■書評 ヴァティカンの正体―究極のグローバルメディの正体

26062259_1ヴァティカンの正体―究極のグルーバルメディアの正体

著者 岩渕 潤子
出版社 筑摩書房
発行 2014 02/10




《バチカンとの共通は、ディズニーとCNNと、もう一つ!》
昨年の秋、『ミケランジェロ展-天才の肖像』を鑑賞した。システィーナ礼拝堂に描かれた『最後の審判』は今でもボクの記憶に残っている。ところで、本書によれば「永遠の都・ローマ」を訪れた外国人は、2012度780万人。他方、2013年上半期に日本へ訪れた外国人は、1~8月で約686万人だったそうだ。前述したようにローマ、一都市というのがポイントである。

さて、本書に移ろう。著者は小学校から高校までフランス系カトリックの一貫校で過ごし、本書では、バチカンとカトリックの教えを知るための、教育書ではなく、少子高齢化が進む日本の現状を鑑み、バチカンに蓄積された叡知を俯瞰して、時代の転換となった宗教改革という、カトリック教会における史上最大のピンチをチャンスに変えた慧眼を検証・分析されている。昨年、前ローマ教皇ベネディクト16世が退位を表明し、アメリカ大陸初のローマ教皇がフランシスとなりマスコミから大きな話題となったことは、皆さまもご存じであろう。

カトリックの総本山である小国のバチカンを究極のグローバル・メディアと捉えた本書はある意味、異色であろう。情報・教育・金融の三位一体。三位一体は、しばしば政治の世界で耳にするが、そもそもキリスト教においては、「父」、「母」、そして、「聖霊」を表わすそうだ。多少、教育&金融が重複するが、例えば教育においての「聖書」。大人になれば一冊は必須だ。それは電子書籍がいくら普及しても廃れることがないよう戦略を取っている。よって一家に「聖書」一冊は当たり前で、大人になればボク達のスマホ同様、さらにもう一冊ということになる。これが、まず第一の資金源となるが、異なる民族グループ(188カ国)であっても、その教理、典礼に基づいているから宇宙的な規模に膨れ上がる。iPheneでも「信共同訳」も購読できるが、むしろこちらの方のが価格が高め設定になっているという。

かつては、「贖有状(しゅくゆうじょう)」というものがあり、端的に言えば、カトリック教会が発行した罪を無いことを証明したお札」である。お金で罪が消え、尚且つ天国行きの切符を手にすることができたわけである。この「贖有状」は、マルティン・ルーターが疑問を投げかけた、はるか十字軍の時代まで遡る。この集金能力もカトリックならでは、ではないだろうか。

通常であれば、その資金で組織改革・網紀粛正と言えば、華美を慎むものだが、対抗宗教改革期の教皇たちは、むしろ、カトリック教会の権威を不動のものとして世に示すため最高の建築家・芸術家と登用した。その、ひとりがミケランジェロに他ならない。これが後の資本主義の布石になるのだから歴史は、やはり面白い。

「贖有状」や「聖書」に似た冒頭のもう一つが実は、アップル=故・スティーブ・ジョブズである。天才ビル・ゲイツ、カリスマと称されたスティーブ・ジョブズ。社会的貢献度は、多分、他分野などの慈善団体etc..に資金提供しているビル・ゲイツに分があるであろう。しかし、その存在感は著者も述べているように、バチカン&聖書同様だ。ゆえに、「ウィンドウズ信者」という言葉は聞いたことがないが、ネット上では「アップル信者」なる言葉も見受けられ、実際、新製品発売前にはアップルストアの前に数か月も前から席を陣取るアップルファンもいるくらいだ。余談であるが、発売初年度1900万台を売り上げた、『iPad』が、過去最大の電子機器売り上げ商品である。

バチカンによる集金力は、「聖書」によるグローバル・ネットワークに限らず、美術館による雇用、近隣の飲食店やホテル、土産物店にまで及ぶ収益といったものが存在する。他方、英国ではチャールズ一世死後、5年間におよそ1300店の美術品セールを鉄騎馬隊で活躍したオリヴァー・クロムウェルは、海軍の赤字残高を減らすため売り払った。民主党が、かつて行った「仕分け」と同様である。芸術品は、存在してこそ意義がある行為を全く無視した結果であった。

さて、本書の趣旨である日本の未来図をバチカンのビジネスモデルを模範しても、無理があり尚且つ、「クール・ジャパン」と言っているマスコミや政治家の方々もお門違いではなかろうか。他国のマスコミが報道するなら別だが・・・辿りつく先は、やはりイノベーションであり、その分野をいち早く見つける。上述したように少子高齢化を危惧するのであれば、ピンチをチャンスと捉えボクは、「医療」にその活路を見出したい。幾多の戦乱、歴史の転換期を生き延び日々生まれ変わる「バチカン」を舞台にした本書は、歴史に学ぶ大切さを教え、カトリックに関しても大いに学習になった。2000年という月日を経て今でもいわば、筋肉を鍛え抜くバチカンから何を学び取るか、とりわけバチカンにご興味のある方には、おススメの書籍でした。

【関連書籍】
03443465_1バチカンの聖と俗-日本大使の一四〇〇日

著者 上野 景文
出版社 かまくら春秋社
発行 2011 07/30