■書評 ねずみに支配された島

26206608_1ねずみに支配された島

著者 ウィリアム・ソウルゼンバーグ
訳者 野中 香方子
出版社 文藝春秋
発行 2014 06/15


《たかが一匹、されど一匹、今そこにある危機!!》
先月17日、国際自然連合(IUCN)は、絶滅の恐れのある野生動物を評価する「レッドリスト」を公表し、太平洋マグロを絶滅危惧種として掲載した。昨今「生物多様性」といわれて久しいが、残念ながら内閣府の調査によれば、生物多様性について、「聞いたことがない」と回答した国民が半数以上だという。実は、現代は「6度目の絶滅」の時代に入ったとみる専門家もいる。その主な生物とは?

上述した「レッドリスト」の数々や絶滅した生物の多くが隔絶された島々でおき、その大半は地球の陸地面積の約5%にすぎない。本書によれば、現在も絶滅危機のある種はほぼ半数が島に棲息しているという。ボクがパッと頭に浮かんだのは、“今が旬”のフルーツ『キウイ』である。ご存じニュージーランドの国鳥なのだが、当然本書にも記述されている。他の国においても、例えば米国。5万種の外来生物が海を越えて、その中には10億匹以上のネズミ、一億匹以上の飼い猫、そのネコのせいで、合わせて10億匹以上の小型哺乳類やトカゲ、鳥が毎年姿を消しているという。

本書では、島々で起きた壮絶な絶滅物語と危機にさらされている動物たちを守るために、ネズミやキツネに戦いを挑んだ人々の記憶が示されている。なかでも、とてもオウムとは思えない、ニュージーランドの固有種「カカポ」(本書カラー図番1参照)は、島の生態系の危機にいち早く察知したのが、リチャード・ヘンリーという人物である。当初、ニュージランド自然保護局は手をこまねいていたが、、最後の一羽の際は、遅鈍ながら対応しその一羽は、リチャード・ヘンリー・カカポ名付けられた。2002年には86羽まで個体数が回復したが、予断を許さない状況である。しかし、一羽からの回復にはリスクも当然ながらともない、奇形の鳥や無精卵、遺伝子の崩壊までも見られるという。

特に本書の読みどころとしては、2004年に決行された、アリューシャン列島のネズミ根絶作戦であろう。TNC=世界的な自然保護団体ザ・ネイチャー・コンサーバンシーの協力を得て実施された根絶作戦は、ヘリに有毒な荷物を320キロをつりさげ、島を3区画に分け正確に毒餌を撒いていく様相は想像を絶する。わずか一匹にネズミが生き残れば台無しのミッションとなってしまう。

ところで、悪物扱いのネズミであるが、数百年の進化の過程の中で磨き抜かれた能力は、ある意味において目を見張るものがあり、巣穴を掘り返したところなんと、9キロもの食糧が蓄え得られていたという。これも生存戦略のひとつではあるのだが、現在、世界の穀物の5分の1を食い荒らし、都市の貧しい人さえも噛み、時には障害者にしてしまうケースもあるという。しかし、そのネズミにも命が宿り人道的な殺し方があるのであろうか?!
命の価値は、他の生物と変わらない考え方もできる。

「生物多様性」の一番の被害者は、植物であるわけだが、例えば海鳥が支配する島には糞が降り注ぐので土壌は植物の肥料となり、チッソやリンを含む。エコロジカル・カスケードは、食物連鎖の頂点の変化によって起きる連鎖的な崩壊のことだが、各島々の中には、イースター島も実はネズミの浸食で滅亡したという説もあります。

日本から離れた島々で起きている「生物多様性」の意味。本書を読了し書籍「プラスチックスープの海」を思い出しました。命について考えさせられる書籍です。皆さまもご一読下さいませ。