■書評 『水中考古学』-クレオパトラ宮殿から元寇船、タイタニックまで
『水中考古学』-クレオパトラ宮殿から元寇船、タイタニックまで
著者 井上 たかひこ
出版社 中央公論新社
発行 2015 10/25
《この分野の発展を切に願います》
今年はアインシュタインの一般相対論100年。従って宇宙・科学関連本が多数出版されております。一方、地中や本書のような水中に限ればそう多くはないと思います。マイ・ルームが積書タワーと化しているボクもこの種の本を手にするのは、あまり記憶にありません。よって本書は最新情報を織り交ぜた「水中考古学」入門書としてもってこいだと思います。
著者によれば、水中考古学は産声をあげてまだ、55年の歴史しかないそうです。日本でなじみの薄かったこの学問も、平成19年(2007年)の海洋基本法成立や2009年のユネスコ水中遺産保護条約の後押しを受け、急速に脚光を浴びています。
陸上と海中の相違こそあれ、多くに土中に埋もれている陸上の遺跡に対して、水中の遺跡もまた、考古学分野にとって貴重な史料であることに相違はありません。いまや、水中考古学なくして人類の歴史や文化を語ることは不可能であり、逆に水中考古学こそ魅惑的な海の謎を解明する扉口だといえると思われます。そういった意味では、著者に対して敬意をはらいたいものです。
さて、かつては水の文化遺産は、欧米人による積載財宝の引き揚げ目標となっていましたが、水中ロボットを利用することで、より深い海底へも手が届くようになりました。本書によれば、世界の海には300万隻にものぼるいまだ眠っていると思われる船が海底に存在するそうです。島国の我が国であるがゆえに、まだ日の目を見ていない遣唐使船、御朱印船、南蛮船など埋もれているはずだという。
本書で取り上げられているのは、そのほとんどが上述した条約前のものであり、今回は2隻の船をピックアップしたいと思います。時代は前後致しますが、まずは本書・終章に記述されている「ハーマン号」です。時に明治二年の夜半犠牲者の藩士は200余名。米国人22名といわれています。当時、日本へ往来した最大級の木造輸送船です。戊辰戦争の末期、榎本武揚率いる旧幕府軍は、北海道函館五稜郭で最後の抵抗を試みていた時期であり、100年以上前の出来事でした。現在も調査中ですが、この事実を知ったのは、著者が当時アメリカのテキサスA&M大学に留学中の時でした。
実は、この大学には「水中考古学の父」とも呼ばれるジョージ・バス博士がいて、多大な影響を受けています。当初4人、所持金50万円ではじめた「ハーマン号」の調査は、2015年には「ハーマン号慰霊祭」が行われたそうです。まさに海から見た幕末・維新史なのですが、キーワードはスポンサー(資金)です。それ次第で具体相の一端を担います。チャールズ皇太子率いる「メアリー・ローズ号」では、日本円換算で70億円を作業費用の投資されたといいますから、雲泥の差ですね。
さらには、長崎県松浦市の「鷹島神崎遺跡」です。元寇(げんこう)船の歴史を辿ることで、「蒙古襲来」の史実を考古学的に証明できる唯一の海底遺跡です。こちらは、琉球大学の協力のもと現在も調査が行われています。ここで登場するのが、皆さまもご察しの『神風』です。詳細については、本書でご確認下さいませ。
本書では、最古の難破船、ウル・ブルン難破船から、トルコ沈没船エルトュールル号、さらにはタイタニック号と3つのコラムにまとめられています。ただ、「水中考古学」は「現位置保存の原則」が大原則です。無定見に引き揚げられる船のケースや適切に処理のないままの水中遺跡も存在するのも事実です。
女王・クレオパトラが自ら命を絶つ前に、恋人マルクス・アントニウスとともに逃げ隠れていたとされる場所、アレクサンドリアの地に世界初の海底ミュージアムが建設され、水上と水中をまたがる空間を見学できるとされています。新観光立国・日本へ何かヒントになるのではないでしょうか。
水中でも考古学、引き揚げてからも考古学。歴史に多少でご興味のある方には、おススメの一冊です。
【関連書籍】
タイタニック-百年目の真実
著者 チャールズ・ペレグリーノ
訳者 伊藤 綺
出版社 原書房
発行 2012 10/01

著者 井上 たかひこ
出版社 中央公論新社
発行 2015 10/25
《この分野の発展を切に願います》
今年はアインシュタインの一般相対論100年。従って宇宙・科学関連本が多数出版されております。一方、地中や本書のような水中に限ればそう多くはないと思います。マイ・ルームが積書タワーと化しているボクもこの種の本を手にするのは、あまり記憶にありません。よって本書は最新情報を織り交ぜた「水中考古学」入門書としてもってこいだと思います。
著者によれば、水中考古学は産声をあげてまだ、55年の歴史しかないそうです。日本でなじみの薄かったこの学問も、平成19年(2007年)の海洋基本法成立や2009年のユネスコ水中遺産保護条約の後押しを受け、急速に脚光を浴びています。
陸上と海中の相違こそあれ、多くに土中に埋もれている陸上の遺跡に対して、水中の遺跡もまた、考古学分野にとって貴重な史料であることに相違はありません。いまや、水中考古学なくして人類の歴史や文化を語ることは不可能であり、逆に水中考古学こそ魅惑的な海の謎を解明する扉口だといえると思われます。そういった意味では、著者に対して敬意をはらいたいものです。
さて、かつては水の文化遺産は、欧米人による積載財宝の引き揚げ目標となっていましたが、水中ロボットを利用することで、より深い海底へも手が届くようになりました。本書によれば、世界の海には300万隻にものぼるいまだ眠っていると思われる船が海底に存在するそうです。島国の我が国であるがゆえに、まだ日の目を見ていない遣唐使船、御朱印船、南蛮船など埋もれているはずだという。
本書で取り上げられているのは、そのほとんどが上述した条約前のものであり、今回は2隻の船をピックアップしたいと思います。時代は前後致しますが、まずは本書・終章に記述されている「ハーマン号」です。時に明治二年の夜半犠牲者の藩士は200余名。米国人22名といわれています。当時、日本へ往来した最大級の木造輸送船です。戊辰戦争の末期、榎本武揚率いる旧幕府軍は、北海道函館五稜郭で最後の抵抗を試みていた時期であり、100年以上前の出来事でした。現在も調査中ですが、この事実を知ったのは、著者が当時アメリカのテキサスA&M大学に留学中の時でした。
実は、この大学には「水中考古学の父」とも呼ばれるジョージ・バス博士がいて、多大な影響を受けています。当初4人、所持金50万円ではじめた「ハーマン号」の調査は、2015年には「ハーマン号慰霊祭」が行われたそうです。まさに海から見た幕末・維新史なのですが、キーワードはスポンサー(資金)です。それ次第で具体相の一端を担います。チャールズ皇太子率いる「メアリー・ローズ号」では、日本円換算で70億円を作業費用の投資されたといいますから、雲泥の差ですね。
さらには、長崎県松浦市の「鷹島神崎遺跡」です。元寇(げんこう)船の歴史を辿ることで、「蒙古襲来」の史実を考古学的に証明できる唯一の海底遺跡です。こちらは、琉球大学の協力のもと現在も調査が行われています。ここで登場するのが、皆さまもご察しの『神風』です。詳細については、本書でご確認下さいませ。
本書では、最古の難破船、ウル・ブルン難破船から、トルコ沈没船エルトュールル号、さらにはタイタニック号と3つのコラムにまとめられています。ただ、「水中考古学」は「現位置保存の原則」が大原則です。無定見に引き揚げられる船のケースや適切に処理のないままの水中遺跡も存在するのも事実です。
女王・クレオパトラが自ら命を絶つ前に、恋人マルクス・アントニウスとともに逃げ隠れていたとされる場所、アレクサンドリアの地に世界初の海底ミュージアムが建設され、水上と水中をまたがる空間を見学できるとされています。新観光立国・日本へ何かヒントになるのではないでしょうか。
水中でも考古学、引き揚げてからも考古学。歴史に多少でご興味のある方には、おススメの一冊です。
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著者 チャールズ・ペレグリーノ
訳者 伊藤 綺
出版社 原書房
発行 2012 10/01
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