▼『蘇生科学があなたの死に方を変える』

蘇生科学があなたの死に方を変える

著者　デイヴィッド・カサレット
訳者　今西　康子
出版社　白揚社
発行　2016　02/24



《死んだ人を蘇らせようとする試みをユーモアたっぷりに描いた》
ご記憶にある方もおられるかも知れない。２００６年１０月、打越三敬氏が六甲山へ登り、骨盤を骨折しそれから２４日後に奇跡的に助かった。世界的にメディアは彼のことを「命の一時停止」、「冬眠状態」と発表し話題となった。

著者は、ペンシルヴェニア大学の医学部の教授であり、その傍ら蘇生科学の研究を行い累計１０００名を超える患者と蘇生科学についての研究に日夜勤しんでいます。本書をご一読いただければ、実際に死ぬことなく、生き返ることを実感でき、さらには、刺激的な筆致で、蘇生科学について解剖されている好書です。科学や医学の進化がここまで来ているのも本書で体験できます。

上述したように、著者は医師でもあるため、その蘇生科学の歴史を顧みボク達ヒトの臓器についても平易に解説されています。例えば、体内の「エネルギーの通貨」といわれるアデノシン三リン酸（ＡＴＰ）という物質を介して体内のエネルギーについてやりとりされます。しかし、細胞内の大量のＡＴＰを貯めておくことはできません。そこで、グルコースと酸素の供給が必須でＡＴＰが作れなくなります。これでは細胞は死に、早晩、人は死ぬことになります。他の臓器に関しても、医学的に非常にためになる事が多いので本書を参考にしてみて下さい。
蘇生といっても、過去のマウス・トゥー・マウス法やショック療法、胸骨圧迫、人工呼吸、薬剤投与ｅｔｃ．．と思い浮かびます。さらに蘇生の歴史を遡れば、喉に羽根をくすぐる、馬の背に身をゆだね、その動きが呼吸運動の代わりになるかどうか試すなどありました。実際に著者は、馬の背に乗り自ら体験を試み、ＣＰＲ（心肺蘇生）などを勇気ある行動も行っております。

そのうえで、１９４９年にニワトリの精子の凍結保存にはじめて成功し、その後科学の発展にともない、ヒトの精子、膵臓の細胞、赤血球、角膜、心臓の弁の凍結保存および解凍ができるようになりました。ここからは、まさに漫画『ドラゴンボール』の世界さながらです。大きな哺乳類の冷凍、人間の凍結保存をし、たとえば１０００年後に凍結から解凍されて出てくることは可能かどうか、真剣に議論されています。しかしながら、このいったん死んで時空を飛び越え、生き返る支持者たちがいます。この支持者たちをクライオノーツといいます。人体凍結保存術（クライオニクス）は、アメリカガエルによって実験したのですが、著者は非常に懐疑的です。

それでは、ＩＣＤ（植え込み型除細動器）はどうでしょう。この臓器は高度な機能を備えており、心臓のリズムを検知して、そのリズムに異常があれば心臓に電気ショックを与えてくれるものです。すでにＩＣＤ（植え込み型除細動器）の植え込み型術は２００９年までに３０万件を超えているそうです。しかし、このＩＣＤに実際にお世話になっている方の発言では、「ショック療法のあるお蔭で命が、助かったと思う反面、四六時中機器を意識し、ビクビクしている」との事。前述の方々は、ペースメーカーを植え込んでいる方よりも生活の質（ＱＯＦ）が低いとする、アンケート調査もあるそうです。

蘇生法の進歩がなければ、外来手術の進歩の実現しなかったのも事実としながらも、もし人体凍結保存術（クライオニクス）で１０００年後に生き返えらなかったら・・・その費用は？？本書をご一読いただければ、ますます「生と死」があいまいになっていることをきっと、うかがい知れるはずです。そして、一人ひとりの生と死の価値感にしても提言されている気がしました。陽は沈みまた昇る当たり前の毎日、何か忘れていました。ボクとしては、今この瞬間をより大切にいきたいと思います。

最新の延命術を本書で是非体験してみて下さいませ。