■書評 ピアニストの脳を科学する -超絶技巧のメカニズム
ピアニストの脳を科学する
著者 古屋 晋一
出版社 春秋社
発行 2012 01/20
《平易でしかも、充実の脳科学書》
「もしもピアノが弾けたなら・・・」そう、この両手を自由自在に操るピア二ストに憧れる。ボクは楽器が大の苦手である。小・中学校とスポーツ三昧だった。
著者は、3歳でピアノを始めたが、練習の過程で手を痛めてしまいプロのピアニストになる夢を断念した。
しかし、天職であったのであろう。自分が手を痛めてしまった原因を探り、世界でもピアノと身体との関連した研究がなされていない事を知り、いわば「音楽演奏科学」の第一人者となった。
よって本書は、脳と身体の関連性が演奏のようなハーモニーであるかのように面白い。
たとえば、1分間に1800回も打鍵する〈バガニー二練習曲〉第6番などは、ピアニストは重力を利用して腕を落下させるなど身体の慣性を利用している。同時に指先よりも、より疲れにくい胴体に近い肩を利用しているそうだ。このような筋肉の利用は、楽器演奏の苦手に人にとってはスポーツで考えるとわかりやすい。
瞬発力を必要とする「速筋」と持続力を必要とする「遅筋」。上記のようなピアニストは後者である。
また、演奏会などとなると2時間にも及ぶ。そこで次に必要になる能力が、巧みな身体制御による「省エネ」である。
プロのピアニストは、最小のエネルギーで最大の効果を引き出している。
ここが本書の一番の読みどころである。
これがまたスポーツと共通するから面白い。まずは、「しなり」。これは、野球のバットスイングと同様だ。
著者の研究によれば、大きな音を鳴らしたいときプロのピアニストは、肩の三角筋が大活躍する。
他方、初心者ピア二ストは、指で音を大きくするらしい。前述した持続力は、剣道の竹刀の角度を変えたり、テニスプレーヤーがラケットにボールが当たる瞬間脇を締めることで、身体の衝撃を逃がしているようにピアニストもそのクッションを利用して打鍵を逃がしていたのです。
そこへ、「脳」がプラスされます。11歳までに練習すればするほどたくさんの情報をより早く脳の中で伝達する能力が備わります。また利き手でない手指を動かすことで、脳部位が大きくなることがわかっています。
よって27の骨と37の筋肉がある手をフル活用され感動する演奏が奏でられるのですが・・
最後に著者も悩んだ問題。ピアニストの三大疫病です。一番問題なのが「フォーカル・ジストニア」と呼ばれる病気です。あのロベルト・シューマンも悩まされた病気ですが、脳の回路が進みすぎて必要のない筋肉まで動いてしまったりと、思い通りに手指を動かせなくなり、腱鞘炎のような痛みを伴わない点です。
これも進化しすぎた脳の弊害かもしれませんね。しかも21世紀になっても音楽家の実に50人に1人の割合ですから本当に深刻です。
音楽家を志すには、、基礎の徹底を呼び掛けています。最新の治療法などは本書でご確認下さい。
いずれにしても、ピアノの演奏というものは、脳と身体の合理的追求の進化であるとこを、著者の追及で事例も
多数でわかりやすい書籍でした。
※それでは、皆さん、手をテーブルに置き、中指だけをトントンと動かして下さい。次に同じように薬指だけをト
ントンと動かしてみて下さい。違いはありますか?
ピアニストの脳を科学する
著者 古屋 晋一
出版社 春秋社
発行 2012 01/20
《平易でしかも、充実の脳科学書》
「もしもピアノが弾けたなら・・・」そう、この両手を自由自在に操るピア二ストに憧れる。ボクは楽器が大の苦手である。小・中学校とスポーツ三昧だった。
著者は、3歳でピアノを始めたが、練習の過程で手を痛めてしまいプロのピアニストになる夢を断念した。
しかし、天職であったのであろう。自分が手を痛めてしまった原因を探り、世界でもピアノと身体との関連した研究がなされていない事を知り、いわば「音楽演奏科学」の第一人者となった。
よって本書は、脳と身体の関連性が演奏のようなハーモニーであるかのように面白い。
たとえば、1分間に1800回も打鍵する〈バガニー二練習曲〉第6番などは、ピアニストは重力を利用して腕を落下させるなど身体の慣性を利用している。同時に指先よりも、より疲れにくい胴体に近い肩を利用しているそうだ。このような筋肉の利用は、楽器演奏の苦手に人にとってはスポーツで考えるとわかりやすい。
瞬発力を必要とする「速筋」と持続力を必要とする「遅筋」。上記のようなピアニストは後者である。
また、演奏会などとなると2時間にも及ぶ。そこで次に必要になる能力が、巧みな身体制御による「省エネ」である。
プロのピアニストは、最小のエネルギーで最大の効果を引き出している。
ここが本書の一番の読みどころである。
これがまたスポーツと共通するから面白い。まずは、「しなり」。これは、野球のバットスイングと同様だ。
著者の研究によれば、大きな音を鳴らしたいときプロのピアニストは、肩の三角筋が大活躍する。
他方、初心者ピア二ストは、指で音を大きくするらしい。前述した持続力は、剣道の竹刀の角度を変えたり、テニスプレーヤーがラケットにボールが当たる瞬間脇を締めることで、身体の衝撃を逃がしているようにピアニストもそのクッションを利用して打鍵を逃がしていたのです。
そこへ、「脳」がプラスされます。11歳までに練習すればするほどたくさんの情報をより早く脳の中で伝達する能力が備わります。また利き手でない手指を動かすことで、脳部位が大きくなることがわかっています。
よって27の骨と37の筋肉がある手をフル活用され感動する演奏が奏でられるのですが・・
最後に著者も悩んだ問題。ピアニストの三大疫病です。一番問題なのが「フォーカル・ジストニア」と呼ばれる病気です。あのロベルト・シューマンも悩まされた病気ですが、脳の回路が進みすぎて必要のない筋肉まで動いてしまったりと、思い通りに手指を動かせなくなり、腱鞘炎のような痛みを伴わない点です。
これも進化しすぎた脳の弊害かもしれませんね。しかも21世紀になっても音楽家の実に50人に1人の割合ですから本当に深刻です。
音楽家を志すには、、基礎の徹底を呼び掛けています。最新の治療法などは本書でご確認下さい。
いずれにしても、ピアノの演奏というものは、脳と身体の合理的追求の進化であるとこを、著者の追及で事例も
多数でわかりやすい書籍でした。
※それでは、皆さん、手をテーブルに置き、中指だけをトントンと動かして下さい。次に同じように薬指だけをト
ントンと動かしてみて下さい。違いはありますか?