■書評 目の見えない人は世界をどう見ているのか

27064369_1目の見えない人は世界をどう見ているのか

著者 伊藤 亜紗
出版社 光文社
発行 2015 04/20




《これは、好書だ!!》
請眼者のボク達にとって、「相手の立場になって考える」ならば、眼帯をして行動すれば目の見えない方々の日々の生活の苦労や、その方々の気持ちがわかると思いがちである。本書をご一読いただければ、それはとんでもない誤解であることをご理解いただけると思う。

本書は、視覚障害者やその関係者6名にインタビュー、著者もともにおこなったワークショップ、さらには日々の何気ない会話を含め、著者なりの「世界の別の顔」の姿をまとめた書籍です。本書の特徴として、広い意味での「身体論」を構成していて、これまでにない「身体論」かも知れません。

著者が本書において、とりわけ力説しているのが、「アクセシビリティ」=情報に対するアクセスのしやすさ、その度合いを指す言葉ですが、「情報のための福祉」は障害者にとっては不可欠であることは言うまでもありません。ただ、障害のある方に接するとき、何かしてあげなければいけない、いろいろな情報を教えてあげなければいけないという「福祉的な態度」は、もしかすると、普段障害のある方と接する機会の遠い方だというのが、著者の結論です。

そして、本書ではその「身体論」を五章から論じていきます。①:「空間」②:「感覚」③:「運動」④:「言葉」⑤:「ユーモア」です。「見える」からこそできるものもあれば、その逆に「見えない」からこそできることもあるのです。それでは具体的に見ていきたいと思います。皆さま唐突ですが、「月」を思い浮かべてください。ボク達・請眼者は、「まんまる」で「盆のような」月、つまり厚みのない円形をイメージしますが、見えない人にとっては「月」とはボールのような球体をイメージしているそうです。

前述したように、実際は3次元だと理解しているものを2次元化するというというのは、視覚の大きな特徴です。さらには、万博記念公園に行かれた方は覚えておられるかわかりませんが、あの岡本太郎作「太陽の塔」には顔がいくつ描かれているでしょうか??健常者の方だと2つと答えるそうです。実は背面にもあり3つです。(正確には、4つあるそうです)視覚がないからこそ、死角がなかったのです。見えないからこそ、想像力がつき、見えないからこそ3次元的な理解も可能にしているのです。模型で「太陽の塔」を理解している視角障害者の広瀬浩二郎さんは、上述したような誤認は起こりにくいといいます。

また、②:「感覚」についていえば、「点字」を思い浮かべます。話は前後しますが、ボク達人間の五感は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚があります。「感覚の王」は、視覚です。この「感覚の王」はを駆使できない目の見えないの方々は、次の聴覚を駆使します。それが「反響定位」です。ある全盲の黒人は、舌打ちをし続けその反響音で空間を把握しバスケットボールなどを楽しんでいるそうです。実はこの能力は、イルカやコウモリが秀でている能力でもあります。点字に話を戻します。

2006年の多少古いデータですが、厚生労働省が行った調査によれば、日本の視覚障害者の点字識字率は12.6%だそうです。意外ですね。よって「見えない=点字=触覚」の方程式は杓子定規だったわけです。生理学研究所の定藤教授らによれば、見えない人が点字を読むときには、脳の視覚をつかさどる視覚皮質野が発火しているそうです。すなわち脳は「見るための場所」で点字の情報処理を行っていたのが科学的にも立証されています。

さらには、④:「言葉」についていえば、ボクの昨今のマイブームは専ら「美術鑑賞」ですが、これを視覚障害者の方々は、目の見える人と5~6人のグループになって「ソーシャル・ビュー」を行います。通常、美術館では声を出すのはご法度ですが、皆が観たものを、感じたものを声に出して鑑賞するのです。ここで大事なのは「情報」ではなく「意味」なのです。書籍などで得られる情報は無意味です。他人の観たもの、感じたもので、いわば「作品を作り直ししていく」楽しさがあると言います。前述した「ソーシャル・ビュー」の活動は全国的に拡がっているそうです。

本書は、自分で障害を持つ方々への距離のとり方に、健常者がハッと目を覚まさせ、尚且つ日々当たり前のボク達が見聞きしている「思い込み」を変えるヒントになるはずです。
2015 MY BEST BOOK 現在NO.1書籍です。