▼書評 『一汁一菜でよいという提案』


28102648_1一汁一菜でよいという提案

著者 土井 善晴
出版社 グラフィック社
発行 2016 10/25


《食べることは、生きること PartⅢ  和食を初期化しよう!!》
『人はこうして「食べる」を学ぶ』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』、と本書を含め注目の料理本の出版が続いております。それだけ現代人は、お料理をしなくなったのかもしれませんね。(それでは困ります)著者は、料理研究家で広く認知されている方です。父の土井勝も料理研究家であり、著者の幼い頃は、イクメンという言葉もなく「男子厨房いらず」といわれた時代で父親の職をひやかされたそうです。

さて、家庭における米購入の支出金よりもパンの購入代金が上回ったのが平成23年、次いでユネスコ無形文化遺産に「和食、日本の伝統的な食文化」が平成25年に登録されましたが、和食は絶滅危惧種ともいわれております。「一汁一菜」とは、「ご飯、味噌汁、漬物」の幸せのトライアングルです。「なんだ、食のことなどたいしたことでない」、「いちいち関心を持っていられない」そこに落とし穴があると著者はいいます。少し意識することで、その積み重ねによる結果は、未来のいろいろな面において、違ったものになるのは確かでしょう。

「一汁一菜」は、家庭料理ですから本来手をかけないものです。それは、素材を生かすに他なりません。ところが現在、手のかからない、単純なものを下に見る風潮があり、お料理する人の自身のハードルを上げ、苦しめ、そのプレッシャーから加工食品を使うとかする。これでは、逆に手抜き料理になってしまいます。「手をかけること」=「お料理をすること」になってしまっている傾向があります。お料理も暮らしの一部。そして暮らしは毎日同じことの繰り返しです。毎日の繰り返しだから気づくことがたくさんあるといいます。MLBの現役プレーヤーのイチロー選手も毎日のようにヒットを積み重ね、ガッツポーズなど見たことがありません。メモリアルヒットは感無量の表情です。「一汁一菜」という日常は慎ましく、必要最低限の食事で暮らすことが心身ともに心地よいことなのです。よって折角食事を作ったのに「家族は何も言ってくれない」なんてお聞きしますが、これは普通においしいと言っていることと同様だといいます。それは、日常の食事として、当たり前からくる「安心」だと、ボク自身実感しております。

日本にはそもそも主菜と副菜しかありませんでした。すべては「ご飯とおかず」でした。今、副菜的扱いになっている切り干しには油揚げが入っていているし、味噌汁には豆腐が入っています。肉じゃがは主菜になりそうですが、これも野菜がたっぷりで、副菜の要素も入っています。

日本のおかずは、常に主菜を兼ねた副菜があり、副菜の要素を兼ねた主菜であった。

よって「一汁一菜」でよいのです。ところが、ハンバーグを主菜にしたとき、副菜の切り干し大根や味噌汁にもやはり油揚げや少量の肉を入れなければおいしくならないということで、入れる。結果脂質などが摂取過多になりがちになる。五節句や家族のイベント、ご自身へのご褒美!!などは「ハレ」の食事、それ以外は「ケ」の一汁一菜で極論良いのです。それよりも、例えば子どもが部活動から帰った際に、母親の台所での包丁のトントンの音のほうが、「安心」を与える明確で強烈なメッセージになるといいます。結局、日々の食事は、

「何を食べるべきか」、「何が食べられるか」、「何を食べたいか」

になりますが、甘党の方がいくら「ケーキ」がお好きでも毎日では飽きてしまいますよね。「一汁一菜」は、「栄養価値」、「安心」、「おいしさ」の3点セットで上述の〈何を〉すべて満たしております。前述したように「ハレ」と「ケ」を区別する。食べることは常に喜びですから、度を越せば体調を崩し、気の緩みにもつながります。慎ましさを以て、戒めてもいるのです。

これが、一回の食事として、コンビニのお弁当では情報が食べる人と作る人の双方向ではなく、食べる人がそこだけにあって、情報のやり取りが無くなってしまいます。だからこそ、親の料理は「無償の愛情」であり、かつ身体の中に安定して存在する「安心」となるのです。よって料理の評価とは、おいしいとかおいしくないとか(白か黒)ではなく、その料理の性質を瞬間的、かつ正確に読み取ることに繋がります。

日本人には、日本の四季、自然の移ろい、食材の「はしり、旬、なごり」と朽ちていく命に共鳴できる力があります。人間の心を積み重ねて共鳴できる。これが「もののあわれ」=「情緒」です。他国ではとうの昔に失われてしまったものです。和食をとおして、情緒を豊かにする仕組みを持つ、暮らしの基本を持つことができるのです。そのために暮らしの要となる食事=和食の型を持ち、未来に伝承していくことなのです。

一汁一菜から日本人のアイデンティティ!!まで。本書を読んでいると自然と背すじがピンとなる「美しい」書籍です。是非皆さんも手に取って下さいませ。

【関連書籍】
箸はすごい
著者 エドワード ワン

訳者 仙名 紀
出版社 柏書房
発行 2016 06/10

⇓⇓⇓レビュー
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