■ 書評 パワー・ハングリー  -現実を直視してエネルギー問題を考える

03440826パワー・ハングリー

著者 ロバート・ブライス
訳者 古舘 恒介
出版社 栄治出版
発行 2011 07/25


「再生可能エネルギー問題」の議論が絶えない昨今。2011.12.19の日本経済新聞によれば、コスモ石油が東北沖など日本近海で10基の洋上風力発電事業を開始するそうだ。
そこで、今日はこの書籍をセレクト。

約370ページからなる本書は、これからのエネルギー政策を考える上で極論や思い込みを退け非常に考えさせられる書籍であった。強いていえば、多少アメリカよりの箇所があるのではないだろうか?

著者の考えるエネルギー論点で4つの原則がある。
①「パワー密度」②「エネルギー密度」③「コスト」④「規模」である。
折角なので、まずは風力発電から。本書によれば1メガワットの発電量を得るためには、標準的な天然ガス火力発電所の32倍のコンクリートと139倍の鉄鋼が必要だそうだ。
風力では先進国といえるアメリカは、前述の原則に当てはめれば①のパワー密度と③のコストがネックとなり
④も大陸上であるからネックだ。
ここで、風力発電に関するエピソードをご紹介したい。
5年間で85羽の鳥を殺した容疑で米司法省から起訴されたエクソン・モービルは罰金を払い、他方風力発電業者は、エクソン・モービル社の100倍以上もの鳥の数を殺している。
風力発電業者には、米司法省は告発もしないそうだ。もしかすると「再生可能エネルギー」についての見解を米司法省は完全に誤っている。しかし、ボクは持続可能なことから始まるエネルギー問題の一つ、洋上風力発電を頭から批判するつもりはない。

【貧困層から見るエネルギーの視点】
世界の人口が70億人を突破したことは記憶に新しい。世界人口の約37%はワラ、薪、糞、石炭などの固形燃料を使用している。その結果、WHO(世界保険機関)の調査によれば世界の160万もの人々が、屋内空気汚染のために早死にしている。内インドが50万人といわれている。
また、その影響は、北極や南極の雪と氷は、この黒色炭素の粒子によって地表の日射量が増え人為的影響より、この点で北極の気候変動に影響しているようだ。
ゆえに、環境問題の観点からすると、石炭火力が一番最悪であるということには疑う余地がないようだ。
まずは、「脱石炭」が全世界の課題である。

それでは膨大な調査をもとに、どのエネルギーを著者は現行推奨しているのか?
そう1832年、ニューヨークシティのパークストリートであのトーマス・エジソンが世界初はじめた事業、中央電力発電所。すなわち原子力である。著者の原則①~④はに当てはめれば実に優等生である。
ただし、我が国は地震大国。アメリカやフランスとは事情が違うのであることはいうまでもない。
もうひとつは「天然ガス」である。これをN2Nといい、天然ガスの使用量を増やしつつ、併せて今後20~40かけて原子力を実現していくこと。これが本書の趣旨である。
「枯渇する、枯渇する詐欺」では、ないがボクの小さなころからピークオイルについてはいわれてきた。
これも不透明である。天然ガスについては、新たな「シェールガス資源」が見つかり、一つのエネルギーとして200年以上も在るといわれている。これは、期待が持てそうかもしれない。

最後にエネルギー先進国の代表格、デンマークについて。政府が「グリーン・エネルギー」に補助金を投入し、
電気料金は、約2倍になりCO2排出量も増えている。風力や太陽光の穴埋めをしたのが、実は「石炭」だったのだ。エネルギー先進国でも手探り状態といってもいいだろう。

この書籍を読んでいる間に、BP社は40年以上続けてきた「太陽光」の事業を打ち切り、また日立とリトアニア政府は今月23日に原発建設に合意した。
世界各国どのエネルギーかの極論の決定打はなく、いかに一定規模の再生可能エネルギーの多様化が求め
られ、エネルギー安全保障に資すること第一優先とし、国民の英知と資本を結集し技術革新を促し、世界のトップランナーにならなければならない。それが日本であると思う。