■書評 反省させると犯罪者になります

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反省させると犯罪者になります

著者 岡本茂樹
出版社 新潮新書
発行 2013 05/20


《スーパーメジャーリーガー、イチロー選手の大人げない大人の生き方》
衝撃なタイトルということもあり本書を手にした。著者は現在、立命館大学産業社会学部の教授職で、ロールレタリング(後述する)学会の理事長を務め年に約5名ほど刑務所内で更生支援を行っている。

まず、著者の個人的なエピソードから納得させられた。著者は短期間で車の接触事故を2度ほど起こしたそうだ。その時、頭によぎったことは、「あっ面倒くさいなぁ、また保険会社に連絡しなくては・・」事故を起こした著者が100%悪かったそうだが、相手方には当然「申し訳ございません」と真摯に謝る。ここのまず、頭によぎった事。実はこれが犯罪者の心理と同様だという。このケース著者が冷静になって、本当に申し訳なく思ったのは、数日経ってからのことである。このような場面は、皆さまもあるのではないだろうか?ボクは正直ある。
「後悔」が先、「反省」はその後だ。

さて、本書のタイトルにもある「反省」。実はこれが非常に難しい。例えば本書から実際にあったケースを引用すると、母子家庭で育ったB君。中学校でいじめに合い、現金を持ってくるようにイジメ集団に言われ母親の財布から現金を持ち出す。そこで、母親から2度と「お金を持ち出さない」ように反省文を書かされたそうだ。その後、高校に進学するのだが中退。最終的には暴力団に入り「組長」のために人殺しをしてしまう。最悪のケースに至った背景には、母親の財布からお金を盗んだ。ここが問題だったのである。母親は、B君のSOSを見逃しなお且つ、反省文を書かせ逃げ場がなくったのだ。B君は行き詰まり、自分の存在を認めてくれた(実際は利用された)暴力団の組長の本来決して許されない、行為を快く承諾した。

元来、人間は弱い生き物であることが大前提であり、まず反省ありきではなく、その問題行動が起きた時は、何故「この子は、問題行動を起こしたのか?上述の母親の財布からお金を盗んだetc..」その点を周りの人間が一緒になって考えなければならないという。よって上述したB君の反省文はマイナスでしかなかった。そして、この問題行動こそ、B君のようなケースを含め、飲酒・喫煙・万引きなど必要行動なのだ。まずは、決して社会的に許されない問題行動を起こした際の、コミュニケーションの必要性の大切さを著者は説く。

さて、犯罪者のケースはどうであろうか?なかなか塀の内側の実態は、刑務所内で講習をしている著者ですら、その全容はわからないという。しかし行われていることは、当然被害者への罪の償いと二度と同じ過ちを起こさないように、受刑者には、ロールレタリングが行われている。端的に言うと、謝罪文と「相手の立場になって考えなさい」という文面を何回も書かせられるそうだ。その結果は、反省文だけが立派になり刑務官の言われた通りにし、いち早く出所することしか考えていないという。ロールレタリングも使い方次第なわけであるが、再犯受刑者は、「二度目の殺しの方が気持ち的に楽だった」と述べている。

では、受刑者にはどんな更生が有効なのか?更生には終着点がないのだが、「幸せになってもらう」ことだという。例えば幸せになり、もしその子が結婚し子どもを授かれば、本当の「幸せ」の意味・命の尊さ、家族の絆などがわかり、そこで改めて「自分の罪の重さ」を理解し「幸せ」と「償い」の二重の苦しみを背負って生きていくこととなる。

ストレス社会の現在、企業内での上下関係、夫婦、家族等と、とりわけ男は、「強くあらねばならぬ」、「弱音を吐くな」などの躾がなされているのではないでしょうか?繰り返しになるが、人間は本来弱い生き物であり、その上で自分の弱さや愚かさや欠点といった「弱さ」を受け入れる。さらには、「子どもぽっさ」を出せることは、人生を健康的に生きるために、死ぬまで必要であると・・昨今、イジメや体罰の問題が取り立たされているが本書は参考になるのではないかと思う。

本書の最終章は、主にお子様への躾について提言がなされている。いろいろと参考になる箇所もあるのだが、本書の読了後、イチロー選手のグランドでは見せない、日常生活でのあの無邪気な光景が目に浮かんだ。