■書評 魚は痛みを感じるか?

03506347魚は痛みを感じるか?

著者 ビィクトリア・ブレイスウェスト
訳者 高橋 洋
出版社 紀伊國屋書店
発行 2012 02/14


非常にニュートラルでまた不思議なタイトルである。「痛みを感じるか?」当然ボクを含め皆さんも感じると思うという意見が圧倒的だと思う。

実は、本書の趣旨は「動物愛護」の視点からの著者の研究書である。過日札幌市内で、クマが出没し銃殺されたニュースが流れ、それにより約100件もの苦情電話が役所にあったそうだ。そう「かわいそう」ということで・・
この問題も本書に関わってくる。

では、何故著者は「魚」にこだわったのか?アニマル・ライツ=(動物の権利)の線引きを一体どこに引けばいいのか?その研究である。そのために魚に傷害刺激と酸を用いて実験が行われた。
魚を含め傷みを感じると脈拍や呼吸回数が一気に増えストレスホルモンを産出する。食欲すらストレスのために減退するのだ。以前ボクも捻挫した際に、顔面が汗だらけになりその事を思い出した。
また、魚に酸を塗れば、症状が悪化する。人間で言うしみる現象と同じ感覚である。しかも魚は人が使用している鎮痛剤が効くというのだから驚きである。

上記の反応を「侵害受容反応」という。ボク達ヒトは、約1000億個のニューロンから構成され、途方もない情報処理を行っている。魚については、その数は残念ながら解明されていない。
古代アリストテレスは、完全性の度合いにより生物の順位をつけた。まずは人間、温血の哺乳類、冷血の魚類さらにはその下に無脊椎動物(カタツムリ、タコ、イカ)である。

冒頭のクマの銃殺は、ボク達ヒトは他の傷みを共感できる生き物である。だからこそ「かわいそう」と感じるわけであるが、本書の一番の醍醐味はこの感覚についてである。魚の肉を調べればヒトに似た病痛系の神経線維も確認されている。つまりエビやクラゲなども侵害検知力が用いられているわけだ。

また、魚も空間認知、社会認知の心的表象を用いている。本書の趣旨とは、内容が少し逸れるが魚を研究している著者は新たな出来事に出合う。それは、「ハタとウツボ」による協同捕獲である。狩猟犬やオオカミやライオンは集団で協力し狩りをすることは知られているが、今回は種を超えての協同作業である。
これには、ボクも驚きである。

実は、「魚」についてのアニマル・ライツ(動物の権利)の論争は日が浅い、魚の群れの乱獲が頻繁に行われている昨今、感覚をもった動物を対象にする以上、なるべく苦痛を感じさせない方法で魚を取り扱うべきというのが著者の主張ではあり、魚に対する福祉を強調する。著者も魚を実際、食しているわけであるが・・

結局のところ動物の生態系、自然との関わりといい、考え行動ができるのはヒトということであろう。
本書は養殖、動物愛護、立法まで網羅した非常に考え深い書籍でした。
間もなくGWで自然や動物に接する機会もあると思う。
平易な実験結果が記されているのでGWに勧めの書籍です。