■書評 うわさとは何か-ネットで変容する「最も古いメディア」

26180412_1うわさとは何か-ネットで変容する「最も古いメディア」

著者 松田 美佐
出版社 中公文庫
発行 2014 04/25




《やはり、情報は出所が大事》
著者は、ボクと同年代のコミュニケーション・メディア論の専門で中央大学の特別研究員である。「うわさ」・・ボクの小学校ころだろうか?『口裂け女』のうわさが学校で広まった。その当時は現在のように伊達マスクをする人など少なく、マスクをしている女性を見かけると、もしかして?なんて思ったものである。本書によれば1978年岐阜県で発生したこのうわさは、翌79年には全国の小・中学校のあいだに広まり、対応に追われた警察も少なくなかったようだ。このようなうわさを本書では、専門的に「都市伝説」という。これだけにとどまらず、本書で初めて知ったのだが、五・一五、二・二六事件の舞台となった首相公邸も東京新聞に、靴音、気配、絶えぬ噂「首相公邸の幽霊騒動とは」と記事になっている。(2013.06.02朝刊)

うわさは、時に社会不安を引き起こす。端的な例が東日本大震災の有害物質を含む雨などさまざまなうわさが飛び交じった。コスモ石油の製油所の火災が何度も映像で流され、ツイッターでまず拡散。その後は口コミを交えて拡散した。ここで面白いのは、他人にも伝えたくなる要素が2点含まれていた点であろう。一つは、爆発で有害物質が飛び散り、雨と一緒になって降ってくる点、もう一つは、雨にあたらないよう、傘やカッパの携行を奨める点であった。ここで説得コミュニケーションがものをいう。「有害物質」だけのメッセージだけだと被害を防ぎようがないのだが、しかし、「傘やカッパで雨が身につかなければ大丈夫」となるわけである。結局はチェーンメールとなって広まったという。その意味では、「言葉」ひとつの難しさの教訓でもある。

上述した他にも本書では、デマ、流言、ゴシップ、口コミ、風評、都市伝説を含む事例を数多く紹介し情報との付き合いを方を示した書籍である。ジャン-ノエル・カプフェレは、うわさを「もっとも古いメディア」と呼んだが、本書の最終章では最近の騒動にも言及し、インターネットやモバイルの普及でうわさの広がり方に影響を与えた分析などもなされている。ところで、うわさに踊らされる人は愚かなのか?そうではないと著者はいう。事実関係が定かでない話であっても善意から広まることもある。例えば2003年の佐賀銀行の取り付け騒ぎは、善意のよるもので「不幸の手紙」より「幸福のチェーンメール」であった。それは、①「知りたい」、②「言いたい」、③「つながりたい」の3点である。とりわけ③の「つながりたい」は、ここだけの話という枕詞がつけば、「返報性の規範」が働き相手からの好意に同等かそれ以上のお返しをせずにはいられなく心理が働くという。そして、今度はそれがAさんからBさんへもたらされ、ますます人とのつながりが=関係性が強まるのである。つまるところ人間の欲求を満たし、他者との関係性を強めるがゆえに、うわさは絶えない。

また、本書では東京大学大学院情報環の調査協力を得て、日本人の情報に対する信頼性を精査した。情報源として一番信頼のあるのが、新聞、次いでテレビ、そして、インターネットだ。昨今のビジネスシーンや私生活においてインターネットは必要不可欠となり、信頼できると信頼できないは拮抗している。しかしテレビによるヤラセの横行も顕著だ。よって本書によればニュース・天気予報を参考にする人が一番多い。さらには、2011年8月に行われた「フジTV抗議デモ」は、あの田母神俊雄氏も含め一万人以上が参加したしたデモであったが、マスメディアは都合の悪いことには黙殺することは、肝に銘じておくべきであろう。

うわさを理解するには、まず否定的な見方を改めるべきとし、その上で「あいまいさに耐えつつ、しかも「さまざまな情報を継続的に」接する必要性を説く。通勤本にオススメの書籍であるが、そもそも列車内で読書をするという習慣は、ドイツの歴史学者ヴォルフガング・シェヴェルブッシュによれば鉄道誕生とともに生まれ、目の前の人のとの関係を避けるための習慣であり、それが現在はスマホに置き換わった。

いずれにしても、太古の昔から現在でも、そしてこれからも、情報を伝えるだけではなく、人と人とのつながりを結ぶ、それが、もっとも古いメディアである「うわさ」なのであろう。