■書評 人体の物語-解剖学から見たヒトの不思議

26326364_1人体の物語-解剖学から見たヒトの不思議

著者 ヒュー・オールダシー=ウィリアムズ
訳者 松井信彦
出版社 早川書房
発行 2014 08/25


《最も親しいが謎めいた友であり、征服すべき「未踏の地」それが、人体!》
本書は、端的に言えば、人体を巡るエッセイ集だが人文系の色濃い科学書である。著者はヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の展示に従事し、科学ジャーナリストだ。見事なまでの筆致でリーダビリティーに優れ、ハッとする洞察力にも満ちていて、尚且つ「人体の物語」は、人体とその諸器官に関する科学知識の断片と歴史的エピソードの数々をボク達の人体探求史の変遷という幅広い文脈にしたがって配列し、披露してくれる。よって人体地図を新年早々「おせち料理」とともに美味しく味わえた。

人類はかつて身体を発見し、探検し、征服すべき領土であるかのように捉え、“マゼラン海峡”のような命名法をまねて、発見した器官に自分の名を冠するなどをしてきた。従って、それをふまえ本書の第一部では人体全体を眺め、第二部ではボク達が日常持っている手や足や皮膚、あるいは、顔や脳、心臓や血液の各部に目を移し、第三部では、今後の展望を見つめています。

昨今、iPS細胞をはじめ遺伝学や細胞生物学が注目されているが、人類は「それを頼りに種としてここ数万年生きてきたわけではなく」、「その知識は身体には心臓は一つ、眼が二つ、骨が206個、皮膚に関しては、2平方メートルのシングルベットのシーツをひとつのスクリーンになっているという」。昔からの知識にとって代わるものではないというのが、著者の主張である。

著者本人も人体のデッサンに挑んだり、臓器をじかに手に持ったり、実際に解剖を試してみたりしている。さらには、有名な入れ墨師やパラリンピックの金メダリスト、と様々な人物にも実際に会いに行っている。しかし、改めて本書を読了し感じたことはいかに、人体絡みの慣用表現が文学の世界において重宝されており、本書でもシェイクスピア、ゴーゴリ―、モンティー二ュetc..の有名どころの作品が数多く引用されています。例えば、I NYは、ニューヨークのファッションデザイナーが1976年に用い、このロゴは心臓と文化を上手く結び付けしかも、労せずNYの文化が強化されています。

また、文化的な側面ばかりではなく、多くが史上最高の科学者と評するアルベルト・アインシュタインの頭蓋骨から76年の実り多い脳を取り出し、トマス・ハーヴェイが脳内の動脈にホルマリン注射をしてから、全体を保存液に浸していた事実は本書ではじめて知りました。さらには、皮膚の項では本書によればダーウィンは、最終的に赤面は他人が身体に注目したことへの無意識の反応と結論付けています。

上述した各器官は、日常的に共有できるイメージを持っています。それをもう一度語り直しかった著者。人間を人間とたらしめている、部分であっても妙に人間ぽいと感じる身体感を存分に本書で味わってくださいませ。私的には、「喉から手が出る」書籍とは、本書のような書籍だったと思います。ほら、人体絡みの慣用句が用いらていますよね..