■書評 HARD THINGS(ハード・シングス)-答えのない難問にきみたちはどう立ち向かうか

26940348_1HARD THINGS(ハード・シングス)

著者 ベン・ホロウィッツ
訳者 滑川海彦・高橋信夫
出版社 日経BP社
発行 2015 04/21


《安い買い物は、「花」、高い買い物は、「離婚」》
本書は、端的に言えば起業本です。多くの起業本は、スタートアップからの上場するまでのサクセスストーリーが描かれております。著者は、あのネットスケープ創業者のマーク・アンドリーセンとともにベンチャーキャピタル「アンドリーセン・ホロウィッツ」を立ち上げたシリコンバレーのスター経営者に慕われる最強投資家・ベン・ホロウィッツ氏からの「必ず起きてしまうネガティイブな事象に上手に取り組むための書籍」です。

本書は全9章から構成されておりますが、第1~3章は著者自身の体験談によるノンストップ・ノンフィクションで描写されています。ご存じの方も多いと思いますが、ネットスケープ社の大敵は、マイクロソフト社でした。この第1~3章だけでも読み応えタップリです。

初期のネットスケープ社に加わった著者、自身起業して会社上場を経験、監査法人からいわば上場廃止宣告を受け、さらにはIBM社という約90%の売上げを占めていた最大の顧客からの最後警告、それにもめげず猶予期間60日に奇跡の大逆転。その間は週七日間、朝8~夜10時まで、6カ月間休みなく働いたそうです。最後は、ヒューレット・パッカード社に総額16億5000万ドルで会社を売却に成功しました。

また、ある意味企業の存続年数というのは、その企業がどれだけ困難に「耐えたか」の指標であり、経営者が精神的にどれだけ乗り超えたかの指標でもあります。

よって、本書のキーワードになる言葉は、「苦難」です。哲学者カール・マルクスも述べているように『人生は苦難』だと。そして、もう一つが『集中』です。CEOは、時に孤独です。その苦難を乗り越えるには、①:ひとりで背負い込まず、②:組織は単純なチーム、③:長く戦っていれば、運をつかめるかもしれなず、④:被害者意識を持たない。⑤:良い手がないときに最善の手を打つことだと、苦難に崖を登る際の重要なポイントを述べています。

そして、『集中』とは、会社の猶予期間60日を宣告され、上述したように6カ月間休まず働き続けた際に生涯の最愛のパートナー(愛妻)から得たものだとボクは思っています。それは毎週土曜の夜、著者の愛妻・フェリシア・ホロウィッツ氏との夜の食事です。そこで著者はとにかく妻との「食事」に集中したそうです。ビジネスでのまさに崖っぷちの時の集中と妻への集中・・・逆に言えば、何を無視するのかが重要なファクターなのです。私的には非常に参考になりました。

ところで、シリコンバレーと言えば、IT企業が雨後の筍のように、生まれてきますが「CEOの能力は生まれついてものなのでしょうか?後天的に育てられるものなのでしょうか?」たとえば、運動選手のケース、短距離選手の場合などは比較的早い時期に適性を判断できますが、CEOという職は、数多くの「不自然な動作」を必要とするため、同じ運動選手でもテクニックにある程度の期間を要する、ボクシングに例えています。

優秀なCEOな条件はさまざまです。例えば、アマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾスのように徹底的にコスト削減から入り、社員のデスクは、ドアの板でつくったものです。「われわれは最低のコストで最高のサービスを提供するためにあらゆる機会をとらえて、1セントでも節約しなけれならない」と力説しています。また、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグは、イノベーションを何より重視し「何を壊してもいいから全速力で進め」をモットーにしています。そのうえで、あるべきCEOの姿とは、成功する企業では戦略とは、ストーリーです。すべての戦略的決定は誰にも納得のいくストーリーでなければなりません。よって戦時のCEOの故アップル社のCEOスティブ・ジョブズに社員は着いてきたのです。さらには、その戦略の実施レベルでは、CEOの質とスピードが問われます。

本書は、事業において必ず起きてしまうネガティブな事象において上手に取り組むための書籍なのですが、平時のCEO、戦時のCEOは全くの別物です。『初心忘れべからず』の言葉同様。動揺せず、正しい決断には知性と勇気の両方が必要です。しかしながら、その決断は「恐怖」と「勇気」は紙一重なのです。

本書もIT業界のレジェンドとも言われる、元インテュイット会長兼・CEOのビル・キャンベル、インテルの元会長、アンディ・グローブの起業理念が伝説として引き継がれています。やはり、伝説は引き継がれていくのですね。マネージャー職の方々を含め非常に参考になる書籍です。ぜひ手にしてみてくださいませ。