■書評 オオカミの護符

03495066_1オオカミの護符

著者 小倉美恵子
出版社 新潮社
発行 2011 12/15


月に一冊は読みたい動植物本。今月の主役はオオカミです。
お正月、お盆には大渋滞を覚悟で、ふるさとへの帰省ラッシュが始まり高速道路は30~50キロmの大渋滞は当たり前である。ここに日本人の精神がやはり宿っているのではないかと本書を通して感じた。

著者の生まれ育った場所は、川崎市・土橋。今では「たまプラーザ」まで徒歩で行ける距離でステータスのある住宅街である。著者が生まれた当時は約50世帯、今では7000世帯まで伸びた地域である。お百姓の娘として育った著者は、ひょんなことから家の蔵にある「護符」を見て本書のストーリーが展開する。

そして、まずは武蔵国へと分け入ることになる。歴史を遡ればオオカミは、縄文時代には、実際牙や手足の骨など一部のお守りとして身につける風習があったそうだ。ニホンオオカミは、実は100年以上前に絶滅されたといわれている。その信仰が著者の足元、土橋にて伝統が継続されていることを知りよりエキサイティングになった光景をボクの目に浮かぶ。
御岳山に登頂した著者は、首都圏と武蔵国が2分されていることをはっきりと目にする。「首都圏は都心へ、武蔵国は、山々へ気持ちが向かっている」とそれもそのはずである。山岳信仰の「講」は江戸時代の物見遊山などの娯楽と他方、庶民の間では「山への信仰」が息づいていたのだから・・
オオカミは、作物を荒らすイノシシや鹿を退治する「益獣」として崇められ「オイヌ様」と呼ばれ、前述した「講」に繋がる。

そして、「講」を組んだお山に登る理由(わけ)は、山の神を喜ばせ、一年の無事と豊作・豊漁をお願いするためであるが、この山々は、他にも富士、大山、榛名、戸隠などでも「御師」(先導師)の存在が知られている。しかし、武蔵御嶽神社のみ毎年里山に下りてお札配りをするそうだ。
本書に釣られて無性に「戸隠」に行ってみたいと思った。

この書籍は元々、2008年に文化映画賞文化記録映画優秀賞を獲得してから書籍化された。それに同行したのが、元民族映像研究員の由井氏である。奥秩父の峠を分かち合う信州・川上村の出身だそうだ。川上村といえば、天然記念物「川上犬」。オオカミと犬を交配させた狩猟犬だ。そこでまた繋がりり由井氏本人もビックリしたのではないだろうか?
また、埼玉県・新座市には、本書の表紙と同様のお札が実際に存在しているから驚きだ。
昨今、山登りがブームであるが、お里をじっくり見つめ直す意味で、近所のひょんな疑問から旅も始めるもの粋で新たな発見に巡り会えるかも知れないし、または、違った意味で自分探しになるかもしれないですね。