▼書評 『脳はなぜ都合よく記憶するのか』-記憶科学が教える脳と人間の不思議

28151158_1脳はなぜ都合よく記憶するのか-記憶科学が教える脳と人間の不思議

著者 ジュリア・ショウ
訳者 服部 由美
出版社 講談社
発行 2016 12/13

《人は誰でも欠陥のある刑事になる、記憶の記録のものがたり》
人生80年、いや100年時代ともいわれております。これからどんな記憶を積み重ねていくのかと読了しました。年老いた時に思い出すのは、10~30歳の記憶が人生で一番残るらしいです。人はホギャーと産まれ、幼い頃ベビーメディアを一時間増やすごとに6~8個知っている言葉が減っていることも解りました。因みに、脳の大きさが成人の大きさになるのは、13歳前後。脳の大きさと記憶力が見事に一致するそうです。

そんな記憶にまつわる物語の著者は、記憶のエラーいわゆる「豊かな過誤記憶」を研究する世界でも数少ない研究者で、警察の研修や犯罪者の更生のプログラムにも関わっています。

しかし、人間の記憶というものはあいまいなものである。一般的に3年以内の出来事は実際より前だと思い、3年以上前の出来事は実際より最近だと感じるらしい。このバイアスが起こる境目は3年前後らしいです。また、人は自分の記憶には〝過信〝しがちであり、DNA鑑定に限った事件の話だけでも、ある団体は337名を保釈し、彼らは犯してもいない罪のために平均して14年間、刑務所に収容されていたという。実に75%もが誤った記憶で有罪にされていたのだ。

9.11アメリカ同時多発テロ、3.11東日本大震災という「フラッシュバルブ記憶」でさえ、人が考えるほど記憶が強くもなく、長く変わらないものでもないといのが本書の結論です。

上述したように「人は記憶を忘れる動物である」と聞けば何やらスッキリします。何故なら観るもの観るもの記憶がフラッシュバックすれば、前に進んで生きていけなくなります。しかし、人間カレンダーと呼ばれる「非常に自伝的記憶を持つ人」も本書によれば、現在世界で58名も確認されているそうです。テストなどの記憶の記憶力ではなく、あくまでも自伝的記憶です。

人の記憶にはニューロンが関係しています。すなわち、「覚えれば忘れる」のです。そのニューロンの目的は互いに結びつき、脳を形づくることに他なりません。分離されたニューロンはすぐさまネットワークを作ろうと別のニューロンを探しはじめます。そのため樹上突起を伸ばし、シナプスを増やします。シナプスで起こる変化が、人に記憶の形成を変えていたのですね。さらには、長期記憶には「プリオン」が関係し、このたんぱく質は他のたんぱく質と全く異なるものであると2015年の研究論文で詳しく発表されました。

著者は、〈記憶のハッカー〉。「私は起こっていないことを起こったと信じ込ませる」。研究所でそういった記憶を生じさせることで、記憶の幻想の仕組みを解明することを使命としています。そんな著者による、誤った記憶を減らせる研究にまずは、「睡眠」があります。アクティブシステム固定説というもので、睡眠は記憶を固定し、ニューロン間の結びつきを繰り返し、経験を再生させ、記憶を長持ちさせる効力があるそうです。

その他、SNS(ソーシャルネットワーク)の記憶への影響や記憶にまつわる研究報告が盛りだくさんです。記憶のシステムを理解し、今という時の最高の瞬間をかみしめ、人生をより良いものにしましょう!!

記憶の記録の物語、平易な事例で配慮され一般読者でも読みやすいです。是非手に取って下さいませ。