきた「人口抑制策としての産児制限」の経緯が記されております。

その結果、純生産率が1を割ったのは、1956年のことです。つまり、約30年以降、人口は次第に減少することを意味していました。その他、1947~1949年のベビーブームはなぜ我が国だけこの短期間だけだったのか??1972年のローマクラブによる発表報告書「成長の限界」とへ時代が経過していきます。翌年の第一次オイルショックです。「資源は無限ではない」=人口過剰問題が世界規模で喫緊の課題となったのです。

著者は1956年から57年の段階で、人口は減少は静止せず、下降線をたどっていく傾向を、政治家や官僚はすでに認識していたといいます。「少子化」この言葉は利用されたのが、平成4年度の国民経済生活白書からであり、2015年安倍政権により、政府が具体的に「人口目標の数値化」を発表したのが、実に1941年以来でありました。

第二部には著者による提言がなされております。たとえば、第3子以上に1000万給付、子育て世帯の全国転勤凍結やゼロ歳に選挙の投票権を付与etc.。保護者が将来世代の「代理人」となり、親は自分のための1票と、自分の子どものための1票を投票箱に入れるなど具体策も記述されております。

このまま少子化に歯止めがかからなければ、ボク達の暮らす日本は

子どもがいないことを前提として社会を作り上げてしまうことでもある

ということです。環境問題と異なり、〝今すぐ〝に実行が難しく我が国にとっては〝特効薬〝はないわけですが。戦後70年かけて減らしてきた出生数の流れ。日本国民一人ひとりの問題でもあります。

皆様も是非本書を手にとって下さいませ。

【関連書籍】
フランスはどう少子化を克服したか (新潮新書)

著者 髙崎 順子
出版社新潮社
発行 2016-10-14

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