▼書評 『江戸東京の聖地を歩く』

28295482_1江戸東京の聖地を歩く

著者 岡本亮輔
出版社 筑摩書房
発行 2017 03/10


《聖地・東京で忘れてはならない歴史上の人物は誰??》
ボクは東京で、学生&ビジネスマン時代と合わせて約12年過ごしました。毎年、住みたい街ランキング上位に君臨する恵比寿にも住んでいたことがあります。そんな大都会・東京で「こんな聖地があったの!!」と思わずグーグルで検索せずにはいられませんでした。

さて、本書の江戸東京の聖地論の特徴ですが、一番西は「明治神宮」になります。19世紀初頭から江戸の範囲を示すために用いられた言葉が「朱引(しゅびき」)です。従って朱引に基づく歴史的な下町というのは千代田区、中央区、港区、台東区、そして、江東区、墨田区の一部あたりです。よって本書のタイトルは江戸東京なのです。

昨今のパワースポットブームの発端は、明治神宮に併設される御苑にある湧き水・清正井であろうと思う。某テレビ番組で放映され「土木の神様」と祀られ2009年のクリスマスからブームとなったとされる。また、昨年放映された映画『君の名は。』の聖地、四谷・須賀神社も本書で取り上げられており、この場所の聖地は神社へ上っていく階段だといいます。よって、全員が参拝したり、境内の写真を撮るわけでもないのです。このような聖地を〈場所論的アプローチ〉をしたのが岡本太郎です。『御嶽(うたき)――つまり神の降る場所である。この神聖な地域は、礼拝所も建っていなければ、神体も偶像も何もない』まさに、天才といわれる所以でしょう。

本書では、上述した2カ所を含め約50カ所(京都がひとつ)の聖地巡りを行います。例えば、鍼灸術の修得に関する伝説に基づく江島杉山神社(墨田区千歳)、「鬼は内、福も内」と唱える稲荷鬼王神社(新宿区歌舞伎町)、大倉喜八郎、安田善次郎のそれぞれから「大」と「安」の文字をとった大安楽寺(中央区小伝馬町)、現代のペット供養の先駆けとなった両国回向院(墨田区両国)etc..とその神社にまつわるエピソードが花を添えるかたちになっています。

本書を読み進めると、震災、政変、戦争などの結果、江戸東京は数多の悲劇の舞台となり、無数の物語の蓄積を窺い知りえることもでき、尚且つ、東京では神社はビルと一体化したり、路地裏や商店街の雑踏に飲み込まれたりし、環境に適応しながら新たな祈りの場所を生み出す創造力も持ち得ていることも物語っているのです。

本書で面白いのは、フィクションが作り出す聖地である。元になる出来事はあったにせよ、それがさまざまな手法で演出しながら繰り返し語られ続ける。それが次第に物語が自立して流通するようになり、むしろ、歴史的事実を覆い隠すようになるから面白いのである。その代表が『東海道四谷怪談』の聖地、現在四谷3丁目で向かい合う於岩稲荷田宮神社と於岩稲荷陽運寺、さらには『鼠小僧』の聖地、両国回向院には「鼠小僧の墓」があり、その墓の前には「お前立ち」という石が置かれており、参詣者が削るために作られたといいます。

本書では他にも、銀座の秋だけの聖地や天空の聖地、松坂屋上野店屋上にも聖地が存在するなど著者オリジナルの東京聖地巡礼へといざなう。いや、決してオリジナルなんかではない。

他ならぬその場所で何らかの出来事があったと信じられているからこそ、そこは聖地になる

のだ。そんな著者は、現在北海道大学で宗教学・観光社会学を専門とする准教授だ。巻末の参考文献の一覧を見れば一目瞭然本書への意欲が伝わる冊数である。流行(はやり)神の章で紹介されている東京大神宮や今戸神社(台東区今戸)は、絶大な人気スポットだという。そんなスポットへ訪れる前に是非本書を手にしてほしいと思います。

ところで、冒頭の欠かすことのできない人物とは??平将門である。都内には将門関連神社が実に多い。江戸の人々からすれば、将門は坂東武者の先駆けであり、京に対する権威を関東に築こうとした英雄であり、今でも神田明神の公式サイトには、将門は天慶の乱で「活躍された」と書かれているという。そう、東国創建の神話的英雄だからなのです。

私的には、23区内には富士信仰とする富士塚が40ほど残されているといいますから、秘かに制覇したいと思っております。本書を片手に東京・聖地巡りをしてみてはいかがでしょうか。

【関連書籍】
26561302_1聖地巡礼-世界遺産からアニメの舞台まで

著者 岡本 亮輔
出版社 中央公論新社
発行 2015 02/25
レビューは こちら