▼書評 『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』

動物の賢さ動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか

著者 フランス・ドゥ・ヴァ―ル
訳者 柴田 裕之
出版社 紀伊國屋書店
発行 2017 09/07

《もしライオンが話せたとしも、私たちには理解できないだろう!!》
《本書が伝える、もし唯一無二という語に最上級をつけていいとしたら、〇〇はすべての中で唯一無二の種といえるかも知れない、その動物とは??》

著者は、ヤーキーズ国立霊長類研究センターのセンター長で、過去には、チンパンジーのお尻と人込みの背後の認知でイグ・ノーベル賞の受賞歴があります。その著者が専門とするのが「進化認知学」です。それは進化の観点からあらゆる認知機能(人間のものも動物のものも)を研究する学問である。どの種を研究するかがとても重要であることは明らかで、すべての比較に人間が中心的位置を占めるわけではないということです。よって「鏡よ、鏡、一番賢いのは誰?!」こんな設定は馬鹿げています。研究事例が多数紹介されており、納得の結論です。その結論を端的に表したのが、スコットランドの哲学者デイビット・ヒュームです。

私が見るところ、獣にも人間と同じく思考と理性が備わっていることほど明白な真実はない。

ボクが一番しっくりきたのが、西アフリカのチンパンジーは、エイズの蔓延が人間に大打撃を与えるよりも以前に、HIV-1型ウイルスに対する抵抗力を進化させていたというものです。つまり

あらゆる器官やプロセスはボク達の種よりもはるかに古く、厖大な歳月を重ねて進化し、それぞれ生き物に特有の改変が少しばかりなされてきた。進化とはそういうもの。

それでは、個別の種についてみてみましょう!!ここで重要なのが「ウンヴェルト(環世界)」です。動物の視点に人々の注意を向けさせ、その視点から見えるものです。たとえば、チンパンジーは食べ物のありかをさとられないように振る舞い、一コミュニティ15~25種類の道具を使い、その種類は文化や生態環境の状況で変わってくるそうです。また、ミヤマガラスは2000年前イソップの寓話の「カラスと水差し」を忠実に再現し、水の入った筒に石を落とすと、コナムシが浮かび上がる解決法を取得したり、カケスは未来と予期している必要と願望に導かれ行動し、シグネチャー・ホイッスルを発するイルカは、20年前に認識したイルカを、シグネチャー・ホイッスルで検討が付くetc..驚きの動物行動学は、本書ではなんと著者によるイラストつきでありますので、非常にわかり易いです。

最先端の科学を用いて、犬をfMRI(機能的磁気共鳴画像法)なども紹介されております。それでも、人間だけが、「言語」を操る種であります。たとえばチンパンジーなどは「今、ここ」に全面的に制限されているのです。もしボクの目の周りが黒い痣になっていたら、昨日、酔った人たちと酒場に入っていって・・・。という具合に説明できる。ところが、チンパンジーは事後に説明しようがないのです。

ボク達人間の世界は、インターネット時代の到来により、厖大な情報を含んでいます。この情報の大海で、ボク達はいとも簡単に溺れてしまいうる状況です。しかし、生き物の認知機能は情報の流れを絞り込み、その生き物が生活様式などに即して知る必要のある具体的な随伴性を学習することを可能にする。

動物は知る必要があることしか知らない場合が多い

のです。
互恵関係を承知しているシャチなどは、捕鯨の際に、捕鯨基地に近づいては、派手に水面から躍り出たり、尾びれで水面を叩いたりして、ザトウクジラの到来を人間に知らせ、捕鯨員にザトウクジラが仕留められると、シャチたちは丸一日かけて、大好物のご馳走(クジラの舌と唇)を貪り、そのあと捕鯨員が獲物を回収する。見事までの人間とシャチの協同作業である。そんな動物たちと共存するこの地球を破壊しているのは、人間ではないのか。

著者による、最新のテーマは〝情動〝だといいます。人間の心や行動の進化的起源をそれ以外の動物との比較を知る学問は、ようやくボクたちの時代に始まったばかりを窺い知れます。

人間と動物の違いは程度の問題であって、質の問題ではないという立場。本書をご一読いただければ、納得することでしょう!!何かの種を観察するには、最低その種を2000時間費やしなさいというのが著者からのアドバイスです。

AI時代だからこそ、進化認知学はおススメです。皆さんも是非手に取ってみて下さい。

《A:冒頭の答えは、タコ です》

【関連書籍】
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著者 ジョン・マーズラフ
訳者  東郷 えりか
出版社 河出書房新社
発行 2013-09-13


レビューは 


タコの才能 いちばん賢い無脊椎動物 (ヒストリカル・スタディーズ10)
著者 キャサリン・ハーモン・カレッジ
訳者 高瀬 素子
出版社 太田出版
発行 2014-04-17


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