▼ 書評 『日本のすごい食材』

日本の食材がすごい日本のすごい食材

著者 河﨑 貴一
出版社 文藝春秋
発行 2017 11/20







《地力に勝る、技術なし》
現在、海外での日本食ブームで、同じコメ食文化のためアジア地域で生産や加工販売も盛んに行われているそうです。しかしながら、日本のコメは寒暖差が大きいことで食味が良くなり、環境の異なるアジア地域において生産されるならば、食味が劣るコメができかねません。結果、ジャパン米のブランドに傷が付くことも危惧されます。他方、今が〝旬〝のフルーツ=いちごは2019年にもオーストラリアへ輸出が行われる予定だそうです。まだ、我が国はオーストラリアへ主力農産品を輸出できていないため、いちごで弾みをつけるそうです。

全国NO.1のいちご王国といえば、東日本の代表の品種を産出する栃木県ですね。その栃木県には「いちご」を専門に研究する日本唯一の機関、栃木県農業試験場「いちご研究所」を有します。2011年には「とちおとめ」を超える新しいいちごが品種登録され、出願されました。その品種が「スカイベリー」です。小職も昨年末はじめて口にしました。大粒で非常に甘いという印象でした。

本書では、上述した「いちご=スカイベリー」の誕生秘話からはじまり、21の日本が世界に誇る食材が列挙されております。食材の歴史や新品種の開発者のドラマが盛り込まれ、さらには、健康効果など科学的データの裏付けも記述されております。うーん、やっぱり「地力に勝る、技術なし」だよねと実感しました。ただ、例外は一つ、その食材とは???

たとえば、信州を代表する健康食材「寒天」。そうです、みつ豆や羊羹などに使われている寒天です。
①:主成分が「心太=ところてん」なのに、なぜ海に面していない信州なのか??②:どんな栄養効果があるのか??①:長野県でも伊那市や茅野市に集中しています。この地方は、冬期の夜間はマイナス10℃まで下がりますが、日中は晴れる日が続きます。雪が降らなくても乾燥している気候が天然寒天の製造に適する。そして、小倉粂左衛門という人が小倉織の行商をしていて、関西で寒天の製法を学んで、この地方に寒天作りを広めたそうです。関西というのが、摂津国・丹波国で、「寒天」と名付けたのは、インゲン豆ゆかりの隠元禅氏だという豆知識も披露されています。

さらに、驚くべき気候条件が..

粂左衛門が「寒天」を作った地区は、八ヶ岳山麓の標高1000m付近です。ところてんを、冬季に野外にさらすと、水分は夜間に凍結して日中溶けだし、地面は凍り、薄く雪が覆っているので埃がたたない。しかも日中は気温が0℃以上にならないので、形崩れせず、角寒天が出来上がる。

こうして、約500gのところてんから、約8gの寒天ができあがります。

②:主成分の約80%が食物繊維の「寒天」は、「日本薬局方」に記されているように便通作用や肥満予防、血糖値上昇の緩和、さらにはコレステロール値低下が期待できるそうです。

上述の他にも、鉄理論の適地で育まれる宮城県の「カキ」です。鉄理論というのは、アメリカの海洋学者ジョン・マーチンが唱えた理論で、

植物が栄養を吸収したり、光合成をするために鉄が必要

という理論です。然るに「森は海の恋人」であり、鉄が木の葉や草などの腐敗物に含まれる物質と結びついて水溶性のフルボ酸鉄となり、川を下って、海の植物プランクトンの栄養源となることを発見。森の保全とカキの養殖は、鉄を介して理論的に結びつく。いやはや、自然界はある意味恐ろしい。

私的には、本書の宮崎県が産出するピュアな味がする「国産キャビア」を食してみたいです。その他食品界のオスカー賞を受賞し、日本の食品として初めて最高賞の三つ星金賞を受賞した、鹿児島・枕崎市産「姫ふうき」紅茶も注目株です。

伝統・ブランド・新技術と21品目一気読みできます。旅行に出かけるとその地域のならではの食材に巡り合うものです。そこには、地の利があり、歴史があります。

食材を通しての「歴史探訪」を是非本書で体感してみて下さい。

*文中の例外の食材は北海道産の「マンゴー」です。詳細は本書でご確認下さいませ。