■書評 『バイエルの謎』-日本文化になったピアノ教則本

27668850_1書評 バイエルの謎-日本文化になったピアノ教則本

著者 安田 寛
出版社 新潮社
発行 2016 03/01



《これぞ力作!!》
ミドミドミソミド・・・音楽関係者の方々であれば誰もが知っているであろう。ピアノ教則本=『バイエル』。ボクはピアノを教わったことがないのだが、本書によれば、高度成長期において、爆発的なブームだったのがピアノであり、同時に『バイエル』と名がつくピアノ教則本だったそうである。

著者は、登山家が「何故?山に登るのか? その山があるからの如く」日本に西洋音楽の教育法を移入した音楽取調掛の足跡を約6年強を超え年月をかけて追います。著者の研究によれば、1990年前後に『バイエル』に対する批判が高まったと記されていますかから、丁度日本がバブルの頂点のときと重なり、よってそれ以前にピアノを教わった誰しも「あっあ~」と思い出される方もきっと多いかと思います。しかしながらその詳細については、知られていなったのです。

そう、誰もが弾いていたにも関わらず、誰も知らなった『バイエル』。その謎に迫ったノンフィクション本が本書ですから面白くないわけがないわけです。従いまして、ボクのような全く音楽の無知の方でも、ノンストップでお読みいただける力作です。

1850年8月30日にドイツ・マインツにあるショット社が初版200部を発行し、そのショット社のカタログで一番ページを使ったのが、モーツァルトでもベートーヴェンでもワーグナーでもなくバイエルだったのです。我が国に導入されてからは、独自の発展を遂げたバイエル。その中には「おべんとう おべんとう うれしいな」の作曲者の一宮道子を含めた園田清秀、一宮道子、田中スミ、酒田冨治と4人いました。前述の園田清秀がバイエル改編を決定的に推し進めた人物といわれております。『新しいバイエル』の上巻が出版されたのが、昭和11(1936)年だったそうです。また、「子ども音楽教室」や「ヤマハ音楽教室」は、園田清秀が「絶対音楽教育」の創始者でもあったのです。この「絶対音楽教育」により、バイエルの意図した予備的なレッスンが実は消されていたことを著者は知ることになります。

そこで著者は、「バイエル」の3つの謎ときに解答を導きます。①:併用曲集とバイエルとは別の作品番号にすべきはずなのに、併用曲集と同じ101番という番号が付けられているのは何故か?②:第一グレードと第二グレードの内容があまりに違っているのは何故か?③:番外曲と番号曲とが混在し、しかしその関係が不整合なのは何故か? とまさに「バイエル」の核心に迫っていく箇所は本書の読みどころであります。

著者はバイエルの生まれたドイツ・グヴェアフルトを筆頭に、ドイツ・マインツ、バイエルの教則本の作曲者の母方の父親に辿り着きます。この人物がバイオリストだったのです。著者は、バイエルのⅮNAの礎にまで辿り着いたというわけです。

バイエルの死亡証明書から洗礼記録、親族にまで迫った著者による様は、著者の意気込みに現地の住民も巻き込まれていきます。結末は本書に譲りますが、春休みにおススメの一冊です。