▼書評 『酒の起源-最古のワイン、ビール、アルコール飲料を探す旅』

酒の起源酒の起源-最古のワイン、ビール、アルコール飲料を探す旅

著者 パトリック・E・マクガヴァン
訳者 藤原 多伽夫
出版社 白揚社
発行 2018 03/20






《Q:ペルー・アンデスの地において、最古の栽培植物は??》
以前読了した『海を渡った人類の遥かな歴史-古代海洋民の航海』を本BLOGにてupしましたが、本書も壮大なスケールで語った人類史です。何しろ最古のアルコールを探る旅ですから。積ん読をしていると、同種の書籍が同じ年に重なるものなのです。前述の書籍と本書を併読すれば、楽しい旅へと導いてくれることと信じております。訳者の藤原氏が原書を翻訳するのに、約2年半を要したと言います。著者は、ペンシルベニア大学の考古学人類博物館、「料理、発酵飲料および健康に関する生体分子考古学プロジェクト」のサイエンスディレクターです。

最古のアルコールを巡る旅と言っても、実に多彩な分野を網羅しないと理解できないわけです。考古学、宗教、芸術、文学、民族誌、化学、生物学etc..さらには、著者は「考古腫瘍学ー薬はどのように発見されたのか」というプロジェクトにも取り掛かっております。 小職も最近「日本酒」に凝り始めたこともあり本書をGETしました。

たとえば、ワインと言えば??となるのですが、本書での最古のアルコール飲料を探る旅は「中国」からスタートします。ブドウの野生種は世界で最も多いのが中国で50種以上、次いで北米です。北米で20~25種に及ぶそうです。また、1000年前にヴァイキングが北アメリカを訪れたとき、豊かに実ったブドウに感銘を受け、この新天地を「ヴァンランド」と呼んだエピソードも。最古のアルコールを探るのは世界の遺跡巡りでもあります。中国では近東より5000年早く土器を使用し、およそ1万5000年前だそうです。土器があれば発酵飲料の醸造や保存、提供ができます。最古のアルコール飲料は。中国の蕒湖(ジァフー)湖で発見された約9000年前の「ブドウとサンザシのワイン、ミード、米のビールを混ぜた複雑な発酵飲料」でした。

その中国においてどうのような酒にまつわる慣習があるかというと、酒が入った容器を女子が生まれたときに地面に埋め、歳月を経てその子が嫁ぐときになって初めて掘り起こされ、封を開けて酒を飲むという伝統があるそうです。賈湖のグロッグを米の酒の一種と見なせば、日本酒より7000年以上前に米の酒が釀造されていたことになるそうです。しかしながら、余談ですが日本酒は「和食文化」と同様に海外でも評価され兵庫・秋田県産がまずは英国へ輸出されたそうです。

その他、現在のパキスタン西部に当たるバルチスタンには、大麦が紀元前五千年紀に存在していたこと、コルクがなかった時代に「ワインの病気」(ワインが酸素に触れると酢に変わってしまう不可避な現象)を防ぐ方法=世界発のワイン棚の考案を発見したり、世界最古のビールの「レシピ」はシュメール人であったり、南カフカスとトルコ東部の一帯がヨーロッパブドウが初めて商業化された地域と断定したりと、中国⇒中央アジア⇒中東⇒ヨーロッパ⇒アメリカ大陸、最後に人類生誕の地アフリカへと舞台が本書を読み進めると巡っていきます。

面白かったのが、紀元前6000年頃に発明され、ワインをはじめ飲料や食料を特別な容器でつくり、栓をした壺に保存して変質を防げるようになって、定住化への移行が加速したとされる「新石器時代料理」の言い回し、アメリカ大陸最大の発酵飲料の生産設備をセロ・バウルに築いたとされるワリ人の存在です。このワリ人に小職は非常に興味が惹かれました。

つまるところ、いにしえの世界の多くの文化で飲酒は

他者に対して権力をふるうための手段であり、誰よりも酒を飲み、最も大きな宴会や饗宴を開ける人物こそが、最大の尊敬を集める

のであると。墓地、泥炭池から出土する壺は、社会か宗教、政治の世界でエリートとされた人々のものだったと理解できます。

著者は世界各地で発見された飲酒の再現したりと根っからのお酒好きだと思われます。そこで、本書では読み手に次のように問うのです。人類が革新性と発酵飲料に惹きつけられる性質をもって生まれたという仮説。

アルコール飲料が人間の生活にこれほど溶け込んでいるのなら、文化的な伝統に頼るまでもなく、醸造と飲酒に駆り立てるものが人間の体に「組み込まれている」とは考えられないだろうか

と。小職はお酒がものすごく好きなのですが、すぐにからだが真っ赤になってしまいます。よって、自分のからだに相談しながら嗜んでおります。とはいえ、人類だけがお酒を楽しんでいるわけではなく、たとえば原始的な哺乳類の特徴を残したマレーシアの動物ツパイが、発酵したヤシの蜜を夜ごとたらふく飲んだり、一般的なショウジョウバエはエタノールやアセトアルデヒドのにおいが強い場所に卵を産むそうです。上述のように、著者による「考古腫瘍学」の次の展開により、古代の薬に含まれていた化合物がどのように治療に役立てられていたかを探るプロジェクトも待ち遠しいです。

本書を手にしてすぐに悔やんだこと。それは「もっと世界史を学習しておけばよかった」そう痛感しました。人類の知られざる歴史をひもとく考古学の醍醐味がびっしりと詰まった書籍です。

お酒愛飲家も歴史好きの方も是非、本書を手に取って下さいませ。ただし、お酒は20歳になってからです。

《A:冒頭の答えは、かぼちぁ です》

【関連書籍】

納豆の起源 (NHKブックス)

著者 横山 智
出版社 NHK出版
発行 2014-11-22

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