■書評『iPS細胞』-不可能を可能にした細胞
iPS細胞-不可能を可能にした細胞
著者 黒木 登志夫
出版社 中央公論新社
発行 2015 04/25
《われわれは、先人たちの偉大な業績の上に立っている小さな存在にすぎない》
2014年は、小保方晴子のSTAT捏造事件が科学界の話題をさらったと言っても過言ではないであろう。日本癌学学会会長を歴任した著者=サイエンティストによる本書は、とりわけiPS細胞が成立するまでの研究史と、
発生分化の基礎研究を踏まえ再生医療における様々な可能性に主眼が置かれており、尚且つ著者の人脈の広さもうかがえる書籍です。
すでに、中公新書から『研究不正(仮題)』の執筆を開始したそうです。それだけ、今回のSTAP捏造事件に著者には怒りを感じます。従って、その点については本書の巻末にしっかり綴られています。
さて、iPS細胞。作ったのは言うまでもなく、山中伸弥氏である。中学から大学時代にはラグビー部と柔道部に所属しその間に10回以上も骨折をしたそうです。よって外科医の道に進みますが、人が20分で終える手術を2時間もかかり、鬼軍曹からは「ジャマナカ」とまで言われた過去のエピソードから始まります。勿論、再生医療に留まらず、他にも多くの可能性を秘め日本国細胞=iPS細胞について平易に描かれているのも特徴です。
因みに、我が国がiPS細胞であれば、米国はヒーラ(HeLa細胞)、英国はES細胞ということになるでしょうか。英国の発生学者、ウォディントンは分化のプロセスを、山のストロープを転げ落ちるボールにたとえましたが、山中氏は、山中因子という4つの遺伝子により、分化した細胞をウォディントンのスロープを逆戻りさせ、リプログラミング=「初期化」させ、iPS細胞を作成させたのです。
そして、本書では「奇跡の細胞」iPS細胞だけではなく、それに先立つES細胞の研究の意義の特性もしっかり紹介されています。その理由は、両者ともにバリエーションはあるものの互いに重複していて、専門家でさえ「両者を区別することができない」と山中氏自身も述べています。はっきりとした違いは、iPS細胞は自分の細胞を初期化でき、「マイ iPS細胞」は存在しますが、ES細胞には、「マイ ES細胞」はあり得ません。さらには、今後期待が高まる「間葉系幹細胞」の特性も紹介されています。
上述したように、iPS細胞の最大のメリットは、「マイ iPS細胞」であり、自分に移植でき、自己と認識されるので、拒否されることはないということです。ただ、課題もあり生命倫理のクーロン問題、喫緊を要する手術には自己作成するのに時間がかかる、さらには費用etc..が挙げられます。しかしながら、「移植後進国」の我が国においては、iPS細胞により方法により分析された病気は、本書によれば神経疾患だけでも10指を超えるそうです。アルツハイマー、パーキンソン、ALS(筋委縮性側索硬化症)、統合失調症etc..です。
また、ヒトとマウスそれぞれのiPS細胞の違いの話題などは興味深く、今後さらなる研究も大いに期待でき、ともかく改めてiPS細胞が支える裾野が広がり、影響力を実感させられた書籍でした。
【関連書籍】
iPS細胞はいつ患者に届くのか-再生医療のフロンティア
著者 塚崎 朝子
出版社 岩波科学ライブラリー
発行 2013 11/26

著者 黒木 登志夫
出版社 中央公論新社
発行 2015 04/25
《われわれは、先人たちの偉大な業績の上に立っている小さな存在にすぎない》
2014年は、小保方晴子のSTAT捏造事件が科学界の話題をさらったと言っても過言ではないであろう。日本癌学学会会長を歴任した著者=サイエンティストによる本書は、とりわけiPS細胞が成立するまでの研究史と、
発生分化の基礎研究を踏まえ再生医療における様々な可能性に主眼が置かれており、尚且つ著者の人脈の広さもうかがえる書籍です。
すでに、中公新書から『研究不正(仮題)』の執筆を開始したそうです。それだけ、今回のSTAP捏造事件に著者には怒りを感じます。従って、その点については本書の巻末にしっかり綴られています。
さて、iPS細胞。作ったのは言うまでもなく、山中伸弥氏である。中学から大学時代にはラグビー部と柔道部に所属しその間に10回以上も骨折をしたそうです。よって外科医の道に進みますが、人が20分で終える手術を2時間もかかり、鬼軍曹からは「ジャマナカ」とまで言われた過去のエピソードから始まります。勿論、再生医療に留まらず、他にも多くの可能性を秘め日本国細胞=iPS細胞について平易に描かれているのも特徴です。
因みに、我が国がiPS細胞であれば、米国はヒーラ(HeLa細胞)、英国はES細胞ということになるでしょうか。英国の発生学者、ウォディントンは分化のプロセスを、山のストロープを転げ落ちるボールにたとえましたが、山中氏は、山中因子という4つの遺伝子により、分化した細胞をウォディントンのスロープを逆戻りさせ、リプログラミング=「初期化」させ、iPS細胞を作成させたのです。
そして、本書では「奇跡の細胞」iPS細胞だけではなく、それに先立つES細胞の研究の意義の特性もしっかり紹介されています。その理由は、両者ともにバリエーションはあるものの互いに重複していて、専門家でさえ「両者を区別することができない」と山中氏自身も述べています。はっきりとした違いは、iPS細胞は自分の細胞を初期化でき、「マイ iPS細胞」は存在しますが、ES細胞には、「マイ ES細胞」はあり得ません。さらには、今後期待が高まる「間葉系幹細胞」の特性も紹介されています。
上述したように、iPS細胞の最大のメリットは、「マイ iPS細胞」であり、自分に移植でき、自己と認識されるので、拒否されることはないということです。ただ、課題もあり生命倫理のクーロン問題、喫緊を要する手術には自己作成するのに時間がかかる、さらには費用etc..が挙げられます。しかしながら、「移植後進国」の我が国においては、iPS細胞により方法により分析された病気は、本書によれば神経疾患だけでも10指を超えるそうです。アルツハイマー、パーキンソン、ALS(筋委縮性側索硬化症)、統合失調症etc..です。
また、ヒトとマウスそれぞれのiPS細胞の違いの話題などは興味深く、今後さらなる研究も大いに期待でき、ともかく改めてiPS細胞が支える裾野が広がり、影響力を実感させられた書籍でした。
【関連書籍】

著者 塚崎 朝子
出版社 岩波科学ライブラリー
発行 2013 11/26
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