▼書評 『答えのない世界を生きる』

答えのない世界答えのない世界を生きる

著者 小坂井 敏昌
出版社 祥伝社
発行 2017 08/10







《人間は弱い!!だから、易しきに流されないように、逃げ道を断って自らを追い込むことも時には必要である》

《型を破る人間が型を破ると型破り、型のない人間が破ったら形無し》

例外時代』という書籍があります。バブル期の時代の書籍でして、終身雇用、買った不動産は毎年のように、右肩上がりの時代でした。小職は、そんなことも知らずに呑気に学生時代を送ったのです。世はグローバル時代に突入しさらには、ドック・イヤーなる語が死語になるくらい、技術革新が見覚ましく、昨日の勝者が明日は敗者なんてものを目の当たりにする時代でもあります。
だから、勉強!!

現在、パリ第八大学心理学部に籍をおく著者。そこまでの道のりは本当に稀有の半生だったのです。小学生時代は、手品師・ミスターマリックの師匠ドクター澤と食事をし、新興宗教にも手を染め、早稲田大学を2浪し、合格すればしたで、自分探しの旅へと出かけます。しかし、一番苦い想い出しかなかったフランスでの職探しとストーリーとしても実に本書はユーモアです。

本書は、2003年に出版された『異邦人のまなざし』の改訂版だそうです。その趣旨は異邦人や少数派が果たす役割をより掘り下げ、開かれた社会の意味を考察するのです。小職は活字バカでいろいろな書籍を手にしておりますが、とても刺激的で異空間に引っ張り込まれた感覚になりました。

例えば、学校教育の現場は〝飼育〝つまり調教の現場と厳しい意見が。社会に役立つ人間を育てる。均一的な人間を生む。その典型が 学校における生活指導です。日本では生活指導を学校が担当し、生徒が校外で問題を起こすと責任を負います。フランスでは中学以降、生徒の指導をしない。すべて、親の責任です。従って学校が親に文句を言います。そもそも社会は自由であり、だから中学生がタバコを吸っていてもフランスの教員は注意をしません。タバコの購入は個人消費の自由なのです。それが、開かれた社会といい異文化から指摘です。

社会には必ず逸脱者が生まれ、それが契機となり社会変遷します。それが同じ型であると。開かれた社会の本当の意味するところは、社会内に生まれる逸脱者の正否を当該社会の論理では決められないということです。常識に囚われ過ぎてはいけない。それが、過ぎると発想の転換が難しい。

均一的な人間になるな。また、企業においてはとにかく「イノベーション」だと力説されます。では、アイデアが生まれるとは??

矛盾を前に妥協してはならない。逆に矛盾を突き詰める姿勢から画期的なアイデアが生み出される。先入観を捨てる大切さ。その難しさ。発想の転換を邪魔する最大の敵は知識の桎梏である

と。本書においての事例は多数。17世紀の天文学者ヨハネス・ケプラーをはじめ、ニュートン、アイシンシュタイン、ところが、日本の大学生は、カントにおける主体概念、ハイデガーにおける時間概念、レヴィナスにおける責任概念・・・・。何を研究するのではなく、誰を研究しているになっている。「そんなものどうでもいい」と言い放ち「自分にとって、主体とは?時間とは?責任とは何なのか」を問えと。

人間や社会を対象にする学問において大切なのは創造性ではない。自分自身と向き合うことだ


と。そもそも日常当たり前だと思うことが不思議と気づいたり、反対に、奇妙に思える現象に論理性を発見するケースもあります。しかし、普遍的だと信じられる価値は、どの時代にも生まれます。しかし、確実な答えだとボク達の眼に映っても、時代とともに変遷する以上、普遍的価値ではありえないのです。例えば、キリストやガンジーは正しく、ヒトラーやスターリンは間違いという審判は後世が出した結果です。当時はキリストやガンジーは逸脱者であり、対してヒトラーやスターリンは当初、国民に多く支持されていました。つまるところ、時間を超越する価値は存在しないのです。

正しい答えが存在しないから、正しい世界の姿が絶対にわからないからこそ、人間社会のあり方を問い続けなければならない

これが、著者の考えです。さらには、

知識とは、固定された内容ではない。世界像を不断に再構築し続ける運動である。

驚きをもたらさない知識などはたかが知れている。科学は実証である前に、まず理論的考察だと。

本書は実に奥深く、驚きの内容でした。フランスの数学者、アンリ・ポアンカレは、次のように指摘しました。「アイデアは簡潔な形を持って突然にひらめき、絶対に正しいという確信を伴って現れる」と。

スマホを手放し、大自然に!!でも良し。知識は「広く浅くよりも、狭く深く」しかし、そのどちらでもない。自分で疑問に思った点はそれが解明されるまで、どこまでも追求することです。

ビジネスに、勉学に「最近、行き詰ったな」とお感じの方は、是非本書を手に取って下さいませ。