▼書評 『人はなぜ太りやすいのか-肥満の進化生物学』

28535863_1人はなぜ太りやすいのか-肥満の進化生物学

著者 マイケル・L・パワー/ジェイ・シュルキン
訳者 山本 太郎
出版社 みすず書房
発行 2017 07/18

《怖いのは、リンゴ型肥満??洋ナシ型肥満??キーワードは地球と同様持続可能!!》
はじめに・・本書を読み進めている途中で気になるニュースを閲覧しました。「欧米男性の精子数、40年でほぼ6割減(CNN 2017 07.27)」。その理由のひとつが本書で記述されていたのです。この話題からスタートしたいと思います。肥満男性における脂肪組織の増加は、血中エストロゲンの増加とテストステロン(男性ホルモン)の減少に直接貢献し、さらに肥満は精子運動に負の影響を与えます。脂肪組織におけるアンドロゲンからエストロゲンへのアロマ転換によるアンドロゲン減少症とエストロゲン過多症に由来しているといいます。タイムリーなニュースとなりました。

さて本題です。現代のボク達の肥満は、何が問題なのでしょうか??肥満より過剰脂肪蓄積ですが。その問題の最たるものが病気に他なりません。かつて、サンクトリオ・サンクトリウスは自らの体重と飲食をしたもの、そして排泄物の重量を測ったそうです。そう代謝均衡試験の父と呼ばれる人物です。しかし、本書によれば脂肪は食欲あるいは食物摂取と50年以上前から関係づけられているとありますから、比較的最近の話題ということを窺わせるのです。かつての狩猟採取民と違い、現代、その食の経済は人びとが好む食物を生産されることを要求され稀少で、獲得困難をともなう食物を入手するよう動機づけたであろう味覚嗜好は、そうした食物と超加工食品という名の大量生産する動機を与えているのは周知の事実であります。

本書は、ヒトの生物学と肥満に関する書籍であり、肥満増加に関わる非生物学的をないがしろにするわけにいかなとしながらも、専門外のことについては何かをする権威がないと著者らは述べております。従いましたて、この夏ダイエットを試みたい!!そろそろ痩せなくてはと結論をお知りになりたい方は、書籍『ダイエットの科学ー「これを食べれば健康になる」のウソを暴く』をご一読下さい。本書は、学者らしい著者らの見解ですが、非常に知見に富み4000円超えの大著にも納得でき、綺麗な構成というのが端的な感想です。


結論その壱、健康な食事と十分な身体活動が、時間とお金の面で、今後より高価なものになる

といいます。いまや、肥満や過剰体重者の割合が顕著で、その割合は警告すべき速度で増加しているといいます。極度肥満の割合は過去最高となり、1960年の3倍にも達しています。

そして、現代人の肥満の程度は内分泌器官や免疫機能としての正常な範囲を超えています。

それが問題なのです。しかも、現代の肥満の流行が自動的に続くかもしれないと警告しています。その理由のひとつが、食物獲得のために身体運動が必要なくなったことが挙げられます。自宅までピザ宅配されるのがその最たる例、米・マクドナルドの売上げの25%以上が朝食メニューであり、ヒトは食べることと、食事を準備することは別行為となっています。ヒトは自分の食べる物さえ用意しなくなっている。米運輸省は2003年ジェット機墜落をうけ、積載過剰によるガイドラインを変更するあり様です。

では、な ヒトは進化的適応のなかで、太りやすくなったのでしょうか??それを太った赤ん坊に見ることができるのです。ヒトの新生児は、哺乳類の新生児のなかでも、最も脂肪に富み、唯一ズキンアザラシの赤子だけが出生体脂肪率でヒトの赤子を上回るそうです。そうです。ヒトの赤子は太っています。

出生時における体脂肪量は、出生後の劇的で急速な脳の成長を支えるための重要な結果

だった可能性があるといいます。ヒト胎児は出産までに十分な脂肪を蓄えるために、その代謝を駆動させているようにさえ見え、したがって、脂肪蓄積を促すための代謝は、出産後の欠乏に対応したものである必要はなく、新生児が十分量の脂肪をもって生まれてくるための必要な反応に過ぎなかったのです。こうした適応的反応はやり直すことができません。よって豊富な食糧の存在下では、上述な代謝がミスマッチとなり、過剰な脂肪蓄積となって表れるのです。

次章では、さらに掘り下げてみたいと思います。