▼書評 『ゲノムが語る人類全史』
ゲノムが語る人類全史
著者 アダム・ラザフォード
訳者 垂水 雄二
出版社 文藝春秋
発行 2017 12/05
《過信は禁物!!》
《ネアンデルタール人は言葉をしゃべったか?? 大学生に対してよく出される質問》
2011年に『遺伝子医療革命』という書籍を読了しましたが、それからゲノム学について最先端でご活躍される方々は、何を知り、まだ何がわからなにのか??大変興味があり、今回は本書をセレクト!!
10年ほど前、二重らせんの発見から50年後に、DNAを解読する能力は著しく改善され、DNAの歴史資料、熟読すべきテキストに姿を変える段階にまで達しました。ゲノムというのは、30億文字からなるボクたちのDNAの総体のことであり、生物学的に謎に満ちた生殖行為によって、両親からDNAが合体する仕組みのゆえに、唯一無二なものです。そして、ミトコンドリアDNAで母系が、Y染色体で父系が辿れます。本書の結論は、
というものです。すなわち、過信は禁物!!ということだろう。著者はロンドン大学ユニヴァ―シティ・カレッジ出身で、眼の発生にかかわる遺伝子(CHⅩ10=チョクス・テン)の研究の進化遺伝学者兼サイエンス・ライターです。本書は知的好奇心溢れる内容で、科学ノンフィクションとして十分に満足できます。この書籍で紹介されているのは、〝DNA〝を使って、過去と過去のさまざまな関係を復元できるものだけをとくに扱っていることであろう。著者自ら23andMeという会社でゲノム解析を行い、全DNA量の確実に2.7%がネアンデルタール人からのものだったそうだ。第一章から前述の話題なども交え、ボク達の祖先はネアンデルタール人と何度もセックスしていたといいます。
そして、第二章では、「農業革命と突然変異」だ。最初のヨーロッパ人は、四万年前にアフリカを出て、ユーラシア中部を経て北上した狩猟採集民で、土着のネアンデルタール人と重なり合い、交配。2つの集団が厳密に隣り合って生活したわけではないが、同じ時に、あるものは狩猟民、あるものは脳個民であったことが、DNAから明らかにされているとのこと。いやはや である。さらには、大人になってミルクを飲んでも正常であられる、「ラクターゼ活性持続症」は、一握りのアフリカ、東南アジアの一部、少数の中東のあいだにも存在するが、現生人類にとって、ミルクでなぜごろごろなのかが現時点でわかっていることが、描写されております。この遺伝子が進化した地点はスロヴァキアを呑み込んで、ポーランド、ハンガリーまでの地域とされる。本書の第二章までお読みいただくと、次の2つの教訓が導かれます。
のだと。ごく最近と言っても、例えば、本書には30万文字が含まれています。もし、地球上に生命が存在した時間の長さをこの書籍で表すと、一つの文字はおよそ一万3000年。ゆえに、現生人類の存続期間は、この本の3行ちょっとほどの長さなのだ。人類の歴史は驚くほど、まだまだ穴だらけということである。さらには、ヒトはおよそ、2万個の遺伝子を持っているが、一つや二つなくたってたいして悪いことはないと思われるかも知れないが、「なぜ背が低い??」本当はその一つによっているのです。現にアイスランド人に12人に一人が持つとされる「機能喪失突然変異」は1000個を超える突然変異であり、それぞれの遺伝子の解明の出発点に立った段階です。この奥深さも進化遺伝学の醍醐味でもあります。
本書で一番興味を惹いたのが、第四章「人種が消滅する日」です。それが、
というものです。生物学的に根本的にボク達の眼を欺くものということです。遺伝学的には、2人の黒人は、黒人と白人の違いよりも、ずっと互いに異なっている可能性の方が大きいといいます。言い換えれば、黒人と白人は身体的な差異は見た目に明らかだが、相違の総量は、2人の黒人のあいだよりもはるかに少ないのであります。
そして、小職は「東アジア」に注目!!耳垢の2つのタイプはメンデル遺伝??「耳垢」には湿性と乾性の2つのタイプがあります。アフリカでは乾性遺伝子が実質的にゼロ。しかし、韓国ではまったくその逆だそうです。遺伝学的には、東アジアの人は地球上のどの地域よりもはるかに高い頻度で乾遺伝子を持つといいます。これが遺伝的浮動、興味深いですよね。さらには、東アジア人特有の遺伝子が毛が太くなること、汗腺の密度が増大すること。とりわけ、耳垢の話は本書で初めて知った次第です。
近年、さまざまなゲノムワイド関連解析が行われています。その結果どうでしょう。大まかに、共通の病気には遺伝的要因があると考えられてきましたが、
だと著者は力説するのです。ゲノムをもとに根絶できた病気は残念ながら、まだありません。しかし、現代人が持つ変異遺伝子の4分の3は、ここ5000年以内に生じていたのです。遺伝学は比較によってなりたつ仕事です、データが多ければ多いほど、描かれる解像度がよくわかるようになる学問です。
著者は、人類遺伝学の今後の進むべき道は、すべての人間の塩基配列を、誕生のときから全部、解読することだと信じています。
人類は探検する種。すべての細胞のなかにもフロンティアがあり、この探検にもボクたちも参加できます。遺伝学、数学、コンピュータ科学、考古学、医者、患者とゲノムの分野の連携が不可欠です。
まずは、本書を手にとってみて下さいませ。
《A:冒頭の答え ネアンデルタール人は言葉をしゃべれた可能性が高い》
そして、本年上半期の注目書籍。著:シューダール・ムカジー『遺伝子ー親密なる人類史上・下』
こちらもおススメです。
因みに、理化学研究所の発表によれば日本人はお酒に弱いように進化したらしいそうです。

著者 アダム・ラザフォード
訳者 垂水 雄二
出版社 文藝春秋
発行 2017 12/05
《過信は禁物!!》
《ネアンデルタール人は言葉をしゃべったか?? 大学生に対してよく出される質問》
2011年に『遺伝子医療革命』という書籍を読了しましたが、それからゲノム学について最先端でご活躍される方々は、何を知り、まだ何がわからなにのか??大変興味があり、今回は本書をセレクト!!
10年ほど前、二重らせんの発見から50年後に、DNAを解読する能力は著しく改善され、DNAの歴史資料、熟読すべきテキストに姿を変える段階にまで達しました。ゲノムというのは、30億文字からなるボクたちのDNAの総体のことであり、生物学的に謎に満ちた生殖行為によって、両親からDNAが合体する仕組みのゆえに、唯一無二なものです。そして、ミトコンドリアDNAで母系が、Y染色体で父系が辿れます。本書の結論は、
遺伝学は確率の科学であり、DNA塩基配列だけにもとづいて予測されたいかなる行為も、私にはリスクが高く、見掛け倒しの失敗になりがちに思える
というものです。すなわち、過信は禁物!!ということだろう。著者はロンドン大学ユニヴァ―シティ・カレッジ出身で、眼の発生にかかわる遺伝子(CHⅩ10=チョクス・テン)の研究の進化遺伝学者兼サイエンス・ライターです。本書は知的好奇心溢れる内容で、科学ノンフィクションとして十分に満足できます。この書籍で紹介されているのは、〝DNA〝を使って、過去と過去のさまざまな関係を復元できるものだけをとくに扱っていることであろう。著者自ら23andMeという会社でゲノム解析を行い、全DNA量の確実に2.7%がネアンデルタール人からのものだったそうだ。第一章から前述の話題なども交え、ボク達の祖先はネアンデルタール人と何度もセックスしていたといいます。
そして、第二章では、「農業革命と突然変異」だ。最初のヨーロッパ人は、四万年前にアフリカを出て、ユーラシア中部を経て北上した狩猟採集民で、土着のネアンデルタール人と重なり合い、交配。2つの集団が厳密に隣り合って生活したわけではないが、同じ時に、あるものは狩猟民、あるものは脳個民であったことが、DNAから明らかにされているとのこと。いやはや である。さらには、大人になってミルクを飲んでも正常であられる、「ラクターゼ活性持続症」は、一握りのアフリカ、東南アジアの一部、少数の中東のあいだにも存在するが、現生人類にとって、ミルクでなぜごろごろなのかが現時点でわかっていることが、描写されております。この遺伝子が進化した地点はスロヴァキアを呑み込んで、ポーランド、ハンガリーまでの地域とされる。本書の第二章までお読みいただくと、次の2つの教訓が導かれます。
①:「私たちはまだ進化しているのか?」現在、それを断定するのは難しい。しかし、ごく近い過去に、進化した事実。それが、ミルクに代表される。
②:遺伝子が文化を変え、文化が遺伝子を変える
のだと。ごく最近と言っても、例えば、本書には30万文字が含まれています。もし、地球上に生命が存在した時間の長さをこの書籍で表すと、一つの文字はおよそ一万3000年。ゆえに、現生人類の存続期間は、この本の3行ちょっとほどの長さなのだ。人類の歴史は驚くほど、まだまだ穴だらけということである。さらには、ヒトはおよそ、2万個の遺伝子を持っているが、一つや二つなくたってたいして悪いことはないと思われるかも知れないが、「なぜ背が低い??」本当はその一つによっているのです。現にアイスランド人に12人に一人が持つとされる「機能喪失突然変異」は1000個を超える突然変異であり、それぞれの遺伝子の解明の出発点に立った段階です。この奥深さも進化遺伝学の醍醐味でもあります。
本書で一番興味を惹いたのが、第四章「人種が消滅する日」です。それが、
いかなる、特定の人間グループについても、「人種」と特定できるような、本質的要素は存在しない。
遺伝学に関係するかぎりでは、人種は存在しない
というものです。生物学的に根本的にボク達の眼を欺くものということです。遺伝学的には、2人の黒人は、黒人と白人の違いよりも、ずっと互いに異なっている可能性の方が大きいといいます。言い換えれば、黒人と白人は身体的な差異は見た目に明らかだが、相違の総量は、2人の黒人のあいだよりもはるかに少ないのであります。
そして、小職は「東アジア」に注目!!耳垢の2つのタイプはメンデル遺伝??「耳垢」には湿性と乾性の2つのタイプがあります。アフリカでは乾性遺伝子が実質的にゼロ。しかし、韓国ではまったくその逆だそうです。遺伝学的には、東アジアの人は地球上のどの地域よりもはるかに高い頻度で乾遺伝子を持つといいます。これが遺伝的浮動、興味深いですよね。さらには、東アジア人特有の遺伝子が毛が太くなること、汗腺の密度が増大すること。とりわけ、耳垢の話は本書で初めて知った次第です。
近年、さまざまなゲノムワイド関連解析が行われています。その結果どうでしょう。大まかに、共通の病気には遺伝的要因があると考えられてきましたが、
ゲノムワイド関連解析の最大の知的貢献は、この仮定がまちがっていたと立証できたこと
だと著者は力説するのです。ゲノムをもとに根絶できた病気は残念ながら、まだありません。しかし、現代人が持つ変異遺伝子の4分の3は、ここ5000年以内に生じていたのです。遺伝学は比較によってなりたつ仕事です、データが多ければ多いほど、描かれる解像度がよくわかるようになる学問です。
著者は、人類遺伝学の今後の進むべき道は、すべての人間の塩基配列を、誕生のときから全部、解読することだと信じています。
人類は探検する種。すべての細胞のなかにもフロンティアがあり、この探検にもボクたちも参加できます。遺伝学、数学、コンピュータ科学、考古学、医者、患者とゲノムの分野の連携が不可欠です。
まずは、本書を手にとってみて下さいませ。
《A:冒頭の答え ネアンデルタール人は言葉をしゃべれた可能性が高い》
そして、本年上半期の注目書籍。著:シューダール・ムカジー『遺伝子ー親密なる人類史上・下』
こちらもおススメです。
因みに、理化学研究所の発表によれば日本人はお酒に弱いように進化したらしいそうです。