▼書評 『食と健康の一億年史』

食と健康食と健康の一億年史

著者 スティーブン・レ
訳者 大沢 章子
出版社 亜紀書房
発行 2017 10/28






《進化は、必ずしも長生きする動物を好まない》
《人が摂取する中で最も複雑な物質とは??》

小職は2016年末から「食」や「食と健康(ダイエット法などを含む)」本を読み漁ってきました。「健康のため」にはこの食材と貪ると本書は残念な結果になります。本書の結論は落ち着くところに落ち着いたという内容です。また昨今健康情報に溢れかえっています。例えば、アルコールがDNAを損傷し、二度と戻らない状態になり、適量などないなどと。一体どの情報を信じれば??

フィールドワークを好む著者は、ベトナムに行けば、大ミズムシ、イナゴ、コオロギ、アリの幼虫を食べ、第3章の肉食の項では煮たオオコウモリも貪ります。また、長寿で知られていた沖縄や友人が住む札幌、再度長寿王国ギリシャ・イカリア島、さらにはアシュール文化期の握斧を体験しにアフリカ・ケニアにも飛びまわります。昆虫、果実、肉、魚、穀物、栄養学、進化論、自然人類学の見地を食レポとともにリポートするので、ノンストップ・ノンフィクションでもあります。本書が他の健康書籍と違う点のひとつが、人類進化の概念を常に念頭の置いている点です。

例えば、昆虫食。世界では、1600種以上の昆虫が食用されているが、人類はもはや純然たる食虫動物ではなく、人の身体もそのように適応を遂げている。昆虫を主要な栄養源とする霊長類はキチン質を消化するための消化酵素を持っているが、人の胃液にはこのキチン質を分解する消化酵素はわずかしか含まれていないとします。

小職が興味そそられたのが、乳製品の「牛乳」です。これが冒頭の牛乳が人が摂取するなかで最も複雑な物質だからです。牛乳には代表するカルシウム、三価のリン、飽和脂肪、カゼイン、ホエーたんぱく質、アミノ酸etc..今なお牛乳に含まれる新たなホルモンが発見され続け、リストはまだまだ長くなりそうです。この複雑な牛乳は現代の食事においては、超能率的すぎてカルシウムの吸収力は不利益をもたらします。何故なら、カルシウムをより効率的に吸収することを可能にする遺伝子変異体を持つ人、持たない人と日本であれば、45%と55%です。より具体的にいえば、北欧や東アフリカの遊牧民たちは、何千年間も乳製品にさらされてきていて、ラクトースを消化する大変さや、乳製品を摂取することがもたらしうるその他の負の影響に対処する遺伝子構造を持つようになり、アメリカ大陸の人々は、乳製品に特徴的な大量のカルシウムやコレステロール、その他の成分を処理する遺伝子を持っていません。上述の内容からわかる強烈なメッセージとは、、

祖先の時代の生活を反映する食べ物やライフスタイルを見つけ、あとは自分の身体―――
何百年にもわたる進化的改良のすぐれた産物――――に任せることなのだと。気づかされる

牛乳を摂取すれば確かに背が伸びどの社会でも社交性望ましいことで、男性にはとりわけ顕著です。しかし、前立腺がん・乳がんなどのある種のがんりリスクが高まるというのです。さらには、股関節部骨折がカルシウム摂取している国ほど、頻繁に起きているそうです。他方、乳の飲んだのは赤ん坊の時の母乳だけだった、ニューギニアの骨折率は最低のほうであったそうです。乳製品の大量の摂取は、背の高さと引き換えに健康を差し出すことになっています。この進化的な要点は、肉についても同様です。動物性の食品を豊富に摂ることは、少女たちはより低年齢で性的に成熟しやすくなり、その結果早く寿命を迎えることになります。男性の場合はより強靭な肉体になり、精子の数も増やして、婚活市場では有望ですが、肉を節制する人々との寿命の長さは、同じ一枚の生物学的コインの表裏なのです。婚活有望されど、寿命短しの傾向です。

つまり、「健康」とは、どう定義することなのかで決まる!!健康上と上機嫌で繁殖力の高い若い時代を過ごすことなのか??がんの発症を数年も先延ばしにして、ひ孫と遊ぶことなのか??


これは特に親たちが、パレオダイエットやその他の肉中心を検討する際にじっくり考えるべきことだ。

と。では、遺伝の要素はあるのでしょうか??人の口内ででんぷんを分解する酵素、唾液アミラーゼを生成するのに必要な遺伝子の数が人によって違います。たいていの人は、この遺伝子を5つ程度持っているが、全体的に見ると、2個~13個のばらつきが。この数の複製の数が少ないほど肥満になりやすいのです。

さらには、年齢による知見は「魚」の章で得られます。たとえば、幼児期により多くの魚を食べた子どもほど、喘息、アレルギー、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎を発症するリスクが低く、大人に関しては証明されておりません。とはいえ、

重要なのは母親が食べていたもの、あるいは自分が子ども時代に食べていたもので、その後の人生でどれだけ努力するかではないということ。(現代病などの花粉症、アレルギーなど)

最終章では著者自らが、①心臓学の専門医で低脂肪ダイエットを提唱するディーン・オーニッシュ氏、伝統的なアメリカの農村の食事を熱烈に賞賛するサリー・ファロン・モレル氏、アイアンマラソンの経歴を持ち、原始的(パレオ式)ライフスタイルを提唱するマーク・シッソン氏といずれもその道の主要な提唱者の見解の対立の解明に試みるのです。

食については、「伝統食」を!!日本人において海苔分解酵素があるので、海藻です。さらには、十分に栄養を摂っている現代人にとってのビタミン剤や抗酸化剤の効果が立証されていないにもかかわらず、アメリカのサプリメント産業は利益の匂いがし、魅惑の「スーパーフード」も怪しげですとのこと。

そして、運動せずして肥満や糖尿病などの食物に関連する疫病を防ぐことはできないと。一日2時間よく歩くことです。

食の多様性には数多の理由あり!!学ぼう進化の適応!!
食と健康にご興味のある方は是非手にとって下さいませ。

【関連書籍】
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訳者 山本 太郎
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